中国囲碁ニュース

中国の著名な棋戦情報をお伝えします。
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棋声人語 [ 2025年11月12日 ]

夏の新鋭戦 許一笛七段・呉依銘七段が優勝

 2025年7月と8月、中国浙江省嘉興市と江蘇省張家港市で、それぞれ新たな新鋭囲碁大会が創設され、いずれもポイント制の総当たり戦が採用された。若手棋士の対局数が急増しているのは、ここ2年の中国囲碁界の大きな変化である。

 嘉興市は明末清初の囲碁国手である周懶予の故郷である。先賢を記念するため、同市では7月5日から8日にかけて「周懶予杯中国新鋭囲碁オープン戦」が開催された。「新鋭」と名づけられてはいるものの、年齢を問わずアマチュアも参加できる点が非常にユニークである。混合での総当たり戦終了後、プロ男子新鋭・プロ女子新鋭・アマチュアの三部門に分けて順位を決定した。

 11ラウンドの熱戦の結果、許一笛七段(18歳)が10勝1敗でプロ男子優勝を飾り、賞金16万元(約350万円)を獲得した。馬天放8段(33歳)は9勝2敗でアマチュア部門優勝し、賞金8万元(約175万円)を手にしただけでなく、全出場者中でも3位に入る活躍を見せ、多くのアマチュアに希望を与えた。李思璇六段(19歳)は8勝3敗でプロ女子優勝となり、賞金6万元(約130万円)を獲得した。

 8月14日から17日にかけて、「囲碁の郷」として名高い張家港市塘橋鎮で第1回中国プロ女子囲碁青少年争覇戦が開催され、20歳以下の女流棋士40名が出場した。結果、呉依銘七段(18歳)が6勝1敗で優勝を果たし、賞金3万元人民元(約65万円)を獲得した。

図1:嘉興・周懶予杯の対局会場。
図1:嘉興・周懶予杯の対局会場。
図2:塘橋で優勝した呉依銘七段。
図2:塘橋で優勝した呉依銘七段。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年11月4日 ]

楊楷文九段、中国に八年ぶりの春蘭杯をもたらす

 春蘭杯世界囲碁プロ選手権は、中国囲棋協会が1998年に創設した最初の世界囲碁大会である。しかし、中国が初めて優勝を飾ったのは2007年の第6回大会における古力九段(42歳)で、そこまで実に9年を要した。その後、2017年に檀嘯九段(32歳)が第11回を制したものの、韓国の朴廷桓九段(32歳)、申真諝九段(25歳)、卞相壹九段(28歳)が相次いで優勝し、中国棋士は8年間、優勝から遠ざかる時期が続いた。

 第15回春蘭杯は2024年3月に福建省武夷山市で開幕し、12月には海南島・棋子湾でベスト8および準決勝戦が行われた。日本からは芝野虎丸九段(25歳)が出場し、中国のトップ棋士である楊鼎新九段(26歳)と丁浩九段(25歳)を連破し、ベスト4に進出した。日本勢としては22年ぶりの好成績となったが、準決勝戦で朴廷桓九段に惜敗した。

 中国勢は全体として振るわず、世界戦での経験がほとんどない楊楷文九段(28歳)ただ一人がベスト4に残った。しかし、その内容は圧巻だった。彼は1回戦で韓国の朴鍵昊九段(27歳)を破り、2回戦では韓国の第一人者である申真諝九段を鮮やかに撃破。そして、ベスト8では中国の国際戦優勝経験者の李軒豪九段(30歳)を下し、準決勝では前回優勝者の卞相壹九段を撃破するなど、勢いそのままに決勝へと駒を進めた。

 決勝三番勝負は2025年6月20日から23日にかけて広東省深圳市で行われ、三番勝負の前二局を1勝1敗で折り返した。最終局は中盤まで朴九段が優勢と見られた。しかし、終盤で朴九段に年齢による集中力の乱れともいえる連続ミスが出て形勢が逆転。これを逃さず勝ち切った楊九段が、自身初の世界タイトルを手にするとともに、中国に8年ぶりの春蘭杯優勝をもたらした。

 春蘭杯の優勝賞金と準優勝賞金は、それぞれ15万ドル、5万ドル(約2300万円、770万円)である。

図1:決勝会場。
図1:決勝会場。
図2:優勝杯を掲げる楊楷文九段。
図2:優勝杯を掲げる楊楷文九段。

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年10月29日 ]

中国囲碁甲級リーグ、三国赤壁が新スポンサーに

図1:

 これまで自動車、タバコ、携帯電話、不動産といった業界企業がタイトルスポンサーを務めてきた中国囲碁甲級リーグは、2025年の第27回大会で初めて歴史的景勝地からのスポンサーを受けることとなった。そのスポンサーは湖北省赤壁市の「三国赤壁古戦場」景区で、リーグは5月27日に開幕した。

 今シーズンのチーム数は引き続き16チームだが、対局数はこれまでより3分の1減少し、プレーオフも廃止。15ラウンドのシングル・リーグ戦で優勝を決める方式となり、歴代のリーグ史上最も少ない対局数となった。

 囲碁界は長年にわたり中・日・韓の三国が覇を競ってきたが、これはまさに赤壁古戦場での魏・蜀・呉三国鼎立の物語を想起させる。しかし今季は年初のLG杯決勝戦をめぐる論争の影響で、日本・韓国の棋士には参加枠が与えられなかった。

各チームのメンバーは下記の通り:

