皆さまは日々、囲碁を楽しんでいらっしゃるでしょうか。もし囲碁愛好家なら、それは素晴らしいことです。というのも、囲碁は人の輪を広げ、一生の楽しみになるだけにとどまらず、脳を活性化し、将来認知症になるのを予防したり、認知症の進行を遅らせたりする効果があることが分かったからです。
今回、弊社の社員Mが東京都健康長寿医療センター研究所の医師で囲碁による認知症予防・進行抑制効果について研究をしている飯塚あいさんに、「囲碁の効用」について詳しくうかがってきました。
第3部:囲碁を一生の生きがいに
医師 飯塚あい さん
東京都健康長寿医療センター研究所所属。囲碁による認知症予防・進行抑制効果について研究をしている。
パンダネット社員 M
インターネット囲碁サロン「パンダネット」の運営や、ペア碁のイベントに関する業務をおこなっている。
( 以下、 飯塚あいさん → 飯塚 / パンダネット社員M → M )
M)2部では碁には汎用性があって上達に終わりがなく、自然な形で脳に良い刺激を与えられるということがわかりました。そこで3部では研究に参加された皆様のご様子や、囲碁を通じた交流についてうかがいたいと思います。先生から見て、研究に参加された皆様は囲碁を楽しんでらっしゃるように見えましたか?
飯塚)はい。研究に参加いただいた後も8割の方が囲碁を続けてくださっていますが、皆さん、日ごとに明るくなってこられているなぁと思います。アンケートでも「没頭するから日常の嫌なことを忘れられる」ですとか「頭を使っている実感が湧く」といった感想を書いてくださる方が多いです。
M)それは素晴らしいですね。私たちとしても、囲碁を続けてくださる方多いというのはとても嬉しいです。
飯塚)そういえば、続けてくださっている方の中にはパンダネットに入会された方もいらっしゃいますよ! 操作が簡単で使いやすいとおっしゃっていました。
M)それは嬉しいです。ありがとうございます!
飯塚)私たちの研究所では体操などの運動や手芸といった他の研究プログラムも同時に行なっていますが、囲碁はとても人気があるんですよ。
M)本当ですか!
飯塚)特に出席率が素晴らしいです。どのプログラムも途中からこられなくなる方はいらっしゃって、出席率は大体が7、8割なのですが、囲碁は98%です。
M)98%ですか!
飯塚)すごいですよね。どれほど体の機能が落ちてもできる、ルールがシンプルだからそれぞれのレベルで楽しめる。ほとんど脱落する人がいないというのは、囲碁の魅力の賜物だと思います。
M)誰でもいつからでもできるんですね。先生のお話しを聞いて、ますます囲碁の魅力を多くの方に知ってもらいたいと思いました。いろいろな方を巻き込んで囲碁を通じた交流ができるといいですね。
飯塚)実は最近、初期研究に参加してくださった方に新たに囲碁を覚える方のサポート役を担っていただいた場合、サポーターとビギナー双方にどのような影響があるか、という研究を行ったんです。そしたら、特にサポーターの方に大きな効果があったんですよ。
M)おもしろいですね。
飯塚)他にも、タブレットで囲碁を学んだ場合と教室で人から教わった場合の比較研究も行いました。その結果、対人で行うというのはとても効果があるとわかったんです(図1)。*1
M)研究でも、人と交流しながら囲碁をした方が、効果があると立証されているのですね。我が社でも今後の取り組みとして、オンライン上であってもビデオをつないで、実際に顔をみて、その場で会話しながら受けられる指導碁や、顔が見える交流戦などを企画していきたいと思っています。飯塚先生はどう思われますか?
飯塚)素晴らしいアイディアだと思います。高齢者の方の中には体が不自由な方も多いですし、そういう形で交流できるのは嬉しいことです。認知機能を高めることはもちろん大切ですが、何よりも大切なことは生きがいを持つことです。囲碁は長く続けられる生きがいになりますから、ぜひ、いろいろな形で共有して、楽しんでいただきたいですね。
M)ところで先生、先生は「ペア碁」についてどう思われますか?
飯塚)あっ、すごく興味深いと思ってます!
M)我が社はペア碁の普及にも力を入れているのですが、ペア碁がもたらす脳への効果はどのくらいあるでしょうか。
飯塚)ペア碁は普通に囲碁を打つよりも負荷が高いと思われます(図2)。相手の手を推論しなければならないし、相手の気持ちを思いやらなければならない。前に申し上げたように、脳に対しては負荷が高ければ高いほど効果があります。ですから、推測ですが、ペア碁は一人で打つ以上の効果が発揮される可能性が高いです。
M)先ほど、人との交流と囲碁を組み合わせるとなお効果があるとおっしゃっていました。その意味でも、ペア碁はいいツールかもしれませんね。
飯塚)そうですね。それに、今ふと思ったのですが、たしかペア碁は勝つと喜び2倍、負けても悔しさ半分と言いますよね。もし、それが脳科学的に実証できたらおもしろいですね。
M)先生、ぜひそれを今後の研究テーマにペア碁を加えてください!
飯塚)ぜひやりましょう(笑)。
M)楽しみにしています! 本日はありがとうございました。
飯塚)ありがとうございました。
<参考文献>
*1 Iizuka A, Suzuki H, Ogawa S, Kobayashi-Cuya KE, Kobayashi M, Inagaki H, Sugiyama M, Awata S, Takebayashi T, Fujiwara Y. Does social interaction influence the effect of cognitive intervention program? A randomized controlled trial using Go game. Int J Geriatr Psychiatry. 2019 Feb;34(2):324-332.
◆ 飯塚(いいづか)あい 医師
所属:東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム
学位:医学博士
資格:日本老年医学会認定老年科専門医、老年科指導医、日本内科学会認定内科医
埼玉医科大学医学部医学科を卒業後、慶應義塾大学医学部大学院(衛生学公衆衛生学教室)にて博士(医学)を取得。現在は東京都健康長寿医療センター研究所にて、主にボードゲーム等の知的活動を活用した認知機能低下抑制プログラムの開発と効果評価や、世代間交流プログラムの開発に関する研究を行っている。専門は老年医学、公衆衛生学。