日本囲碁ニュース (本因坊戦)

日本の囲碁ニュース・棋戦情報をお伝えします。
日本で行われている囲碁のイベントや棋戦情報を皆様にお伝えします。

囲碁ニュース [ 2023年7月25日 ]

一力新本因坊誕生

 歴史が動いた。一力遼棋聖が、本因坊文裕(井山裕太本因坊)の12連覇を阻止し、初の本因坊位を獲得。二冠となり、名実共に第一人者となった。第78期本因坊戦七番勝負(毎日新聞社など主催)の第7局は、7月19、20の両日、三重県鳥羽市の「戸田家」で行われた。井山は、1勝3敗から2連勝し、さらに直前に打たれた碁聖戦五番勝負の第2局でも一力を倒し、シリーズの流れを制したかと思われた。その勢いのまま、本局1日目は、黒番の井山が優勢を築き、井山が封じた。AIが示す10を越える候補手の全てが「勝率95%」前後の数字を出していたほどだ。一力は「負けを覚悟した」と振り返っている。だが、勝負は単純ではない。両雄の心理面が大きく作用したように思われる。井山は打ち掛けの晩に「封じた手より、もっとよい手に気づいてしまった」という。その後悔が微妙に影響したかもしれない。逆に一力は、「気持ちを切り替え、二日目は雑念なく集中できた」と語った。封じ手は、誰の予想にもない左上の小ゲイマジマリへのツケ。新聞解説の伊田篤史九段は、「黒は上辺の白模様を荒らしさえすれば勝ちやすい形勢です。ただ井山さんは、右辺の黒に寄り付かれるのを心配されたのだと思います。その判断がどうだったのか…」と首を傾げた。その後、左上は井山の読み筋通りに進行するが、上辺の白模様が大きくなっていき、左上の攻防が一段落した時点では、形勢は逆転していた。以降は一力が井山を寄せつけなかった。井山の必死の勝負手にも的確に応じ、井山を無念の投了に追い込んだ。連覇が止まった井山は「よくここまで続けてこれたなという思いはありますが、それはそれ。今回の結果は受け止めなくてはなりません。実力を蓄えて再出発したい」と前を見据えた。一力は、「ホッとしている。最終局で勝てたことは自信になる」と語り、一夜明けた翌朝のインタビューでは「棋士仲間や大勢の方からお祝いのメッセージをいただき、少しずつ実感が湧いています」と笑顔で喜びを語った。

囲碁ニュース [ 2023年7月18日 ]

本因坊戦、最終局へ

 第78期本因坊戦七番勝負(毎日新聞社など主催)の第6局が、7月11、12の両日、山梨県甲府市の「常盤ホテル」にて行われた。第5局までの難戦に違わぬ超難解な戦いの碁となるが、最後は本因坊文裕(井山裕太本因坊)が読み勝ち、逆転で、挑戦者の一力遼棋聖に白番中押し勝ちを収めた。井山は1勝3敗と追い詰められてから2連勝。決戦は最終局にもつれ込んだ。1日目は、右下の黒を取り込んだ井山がやや打ちやすい形勢となる。だが一力も左上で巻き返しをはかり、決め手を与えぬまま打ち掛けた。2日目は、井山が左上の白を逃げ出して、判断の難しい難解な攻防に突入。戦いは中央へと波及していった。左上と中央でそれぞれ井山に有望な進行もあったようだが、これを選択せず、AIは黒優勢を示した。新聞解説の孫喆七段は「左下の黒模様が30目黒地になれば黒勝ちです。30目はできそうですね」と評した。盤上に黒の弱い石はなく、白は左上と中央に、まだはっきり生きていない石を抱えていた。さらに、持ち時間は一力が1時間以上多く残している。控室は「新本因坊誕生か」という空気に包まれた。だが、井山は長考の末に、下辺で、検討陣が誰も予想していなかった手を繰り出した。一力が長考に沈み、まず、残り時間が並んだ。下辺は特大のコウとなるが、一力はこれを放置して左上に襲いかかる。立会いの山下敬吾九段が「ええ!」と思わず大声をあげ、控室は騒然となった。この後、井山は左上をシノギ、両者秒読みの中、下辺の超難解な攻防が再開。互角の戦いに思われたが、一力が見ていない手があったようだ。これが、直後の(AIに指摘されなければわからない)敗着を招き、井山が鮮やかに技を決めて一力を投了に追い込んだ。第7局は、19、20の両日、三重県鳥羽市の「戸田家」で行われる。

囲碁ニュース [ 2023年7月11日 ]