チーム名 棋士 監督
蘇泊爾杭州 丁浩九段(25)、李欽誠九段(26)、謝科九段(25)、金禹丞九段(21)、韓墨陽六段(17) 汪涛六段(35、兼任棋士)
深圳竜華 時越九段(34)、陶欣然九段(31)、柯潔九段(28)、戎毅八段(30)、沈沛然八段(23) 羅洗河九段(47、兼任棋士)
上海 李維清九段(25)、王星昊九段(21)、張涛八段(34)、黄明宇八段(23) 胡耀宇八段(43、兼任棋士)
成都 党毅飛九段(31)、謝爾豪九段(27)、廖元赫九段(24)、屠暁宇八段(21)、馬逸超六段(27) 宋雪林九段(63)、李亮五段(54)
杭州智力 夏晨琨八段(30)、李昊潼八段(21)、葉長欣七段(18)、王春暉七段(19)、胡子豪六段(18) 郭聞潮五段(36)
重慶 李軒豪九段(30)、楊鼎新九段(26)、何語涵七段(26)、李翔宇六段(27)、傅健恒七段(19) 陳為三段(49)
江蘇 芈昱廷九段(29)、黄雲嵩九段(28)、趙晨宇九段(26)、陳賢八段(28)、於之瑩八段(27)、李思璇六段(19) 丁波五段(55)
深圳聶道 楊楷文九段(28)、辜梓豪九段(27)、彭立堯八段(33)、范胤八段(27)、童弋航二段(17) 張文東九段(56)、李康六段(38、兼任棋士)
浙江 檀嘯九段(32)、許嘉陽九段(25)、童夢成八段(29)、蒋其潤八段(24)、汪雨博五段(29) 藍天四段(35、兼任棋士)
河南 黄昕七段(29)、劉兆哲六段(29)、王澤錦六段(26)、黄静遠六段(25)、徐靖恩六段(18)、馬靖原六段(16) 袁曦四段(61)
貴州 江維傑九段(33)、陳梓健八段(25)、薛冠華八段(24)、張強六段(33)、陳浩六段(31)、陳一純六段(23) 陳盈初段(42)
衢州 柁嘉熹九段(34)、連笑九段(31)、陳玉侬八段(27)、劉宇航八段(24)、丁世雄六段(27)、趙甫軒初段(22) 許頓二段(44)
山東 范廷鈺九段(29)、許皓鋐九段(24)、伊凌涛八段(25)、周子弈六段(17)、涂季康五段(15)、楊宗煜二段(25) 曹大元九段(63)
山西 唐韋星九段(32)、陳正勳八段(26)、王世一八段(24)、張紫良六段(25)、呂立言六段(24)、行泓丞四段(15) 李亜春七段(62)、李魁三段(43)
上海清一 王楚軒七段(19)、許一笛七段(18)、李沢鋭六段(20)、邱禹然六段(16)、王碩五段(21) 劉軼一初段(51)
福建 陳豪鑫七段(21)、鄭載想七段(20)、唐嘉雯六段(21)、李欣宸五段(19)、林子杰五段(17) 馬笑冰四段(37、兼任棋士)、王鷺三段(37)

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年10月12日 ]

中国女子囲碁甲級リーグ、今季は外国人選手不在

図1:

 第12回中信杯中国女子囲碁甲級リーグは5月14日、福建省武夷山市で開幕した。10チーム・計40名の女流棋士が7か月間にわたり、全18ラウンドのダブルリーグ戦を戦う。第1~第3ラウンドは景勝地・武夷山で、第10~第12ラウンドは北京門頭溝区で、第17~第18ラウンドは広東省茂名市で集中開催される。そのほかの10ラウンドはホーム&アウェー方式で行われる。

 年初のLG杯決勝戦で起きた判定をめぐる騒動の影響を受け、今シーズンの中国女子囲碁甲級リーグでは外国人選手の出場枠は設けられず、日本・韓国の棋士はいずれもエントリーしていない。

第12回中信杯中国女子囲碁甲級リーグの各チームメンバーは下記の通り:

チーム名 棋士 監督
成都 陸敏全六段(26)、羅楚玥六段(24)、唐嘉雯六段(21) 張璇八段(57、兼任棋士)
上海 芮乃偉九段(61)、唐奕五段(37)、趙奕斐五段(25)、王香如初段(35) 江鑄久九段(63)、胡耀宇八段(43)
杭州雲林 周泓余七段(23)、方若曦五段(23)、徐海哲四段(17)、鄧佑嘉二段(16) 陳瀟楠四段(36)
広東 陳一鳴五段(32)、黄子萍四段(24)、陳心飏三段(17)、謝佳言初段(13) 廖桂永九段(62)、李華嵩四段(44)
杭州智運 呉依銘七段(18)、高星五段(29)、馮韻嘉四段(18)、馬加特二段(14) 汪涛六段(35)
上海清一 李小渓五段(31)、張子涵四段(31)、丁柯文四段(18)、祝菲鴻三段(18) 劉軼一初段(51)
浙江 汪雨博五段(29)、潘陽四段(28)、厳惜蓦四段(18)、王思尹二段(26) 藍天四段(35)、胡鈺函六段(28)
江蘇 於之瑩八段(27)、王晨星五段(34)、李思璇六段(19)、尹渠四段(23) 丁波五段(55)
山東 王爽五段(30)、李小渓五段(19)、俞俐均四段(26)、曾楚典二段(18) 曹大元九段(63)、陳盈初段(42)
北京 李赫六段(33)、曹又尹四段(38)、張夢瑶四段(21)、魏欣桐三段(19)  

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年9月29日 ]

丁浩九段・周泓余七段ペア、合肥ペア碁で頂点に立つ

 安徽省合肥市が主催する「三国囲碁名人ペア碁戦」は、新型コロナウイルスの影響で4年間休止していたが、2024年に再開。2025年には通算9回目の開催を迎え、昨年と同じく5月7・8日の両日に行われた。

 出場者は、各国とも実力と知名度の両面を考慮して選ばれた。中国からは最盛期を迎えている党毅飛九段(30歳)、丁浩九段(25歳)、王星昊九段(21歳)が、それぞれ唐嘉雯六段(21歳)、周泓余七段(22歳)、於之螢八段(27歳)とペアを組んで出場した。さらに往年の名棋士コンビとして、年初に行われた「農心白山水杯・世界囲碁シニア最強戦」で注目された曹大元九段(63歳)と、中国初代の女流トップ棋士・孔祥明八段(69歳)のペアが出場し、懐かしさと注目を集めた。

 日本からは芝野虎丸九段(25歳)・上野愛咲美六段(23歳)、小林覚九段(66歳)・青木喜久代八段(56歳)の2ペアが参戦し、韓国からは朴廷桓九段(32歳)・呉侑珍九段(26歳)、曹薰鉉九段(72歳)・趙惠連九段(39歳)の2ペアが出場した。

 優勝候補と目されていた朴九段・呉九段ペアは息が合わなかったのか、第1回戦で中国の党九段・唐六段ペアに敗退した。一方、日本の2組は奮闘し、芝野九段・上野六段ペアは王九段・於八段ペアに快勝、小林九段・青木八段ペアは久々の公式戦出場となった曹九段・孔八段ペアに対し、絶体絶命の状況から逆転し、半目勝ちを収めた。

 準決勝では中日対決が実現し、最終的には中国のペアがワンツーフィニッシュを飾った。平均年齢の若い丁浩九段・周泓余七段ペアは、曹九段と趙九段、芝野九段・上野六段、党九段・唐六段を次々と下し、優勝賞金20万元(約400万円相当)を獲得した。

図1:優勝した丁浩九段・周泓余七段ペア。
図1:優勝した丁浩九段・周泓余七段ペア。
図2:対局会場の様子。
図2:対局会場の様子。

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年9月13日 ]

曾渊海五段、呉依銘六段、羅洗河九段が深圳で優勝

 4年に一度開催される中国全国運動会が2025年下半期に広東省で開催されることに伴い、囲碁競技を担当する深圳市は大会運営の負担を軽減するため、3年連続開催となる全国囲碁個人選手権を前倒しし、今年は4月26日から5月4日にかけて男子組・女子組・中年組の計27ラウンド・1212局が熱戦の末に決着した。

 男子組では大波乱が起きた。世界チャンピオンの唐韋星九段(32歳)や、レーティング上位の黄雲嵩九段(28歳)、趙晨宇九段(25歳)が上位18位以内に入ることができず敗退した。注目を集めたのは、2017年にプロ入りした曾渊海五段(22歳)で、これまで目立った成績がなく、非制限棋戦本戦への出場経験もなかったが、今大会では11勝2敗の好成績を収め、 “ダークホース”として初の優勝を飾った。

 女子組では、“小魔女”と称される呉依銘六段(18歳)が期待に応え、9連勝で優勝を果たした。これは彼女にとって国内大会初のタイトル獲得となった。

 中年組は2024年に新設され、45歳以上の棋士が出場する。国際戦優勝経験者である羅洗河九段(47歳)が、方天豊八段(62歳)や芮廼偉九段(61歳)といったベテラン棋士を退け、2連覇を達成した。

 男子組・女子組・中年組の優勝賞金はそれぞれ8万元、4万元、2万元(おおよそ160万円、80万円、40万円相当)である。

図1:男子組優勝の曾渊海五段(右)と準優勝の伊凌涛八段(左、24歳)。
図1:男子組優勝の曾渊海五段(右)と準優勝の伊凌涛八段(左、24歳)。
図2:女子組優勝の呉依銘六段。
図2:女子組優勝の呉依銘六段。
図3:中年組優勝の羅洗河九段。
図3:中年組優勝の羅洗河九段。
図4:江鋳久九段(63歳)と芮廼偉九段(61歳)が16年ぶりに“十八段”対決を公式戦で再現。AIは江九段が優勢と判断したが、江九段本人は不利と判断して投了。大会に一つの話題を残した。
図4:江鋳久九段(63歳)と芮廼偉九段(61歳)が16年ぶりに“十八段”対決を公式戦で再現。AIは江九段が優勢と判断したが、江九段本人は不利と判断して投了。大会に一つの話題を残した。

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年9月2日 ]

王星昊九段、初の天元獲得 国内外で二冠達成

 第39期同里杯中国囲碁天元戦は、2月12日に北京で開幕した。翌13日に行われた三回戦までの予選を経て16人が本戦に進出。続く14、15日には本戦1・2回戦が行われた。

 三十代半ばを迎えた時越九段(34歳)、柁嘉熹九段(34歳)は依然として健在で、それぞれ4連勝・5連勝でベスト8入りを果たした。特に柁九段は、本戦で勢いのある丁浩九段(24歳)や李軒豪九段(30歳)を連破し、大きな話題を呼んだ。また、十代の新鋭・許一笛六段(17歳)と段博尭(15歳)がともに初の本戦入りを果たし、許六段は元天元の羋昱廷九段(29歳)を破る金星を挙げた。

 本戦8強戦から挑戦者決定戦までは、3月3日、4日、6日にかけて実施された。第1回南洋杯世界囲碁マスターズ決勝で申眞諝九段(25歳)に完敗した王星昊九段(21歳)は、その悔しさをバネに、天元戦本戦では楊鼎新九段(26歳)、李欽誠九段(26歳)に勝利し、さらに范胤八段(27歳)、党毅飛九段(30歳)、李維清九段(24歳)を連破して、初の天元挑戦権を獲得した。

 なお、天元戦の主催者のひとつである『新民晩報』は上海のメディアであり、上海出身の王九段が決勝舞台に登場したことは「故郷への凱旋」ともいえる。

 4月26日と28日、第1回北海新繹杯世界囲碁オープンで世界王者の夢を叶えたばかりの王九段は、江蘇省蘇州市同里古鎮で行われた三番勝負に臨み、現天元の連笑九段(31歳)を2勝0敗で下して初の天元位を獲得。天元位と賞金40万元(約800万円)を獲得し、国内外での二冠達成となった。

図1:100名を超える棋士が参加した予選会場の様子。
図1:100名を超える棋士が参加した予選会場の様子。
図2:決勝で王九段が連笑九段を破る。
図2:決勝で王九段が連笑九段を破る。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年8月18日 ]

王星昊九段、初の世界タイトル獲得

 中国広西チワン族自治区北海市政府が主催する新設の世界囲碁大会「北海新繹杯」は、2024年5月に中国地区予選が行われた後、2025年4月10日から18日にかけて、世界各国のトップ棋士64名が一堂に会し、9日間にわたり、優勝賞金180万元(約3600万円)を懸けた熱戦が繰り広げられた。

 この大会のスポンサーである新繹遊船会社は、2016年から2017年にかけて河北省廊坊市で「新奥杯世界囲碁オープン戦」を開催した新奥公司の子会社であり、両大会には一定の継承関係が見られる。この経緯から、中国囲棋協会は当初、2024年の予選で敗退した柯潔九段(27歳)にワイルドカードを与える予定であったが、L G杯決勝をめぐる論争の影響で、彼は出場を辞退した。