井山、カド番の強さを発揮し、本因坊戦2勝目

 本因坊文裕(井山裕太本因坊)が挑戦者の一力遼棋聖に1勝3敗と追い詰められて迎えた第78期本因坊戦七番勝負(毎日新聞社など主催)の第5局が、7月4、5の両日、京都市の「寂光寺」で打たれた。布石は、白番、一力が研究の手順を進めた。これに井山が力強く応戦し、上辺で早くも険しい攻防に突入する。難解ながら、ほぼ互角に分かれ、「さすがの両者」と検討陣が感心した。本局は左辺がポイントとなった。広く模様を広げた一力が、井山の打ち込みを迎え撃つ。一方、井山は左辺の弱い石を「攻めてこい」とばかりに、手を抜いて実利を先行し、一力の攻めと井山のシノギという展開になった。井山が左辺の大石を巧みにシノぐと、一力は右下の白に焦点を定める。だが、井山が盤石に右下もシノギきって優勢を確定させた。197手まで、逆転のチャンスなしとみて、一力が投了を告げた。井山は「コンディションを整えて、次局も精一杯戦います」、一力は「しっかり振り返って、次に臨みたい」と語った。多忙な両者は1日あけた7日に、井山が棋聖戦Sリーグ(対許家元九段)、一力が王座本戦2回戦(対河野臨九段)を戦い、それぞれ勝利を収めている。本因坊戦の第6局は、11、12の両日、山梨県甲府市の「常盤ホテル」にて行われる。

囲碁ニュース [ 2023年6月27日 ]

一力、本因坊まであと1勝

 本因坊文裕(井山裕太本因坊)が、2連敗の後に1勝を返して迎えた第78期本因坊戦七番勝負(毎日新聞社など主催)の第4局が、6月20、21の両日、大阪府守口市の「ホテルアゴーラ大阪守口」で行われた。終局が午後9時4分、350手に及ぶ大熱戦は、挑戦者の一力遼棋聖が黒番半目勝ちを収め、本因坊奪取まであと1勝とした。一力は第3局に敗れ17連勝が止まった後、本局までの2局にも敗れ3連敗中だったが、「調子はまた上がっている」と宣言して本局に臨んだ。1日目は、左上の鋭い仕掛けから一力がリードを奪うものの、右上の攻防で井山が巻き返す。2日目は、中央の攻防で井山に判断ミスがあったのか、緩着があり、一力が逆転する。AIの勝率は黒の「90%」台を示し、そのまま押し切るかと思われた。だが、終盤に入り、今度は一力に錯覚があったのか、ミスが出てコウが生じる。AIの勝率も一気に白に傾いた。以降は、両者秒読みの中、コウ争いが絡む壮絶なヨセ勝負に突入した。一力のコウダテに好手があり、逆に井山にはミスが続いたようだ。中央にもコウが生じ形勢は不明に。両者一つずつコウを解消した時点ではわずかに井山がリードしていたが、その後に井山のミスを捉えた一力が逆転を果たし、逃げ切った。一力が一気に本因坊奪取を決めるのか、「カド番の鬼」とも呼ばれた井山が必死の巻き返しを見せるのか。注目の第5局は、7月4、5の両日、京都府京都市の「寂光寺」にて行われる。ちなみに両雄は、6月27日の碁聖戦五番勝負第1局、29日の名人戦リーグでも顔を合わせる。

囲碁ニュース [ 2023年6月13日 ]

本因坊文裕、1勝を返す

 本因坊文裕(井山裕太本因坊)に一力遼棋聖が挑戦している第78期本因坊戦七番勝負(毎日新聞社など主催)の第3局が、6月6、7の両日、東京都千代田区の「神田明神」で打たれた。ここまで2連勝の一力は、他棋戦と合わせ17連勝中だったが、井山は「一力さんが今充実しているのは間違いない」としながらも、「(2連敗とはいえ)徐々に良くなっている部分もあり悲観はしていない。こういう苦しい状況でしか得られないものがあります」と、平常心で本局に臨んだ。序盤は、黒番の井山の厚みと一力の実利という展開になった。井山が下辺の白を切断し、前2局同様、険しい戦いに突入した。一力は下辺の攻防を「感触は悪くなかった」と振り返り、戦いが中央に波及したところで1日目が終了した。2日目、井山の封じ手は、中央の戦いをにらみながら、左上に迫る一着だった。中央の白と左上の白を分断する井山の作戦が成功した形となり、黒が逆転する。その後、ヨセ勝負に持ち込むか、戦いで決着をつけるかの岐路で、井山は危険を伴う後者を選択。上辺の白をコウにし、コウ材の多い黒が上辺を仕留めて勝勢になると、一力の必死の勝負手を的確に退け、249手まで黒番中押し勝ちとした。一力は「中盤にミスが多かったので、そのあたりを反省して次局につなげたい」と語り、井山は「内容はともかく、一つ勝てたのはよかった」と笑顔を見せた。一力が3勝目をあげ、本因坊奪取にあと1勝と迫るのか、井山がスコアをタイに戻すのか。注目の第4局は、6月20、21の両日に、大阪府守口市の「アゴーラ大阪守口」にて行われる。

囲碁ニュース [ 2023年6月1日 ]