 年初から無敵を誇っていた韓国の申真諝九段(25歳)は、韓国ソウルから長旅を経て北海に到着。さらに大会前半3局を終えた後には、観光地として知られる涠洲島に船で渡り、試合会場を変えて残りの対局に臨んだが、準々決勝で中国のベテラン檀嘯九段(32歳)に完敗。これにより、中国棋士がベスト4を独占することとなった。

 その中で最年少の王星昊九段(21歳)は、韓国の偰玹準九段(26歳)、中国の王澤錦六段(26歳)、趙晨宇九段(25歳)、日本の許家元九段(27歳)、そして中国の李維清九段(25歳)、李欽誠九段(26歳)という強敵を次々と撃破。勢いそのままに決勝を制し、ついに自身初の世界タイトルを手にした。

 一方、日本勢も今大会では健闘を見せた。一力遼九段(27歳)と許家元九段が、謝爾豪九段(26歳)、芈昱廷九段(29歳)、丁浩九段(25歳)という3人の国際戦優勝者を破り、12年振りに井山裕太以来となる二人の日本棋士がベスト8入りを果たした。

図1:王星昊九段、優勝トロフィーを揚げる。
図1:王星昊九段、優勝トロフィーを揚げる。
図2:ベスト4を中国棋士が独占。左から李維清九段、王星昊九段、檀嘯九段、李欽誠九段。
図2:ベスト4を中国棋士が独占。左から李維清九段、王星昊九段、檀嘯九段、李欽誠九段。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年8月1日 ]

成都の婿、辜梓豪九段が西南王に

 3月15-16日、年に一度の「西南棋王戦」が四川省成都市の杜甫草堂にて開催された。この伝統ある棋戦は第24回を迎え、四川省、重慶市、雲南省、貴州省の4地域から招待された16名の棋士が出場し、2日間・4ラウンドの早碁で覇を競った。賞金は25万元(約500万円)という厚遇ぶりである。

 2022年に四川出身の女流アマ・羅婵5段と結婚した辜梓豪九段(27歳)は、中国リーグでは深圳チームに所属しているものの、「成都の婿」として本棋戦に特別招待された。その縁を見事に結果で示した。唐韋星九段(32歳)、范廷鈺九段(27歳)、屠暁宇九段(21歳)、丁浩九段(25歳)を次々に破り、妻の故郷で初優勝を果たした。会場は羨望と祝福の空気に包まれた。

 また、西南地区の象徴である古力九段(42歳)は現在、この棋戦にしか出場していない。初戦では四川チームのエース・謝爾豪九段(26歳)を破り、健在ぶりを示した。しかし準々決勝で重慶の後輩・楊鼎新九段(26歳)に敗れた。かつての盟主の健闘に会場からは「宝刀未だ衰えず」との声が上がった。一方、雲南チーム所属の柯潔九段(27歳)は、LG杯決勝の騒動後、各大会への出場を辞退し今大会も不参加となった。

図1:優勝後、妻と喜びのツーショットに収まる辜梓豪九段。
図1:優勝後、妻と喜びのツーショットに収まる辜梓豪九段。
図2:決勝戦の対局風景。
図2:決勝戦の対局風景。
図3:体調不良の聶衛平九段(72歳)に代わって会場の杜甫草堂で解説を務める王元八段(64歳)と張璇八段(56歳)。
図3:体調不良の聶衛平九段(72歳)に代わって会場の杜甫草堂で解説を務める王元八段(64歳)と張璇八段(56歳)。
図4:健在ぶりを見せた古力九段。
図4:健在ぶりを見せた古力九段。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年7月17日 ]

丁浩九段、棋王の座に輝く

 第18回中国囲碁棋王戦は、2024年12月25日、26日に北京市で本戦2回戦が行われ、2025年3月25日~27日に江蘇省無錫市で優勝が決められた。中国のトップ棋士32名による激戦の中、童夢成八段(28歳)、陳耀燁九段(35歳)、金禹丞八段(20歳)、趙晨宇九段(25歳)、范廷鈺九段(28歳)に連勝した丁浩九段(24歳)が初の棋王のタイトルを獲得した。これは、丁九段にとって、三星火災杯世界囲碁マスターズ戦2回、LG杯世界棋王戦、中国囲碁大棋士戦2回、中国囲碁国手戦2回、中国倡棋杯、CCTV杯に続く、通算10回目の棋戦優勝である。

 また、今回敗れた趙九段は、3月中旬に結婚したばかりであったが、幸運を引き寄せられず、これまでのベスト4の壁を越えることはできなかった。范九段も、6年ぶりの棋王奪還とはならなかった。

 中国棋王戦は第17回から賞金が増額され、優勝賞金は25万元、準優勝賞金は8万元(約500万円と160万円)となっている。

図1:決勝戦の様子
図1:決勝戦の様子
図2:優勝杯を手にする丁浩九段
図2:優勝杯を手にする丁浩九段

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年7月11日 ]

中国チーム、初の農心白山水杯世界囲碁シニア最強戦優勝

 韓国・農心社が自社ブランド「白山水」を冠に掲げて開催する特別大会――白山水杯世界囲碁シニア最強戦は、2023年から2024年にかけて第1回大会が行われた。中日韓のレジェンド棋士が顔をそろえ、最終戦ではかつて囲碁ブームを巻き起こした宿命のライバル同士による主将対決となった。日本の依田紀基九段(58歳)がまず中国の聶衛平九段(71歳)を破ったが、続く韓国の劉昌赫九段(57歳)に敗れ、韓国チームが初代王者に輝いた。

 第2回大会も農心杯本戦と並行して開催され、午前はレジェンド戦、午後は現役トップ棋士戦と、ユニークな光景が広がった。各国が2人ずつメンバーを入れ替える中、唯一の女性棋士・芮乃偉九段(60)が初登場。2024年9月、吉林省延辺で行われた初戦から金鐘秀九段(61歳)、依田紀基九段、徐能旭九段(66歳)、小林光一九段(72歳)、曹薫鉉九段(71歳)を次々と破り、圧巻の5連勝を飾った。20年前に男性棋士たちを震え上がらせた“魔女”の再来と称された。

 2025年2月、決勝ステージが上海で開幕。日本チームの主将・武宮正樹九段(74歳)との対局では、芮九段が勝利目前だったが、取り石による一瞬の迷いからまさかの時間切れ。惜しくも連勝は途切れた。しかし、武宮九段が「時間切れは敗北に数えない、続けましょう」と申し出る棋道精神を示したのに対し、芮九段が「規則は規則、負けは負け」と規則を重んじた姿勢もまた、美談として語り継がれることとなった。

 その後、武宮九段は韓国チームの主将・劉昌赫九段に逆転負け。中国チームの2番手として登場した曹大元九段(63歳)が好局を打ち、前回優勝を決めた劉九段を下した。聶衛平九段、兪斌九段(57歳)の出番を待たずして、中国チームは初優勝を決めた。優勝賞金は1億8000万ウォン(約1900万円)。

図1:芮廼偉九段が混戦の末に師叔(師の兄弟弟子)である曹薫鉉九段を破り、5連勝を達成。
図1:芮廼偉九段が混戦の末に師叔(師の兄弟弟子)である曹薫鉉九段を破り、5連勝を達成。
図2:芮廼偉九段が武宮正樹九段との対局で思わぬ時間切れ負けを喫した後、夫の江鋳久九段(63歳)とともに検討。
図2:芮廼偉九段が武宮正樹九段との対局で思わぬ時間切れ負けを喫した後、夫の江鋳久九段(63歳)とともに検討。
図3:聶衛平九段とその息子・孔令文七段(43歳)が、武宮正樹九段と共に対局を検討。
図3:聶衛平九段とその息子・孔令文七段(43歳)が、武宮正樹九段と共に対局を検討。
図4:中国チームが初優勝を飾る。
図4:中国チームが初優勝を飾る。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年7月2日 ]

中国トップ棋士、申眞諝九段に連敗

 2025年1月23日に行われた第29期LG杯世界棋王戦決勝での判定をめぐる騒動を契機に、中韓囲碁関係は急速に冷え込んだ。中国側の強い抗議を受け、韓国が主催する第1回世界最強棋士決定戦は延期となり、韓国棋院は2月初めに「死に石は碁笥の蓋に置かなければならない」というルールの適用を一時停止した。これにより、2月17〜21日に韓国で第26回農心辛ラーメン杯世界囲碁最強戦、ならびに2月26日から28日には中国とシンガポールが共催する第1回南洋杯世界囲碁マスターズが予定通り実施された。

 中国国内では「中国側が被害者」との論調が強まっていただけに、両大会での中国棋士の戦いぶりには大きな期待が寄せられていた。しかし、結果は中国囲碁ファンの期待に反し、農心杯では3人の中国棋士が登場する有利な状況にもかかわらず、李軒豪九段(30歳)が朴廷桓九段(32歳)に逆転勝ちして1勝を挙げたのみであった。李九段と中国チームの主将である丁浩九段(25歳)はいずれも韓国チームの主将・申眞諝九段(25歳)に敗れた。謝爾豪九段(26歳)も芝野虎丸九段(25歳)に敗れ、日本チームに今大会唯一の勝利をもたらした。

 続く南洋杯でも、決勝三番勝負で申九段が中国の王星昊九段(21歳)を2勝0敗で完勝。層の厚い中国囲碁界も、申眞諝九段ひとりに為す術なく沈黙を強いられた。こうした結果を受け、中国囲棋協会は「韓国側がLG杯決勝の再対局や関係審判への処分などの要求に応じなかった」として、第30回LG杯世界囲碁棋王戦にはチームを派遣しないと決めた。中韓囲碁の関係は、一層厳しい局面を迎えている。

図1:丁浩九段を下し、農心杯で主将18連勝の大記録を樹立した申真諝九段。
図1:丁浩九段を下し、農心杯で主将18連勝の大記録を樹立した申真諝九段。
図2:武宮正樹九段(74歳)、兪斌九段(57歳)らが謝爾豪九段と芝野虎丸九段の検討を見守る。
図2:武宮正樹九段(74歳)、兪斌九段(57歳)らが謝爾豪九段と芝野虎丸九段の検討を見守る。
図3:楊楷文九段(28歳)と王香如初段(34歳)が現地で大盤解説を行う。
図3:楊楷文九段(28歳)と王香如初段(34歳)が現地で大盤解説を行う。
図4:第26回農心杯は2024年9月に中国吉林省延辺で開幕。中国チームの先鋒として2連勝していた柯潔九段(27歳)は、優勢の中で時計を押し間違えて金明訓九段(27歳)に時間切れ負けを喫し、。この一局が2025年1月の大きなルール論争の伏線となった。
図4:第26回農心杯は2024年9月に中国吉林省延辺で開幕。中国チームの先鋒として2連勝していた柯潔九段(27歳)は、優勢の中で時計を押し間違えて金明訓九段(27歳)に時間切れ負けを喫し、。この一局が2025年1月の大きなルール論争の伏線となった。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年6月19日 ]

芈昱廷九段、名人戦で4連覇達成

図1:決勝戦現場
図1:決勝戦現場

 中国囲碁界の伝統的な新聞棋戦「囲碁名人戦」は、人民日報が主催する権威ある棋戦である。羋昱廷九段(29歳)は、2018年第31期で連笑九段(30)を破って初の名人を獲得。翌2019年には許嘉陽九段(25)の挑戦を退け防衛、二連覇を達成した。その後、新型コロナウイルスの影響で大会は中断されたが、2023年の第33期で復活。柯潔九段(27)の挑戦を2対1で振り切り、6年越しの三連覇を果たしていた。

 第34期も開催が遅れ、2024年11月8日に深圳で開幕し、2025年1月5日に挑戦者が決定。挑戦権をつかんだのは新鋭・屠暁宇九段(21歳)だった。時代は移り変わり、1990年代生まれの棋士たちが長年トップを占めてきたが、21世紀生まれの新星たちが中国囲碁界に徐々に頭角を現している。屠九段は李軒豪九段(29歳)、謝爾豪九段(26歳)、陶欣然九段(30歳)、李欽誠九段(26歳)、丁浩九段(24歳)といった強豪を連破し、初の大舞台に登場。初のタイトル戦の挑戦権を得た。ファンの間では冗談交じりに「芈九段こそ挑戦者で、屠九段が本命だ」とさえ言われるほど勢いに乗っていた。