一力、充実の2連勝

 本因坊文裕(井山裕太本因坊)に一力遼棋聖が快勝して開幕した第78期本因坊戦七番勝負(毎日新聞社など主催)の第2局が、5月28、29の両日、秋田県能代市の「旧料亭金勇」にて行われた。両者は深い読みから次々と積極手を繰り出し、局面が複雑化していく中、最後は一力の判断力が上回り、井山を投了に追い込んだ。「序盤から一手一手が難しかった」と一力、「力みすぎ、一日目の午後は苦しいのかなと思っていた」と井山は振り返った。だが、井山の封じ手から流れが変わり、白番井山の優勢な局面が訪れた。盤上は互いの弱い石が絡まり合う超難解な戦いが続き、中央下辺側の白が取られるが、中央上辺側の大石同士がコウになる。ここで、大石を捨て(コウを譲り)、ヨセ勝負に切り替えた一力の判断力が素晴らしかった。井山の「大石は取れたのですが、左上を連打されて、よく見たら大変な形勢になったと思った。その前に、もう少しいい図がなかったかとは思うのですが、微妙なことが多すぎてわからなかった」というコメントからも難戦ぶりが伺える。黒番中押し勝ちで2連勝とした一力は「途中いろいろ判断に緩みがあったので、そのあたりをしっかり振り返って次局に臨みたい」、井山は「開幕局よりは自分なりに打てた感触があるので、自分なりに準備して次に向かっていきたい」と語った。「緩まずに、最後まで最強に攻め切ることが自分らしさ」と語る一力だが、本局では形勢判断の正確さも見せ、充実ぶりが伺える。公式戦16連勝の記録も、どこまで伸びるか注目だ。第3局は、6月6、7の両日、東京都千代田区の「神田明神」で打たれる。

囲碁ニュース [ 2023年5月23日 ]

一力、本因坊戦開幕局に快勝

 12連覇を期す本因坊文裕(井山裕太本因坊)に一力遼棋聖が挑戦する第78期本因坊戦七番勝負(毎日新聞社など主催)の第1局が、5月18、19の両日、静岡市の「浮月楼」で行われた。お伝えしたように、来期から五番勝負となる本因坊戦にとって、節目のタイトル戦でもある。5月15日に打たれた天元戦本戦準決勝で、対井山戦の連敗を止めた一力は、今年24勝4敗(13連勝中)の勢いに自信も加えて初戦に臨み、井山の大石を仕留める圧巻の会心譜で、164手まで白番中押し勝ちを収めた。ネット解説の高尾紳路九段が、「井山さんは、おそらく局後にAIを使って検討するでしょうが、その際、一力さんのAI候補手との一致率に愕然とするのではないか」と心配するほど、一力の正確な読みと厳しさが印象づけられた一局だった。井山は「今の自分の力なりの碁ではあったので、特に後悔するところはありません」と淡々と振り返り、一力は「まずは一つ勝ててホッとしました。次局に向けてしっかり準備したい」と語った。「自分はこれまで、初戦の勝敗がタイトル獲得か否かに大きく関係している。その意味でも初戦に重きを置く」と語っていた一力にとっては、意味ある一勝だ。第2局は、5月28、29の両日、秋田県能代市の「旧料亭金勇」にて行われる。

囲碁ニュース [ 2023年4月20日 ]

一力、本因坊戦挑戦者に

 井山裕太本因坊への挑戦権をかけた第78期本因坊戦リーグ(毎日新聞社主催)の最終一斉対局が、4月13日に東京都千代田区の日本棋院東京本院で打たれた。注目の一戦は、ここまで6連勝の一力遼棋聖と5勝1敗の芝野虎丸名人の直接対局。芝野が勝てば1敗で並び、両者のプレーオフに進むという状況だった。序盤は互いに研究が尽くされ、早いペースで進行した。黒番の芝野のやや無理気味な仕掛けから難しい局面となった。一力は「中盤の時点では、そんなに自信はなかった」と振り返る。だが、終始的確な打ち回しで芝野の攻めを振り切り、152手まで、一力が白番中押し勝ちを収め、2期連続の挑戦権を全勝で獲得した。一力は、前期の4連敗という苦い経験を「棋聖戦七番勝負にかけすぎ、充電しきれないまま本因坊戦に臨む形となってしまった。七番勝負を1年に何回も戦う体力が、あの時はついていなかった」と振り返る。そして「今期の本坊戦七番勝負は、自分にとってはかなり特別な意味を持つ戦いになる。盛り上げられるようにがんばりたい」と抱負を語った。今期でいったん幕を下ろすことになる「二日制・七番勝負の本因坊戦」という意味でも注目のシリーズとなる。第1局は、5月18、19の両日、静岡市の「浮月楼」で行われる。

囲碁ニュース [ 2023年4月12日 ]

本因坊戦、実施方式の変更

 日本棋院と関西棋院は、4月7日、毎日新聞社主催の「本因坊戦」の実施方式を変更することを発表した。優勝賞金は2800万円から850万円となり、棋戦序列は3位から5位に。タイトル戦は2日制の七番勝負から1日制の五番勝負となり、挑戦者の決定方式も、8人によるリーグ戦から16人によるトーナメント戦となる。七大棋戦の中で最も歴史ある1939年設立の本棋戦の大幅な縮小変更に、囲碁界には大きな衝撃が走った。時代の波を痛切に感じるとともに、新たな時代を創るきっかけにもなってほしい。

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