 しかし、若さは時に刃にもなる。挑戦三番勝負の場では経験の差や心の揺れが露呈しやすい。7歳年上の羋九段が屠九段に「勝負の厳しさ」を教え諭すかのように、2勝0敗で完勝し、若き挑戦者を圧倒した。見事に名人位4連覇を果たすと同時に、優勝賞金40万元(約800万円)を獲得した。

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年6月8日 ]

王星昊九段、南洋杯ワールドマスターズで準優勝

 2024年11月、囲碁界に新たな歴史が刻まれた。世界棋戦としては初めて中国とシンガポールの両国が共同で主催する「南洋杯世界囲碁マスターズ」が開幕。大会は国際色を意識し、持ち時間にフィッシャー方式を採用。東南アジアからも選手が参戦した。本戦前半の4ラウンドは四川省成都市で行われ、決勝三番勝負は2025年2月26日と28日にシンガポールへ舞台を移して実施された。

 決勝へ勝ち上がったのは、世界最強の呼び声高い韓国の申真諝九段(24歳)と、中国の若き新鋭・王星昊九段(20歳)。申九段は本戦で、范廷鈺九段(28歳)、連笑九段(30歳)、辜梓豪九段(26歳)、党毅飛九段(30歳)といった中国のトップ棋士を次々と退け、圧倒的な存在感を示した。一方の王九段は、王元均九段(27歳)、柯潔九段(27歳)、廖元赫九段(24歳)、李欽誠九段(26歳)を破り、自身初の世界戦決勝進出を果たし、中国囲碁界の未来を担う若手として注目を集めた。

 また、東南アジア地域に焦点を当てた本大会では、日本棋院で入段した曾富康二段(21歳)が母国マレーシア代表として、フィトラR.S.初段(22歳)がインドネシア代表として出場し、国際舞台を彩った。

 決勝三番勝負は申九段が充実した内容で王九段を2-0で下し、通算8度目の国際戦優勝を果たした。韓国の先輩棋士である李昌鎬九段(50歳)や李世石九段(42歳)の記録に迫る勢いを見せている。南洋杯の優勝賞金は25万シンガポールドル(約2800万円)、準優勝は10万シンガポールドル(約1100万円)であった。

図1:32名の出場棋士が紹介された大会プロモーションボード。
図1:32名の出場棋士が紹介された大会プロモーションボード。
図2:決勝に進出した両棋士の記念写真。
図2:決勝に進出した両棋士の記念写真。
図3:対局会場の様子。
図3:対局会場の様子。
図4:南洋杯では初めてフィッシャー方式が導入され、チェスを参考にした音声ガイドなしの時計が使用された。第1ラウンドで朴廷桓九段(31歳)は宿敵・柯潔九段と対局し、勝率90%に迫る複雑な攻め合い戦の最中に時間切れで敗れるという悔しい結果となった。
図4:南洋杯では初めてフィッシャー方式が導入され、チェスを参考にした音声ガイドなしの時計が使用された。第1ラウンドで朴廷桓九段(31歳)は宿敵・柯潔九段と対局し、勝率90%に迫る複雑な攻め合い戦の最中に時間切れで敗れるという悔しい結果となった。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年5月21日 ]

蘇泊爾杭州チーム、囲碁甲級リーグ6度目の優勝を達成

 2024年5月、浙江省湖州市長興県で開幕した「2024楽居楽杯中国囲碁甲級リーグ戦」は、15ラウンドのレギュラーシーズンが10月末に終了し、11月からプレーオフが順次行われた。そして12月30日、童夢成八段(28歳)がエースを務めた民生信用カード北京チームと、王楚軒五段(18歳)ら若手中心の上海清一チームが降格の憂き目にあった。

 一方、申真諝九段(24歳)、連笑九段(30歳)を中心とする蘇泊爾杭州チームと、柯潔九段(27歳)、朴廷桓九段(32歳)の布陣で戦う前年度王者の深圳龍華チームが決勝に進出した。なお、党毅飛九段(30歳)、謝爾豪九段(26歳)ら実力者をそろえる成都チームは悲願の初優勝を目指すもまたしても準決勝で敗退した。

 2025年1月11日と13日にかけて、海南省陵水県の清水湾で行われた決勝では、申真諝九段が朴廷桓九段、柯潔九段を連破する圧巻の内容で、蘇泊爾杭州チームが5対3で勝利。チームはこれで囲甲リーグ通算6度目の優勝を果たした。

 深圳龍華チームは惜しくも連覇を逃したが、中国囲甲リーグでは外国人選手に個人賞が与えられない規定のため、今季無敗だった申九段のチームメイトたちが際立った成績を残せなかったこともあり、最も好成績を残した時越九段(34歳)が最優秀棋士(MVP)に輝いた。彼は囲甲リーグ史上最年長でのMVP受賞となった。

 最多勝利賞・連勝賞は、王星昊九段(20歳)、楊鼎新九段(26歳)、李維清九段(24歳)の3名がそれぞれの活躍により受賞した。

図1:決勝戦会場。
図1:決勝戦会場。
図2:なお2024年シーズンより中国囲甲リーグは外国人選手の対戦回避ルールを撤廃。これにより、多くの韓国棋士が同一リーグ内で対局する機会が生まれた。決勝では、韓国の申真谞九段と朴廷桓九段が対局。申九段が朴九段に対する連勝記録をさらに伸ばす結果となった。ちなみにこの日は朴九段の32歳の誕生日。勝負の厳しさが、皮肉なタイミングで突きつけられた。
図2:なお2024年シーズンより中国囲甲リーグは外国人選手の対戦回避ルールを撤廃。これにより、多くの韓国棋士が同一リーグ内で対局する機会が生まれた。決勝では、韓国の申真谞九段と朴廷桓九段が対局。申九段が朴九段に対する連勝記録をさらに伸ばす結果となった。ちなみにこの日は朴九段の32歳の誕生日。勝負の厳しさが、皮肉なタイミングで突きつけられた。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年4月30日 ]

陳梓健八段、阿含・桐山杯で大活躍

 第25回阿含・桐山杯中国囲碁早碁オープン戦が、2024年10月11日から15日まで北京市で開催された。中国棋院の改装により、予選第1ラウンドから本戦準決勝まで、わずか5日間で9局を戦い抜く日程となった。

 これまでオンライン予選が採用された時期もあったが、今回は初めてすべてのプロ棋士に対面での予選出場が解禁され、従来から認められているアマチュア出場枠も含め、総勢226名がエントリーした。

 早碁は波乱が起きやすい上、連戦となればその傾向はさらに強まる。そんな中、この激戦を乗り越えたのは、陳梓健八段(24歳)と戎毅七段(30歳)の中堅棋士2人。両者は抜群の調子と運を味方に勝ち進んだ。

 陳八段は、廖行文七段(30歳)、李成森七段(25歳)、時越九段(33歳)、沈沛然八段(22歳)を連破して本戦進出。本戦では丁浩九段(24歳)、楊鼎新九段(26歳)、柯潔九段(27歳)といったトップ棋士を次々撃破し、“世界チャンピオンキラー” の異名を欲しいままにした。一方、戎七段も党毅飛九段(30歳)、謝科九段(24歳)といった実力者を下して決勝に進出。

 決勝戦は11月29日、江西省撫州市宜黄県の石巩古寺で開催された。歴史ある古寺の山岳風景に囲まれた荘厳な舞台で、陳八段が完勝し、初優勝を飾った。

 さらに12月26日、千年の古都・陝西省西安市で行われた日中チャンピオン対抗戦では、日本阿含・桐山杯優勝者の一力遼九段(27歳)との複雑な攻め合いを制し、名実ともに現在最も注目される若手棋士の一人となった。

図1:決勝戦の対局。左は陳梓健八段、右は戎毅七段。
図1:決勝戦の対局。左は陳梓健八段、右は戎毅七段。
図2:決勝戦の対局室は石巩禅寺内の書院で行われた。
図2:決勝戦の対局室は石巩禅寺内の書院で行われた。
図3:「八風不動」と刻まれた優勝トロフィーを手にする陳梓健八段。
図3:「八風不動」と刻まれた優勝トロフィーを手にする陳梓健八段。
図4:石巩寺内の扁額「放下」。
図4:石巩寺内の扁額「放下」。
図5:日中チャンピオン対抗戦の会場。
図5:日中チャンピオン対抗戦の会場。
図6:大盤解説には多くの西安の囲碁ファンが集まった。
図6:大盤解説には多くの西安の囲碁ファンが集まった。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年4月2日 ]

李軒豪九段、再び王中王の座に輝く

図1:決勝戦会場。
図1:決勝戦会場。

 2019年に創設された中国囲碁の「王中王争覇戦」は、前年に最も多くの賞金を獲得した8名のタイトル保持者を招待し、「王の中の王」を決定する非常に注目度の高い大会である。2023年の第4回では初めて8名による7回戦総当たり方式が採用され、中国国内でも最高レベルのリーグ戦として話題を集めた。

 2024年7月25日から30日にかけて、浙江省嵊州市で開催された第5回大会では、第1回大会と同じダブル・エリミネーション方式(二敗失格制)に戻し、以下の8名が100万元人民元(約2,160万円)の優勝賞金を懸けて競い合った。

 出場者は、夢百合杯優勝の李軒豪九段(29歳)、三星杯優勝の丁浩九段(24歳)、天元の連笑九段(30歳)、名人の羋昱廷九段(28歳)、大棋士戦優勝の楊楷文九段(27歳)、衢州爛柯杯優勝の党毅飛九段(30歳)、倡棋杯優勝の王星昊九段(20歳)、そして前回優勝の李維清九段(24歳)である。

 2024年に自身初の国際戦優勝を獲得した李軒豪九段は、本大会でも今大会でも抜群の安定感を見せた。丁浩九段、王星昊九段、羋昱廷九段を連破して勝者組の決勝へ進出。決勝では敗者復活から勝ち上がってきた王星昊九段を再び下し、2022年の第3回大会に続き、2度目の「王中王」戴冠を果たした。

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年3月12日 ]

唐嘉雯、女子国手戦初優勝――中国女流囲碁界に新時代の到来

図1:優勝を飾った唐嘉雯女流国手。
図1:優勝を飾った唐嘉雯女流国手。

 中国女流囲碁の伝統的棋戦「女子国手戦」は、2012年に中国・陝西省西安市で創設され、2度開催された後、10年間中断していたが、2023年に陝西省渭南市白水県で第3回大会として復活。於之瑩八段(27歳)が優勝を果たした。そして2024年の第4回大会は、5月に浙江省杭州市で予選が行われ、16名による本戦は9月4日から7日にかけて白水県で開催された。優勝賞金は20万元人民元(約430万円)。

 今回の大会は、中国女子囲碁界の世代交代を象徴する結果となった。これまで長く20世紀生まれの棋士たちが覇権を握ってきたが、本大会をきっかけに、21世紀生まれの新鋭たちが主役へと躍り出た。

 中でも注目を集めたのが唐嘉雯六段(20歳)。本戦で最年少出場の劉子葭初段(13歳)、前回優勝者であり長年王者として君臨してきた於之瑩八段、同世代の最強ライバルである呉依銘六段(18歳)を次々に撃破し、決勝では過去15年にわたり第一線で活躍してきた李赫六段(32歳)を下して、自身初となる棋戦優勝を果たした。

 唐嘉雯六段は線の細い印象とは対照的に、意志の強さは誰にも引けを取らない。ネット上のプロフィールには「明日こそ天下無敵になる」と記されており、上海出身の往年の名手・芮乃偉九段(61歳)、楊暉八段(61歳)、華学明七段(62歳)の系譜を継ぐ有望な後継者と見られている。

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年2月19日 ]

申眞諝九段、ついに衢州爛柯杯を制す

 中国が新たに創設した世界囲碁大会「衢州爛柯杯」。2023年に行われた第1回大会では、世界の頂点を目指して意気込んでいた韓国の申眞諝九段(24歳)が決勝で先勝しながらも辜梓豪九段(26歳)に逆転を許し、苦杯をなめた。

 そして迎えた2024年の第2回大会、本戦出場者数は前年の32名から48名に拡大。申九段は4月、趙晨宇九段(25歳)、張涛八段(33歳)を破り、6月には楊鼎新九段(26歳)、丁浩九段(24歳)を接戦の末に退け、再び辜梓豪九段との決勝戦に駒を進めた。前回優勝者の自動出場制度(いわゆる「シード」)が設けられておらず、2年連続で同じ顔ぶれによる決勝戦が実現するのは、実に30年ぶりのこととなる。

 8月19日と21日に行われた決勝では、申九段は昨年の雪辱を果たすべく落ち着いた打ち回しを見せ、2勝0敗で辜九段を下して初優勝。優勝賞金は180万元人民元(約3,900万円)を手にし、自身7つ目の国際戦優勝となった。

 今大会では、日本の棋士たちの活躍も際立った。井山裕太九段(35歳)は往年の力を取り戻し、ベスト4に進出した。また、女流棋士の上野愛咲美五段(23歳)は、韓国の朴珉奎九段(30歳)と中国の世界チャンピオンである謝爾豪九段(26歳)を連破し、日本囲碁界にとって2024年の躍進を象徴するような成果を残した。

図1:決勝戦の対局の様子。
図1:決勝戦の対局の様子。
図2:対局後、辜梓豪九段の夫人が申真諝九段にツーショットを申し出る様子。
図2:対局後、辜梓豪九段の夫人が申真諝九段にツーショットを申し出る様子。
図3:日本チーム(左から井山裕太九段、謝依旻七段、孔令文七段)が新疆アクス地区ウシュ県の天山烽火台の前で記念撮影。
図3:日本チーム(左から井山裕太九段、謝依旻七段、孔令文七段)が新疆アクス地区ウシュ県の天山烽火台の前で記念撮影。
図4:衢州市とウシュ県は対口支援(姉妹都市協力)関係にあり、「囲碁の聖地」づくりを目指す衢州は、新疆ウイグル族の子どもたちの学校にも囲碁を普及させている。
図4:衢州市とウシュ県は対口支援(姉妹都市協力)関係にあり、「囲碁の聖地」づくりを目指す衢州は、新疆ウイグル族の子どもたちの学校にも囲碁を普及させている。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年2月12日 ]

成都銀行チーム、中国女子囲碁甲級リーグで無敵の優勝

図1:女子囲碁甲級リーグは広西省陽朔市で幕を閉じた。
図1:女子囲碁甲級リーグは広西省陽朔市で幕を閉じた。

 4月に開幕した第11回中信和業杯中国女子囲碁甲級リーグは、4月の安徽省蕪湖市、10月の四川省都江堰市、11月の広西省陽朔市での8ラウンドの集中対局と、10ラウンドのホーム&アウェー方式を経て、11月10日に幕を閉じた。

 陸敏全六段(25歳)、羅楚玥六段(23歳)、趙奕斐五段(24歳)、そして外国人助っ人の呉侑珍九段(26歳)という強力な布陣で挑んだ成都銀行チームは、17勝1敗というリーグ史上最高成績を記録し、初優勝を果たした。昨年の優勝チームである山西チームは大きく調子を崩し3勝15敗と低迷。前回王者から一転、最下位となり降格の憂き目にあった。

 61歳のベテラン・芮乃偉九段が率いる上海星小目チームは序盤こそ苦戦したものの、大会中盤から調子を取り戻し、最終的に準優勝を果たした。周泓余七段(22歳)が率いる杭州チームは3位となった。過去に8回の女子囲碁リーグ優勝経験を持つ江蘇チームは、主将の於之瑩八段(27歳)が不調で、王晨星五段(33歳)は育児に忙しく、若手の台頭不足が重なり、最終的に8位にとどまり、かろうじて残留を決めた。

 女子囲碁リーグの優勝賞金は60万元(約1300万円)、準優勝は30万元(約650万円)、3位は20万元(約430万円)である。羅楚玥六段は最優秀棋士賞と最多勝利賞を獲得し、呉依銘六段(18歳)は最優秀進歩賞、李思璇四段(18歳)は最優秀新人賞を受賞した。

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年2月5日 ]

於之瑩八段、女子名人戦防衛

図1:決勝戦の様子
図1:決勝戦の様子

 人民日報が2019年に再開した中国女子囲碁名人戦は、四川省南充市閬中古城でで二度開催された後、2021年と2022年は中断。2023年には内モンゴル自治区オルドス市へと舞台を移し、於之瑩八段(27歳)が周泓余七段(22歳)を破り名人の座に就いた。2024年は江蘇省宿遷市で開催され、西南から塞北、そして江南へと、まるで中国を巡る形式となっている。ちなみに、優勝賞金は25万元(約540万円)、準優勝は10万元(約210万円)と、前年と同額である。

 第4回中国女子名人戦は、10月20日から30日にかけて浙江省杭州市と江蘇省宿遷市の2カ所で開催された。本戦では、陸敏全六段(25歳)が李思璇四段(18歳)、徐晶琦四段(20歳)、高星五段(28歳)、王晨星五段(33歳)、宋容慧五段(32歳)を次々と破り、初の挑戦権を獲得した。王晨星五段と宋容慧五段は中国女子囲碁界で20年近く活躍を続けており、新世代の台頭が著しい中で、今なお第一線で戦い続けるのは容易ではない。

 三番勝負の決勝戦では、タイトル保持者として待ち構えていた於之莹八段が、2勝0敗で陸六段の挑戦を退け、見事に防衛を果たした。2023年に女子国手戦、女子名人戦、女子個人戦の3冠を独占し、さらに杭州アジア大会の金メダルを獲得するという圧倒的な成績を残した彼女だったが、2024年は彼女の「王朝」が崩壊する年だった。約10年間にわたり中国女子囲碁界を支配してきた彼女は、年末にレーティング1位の座を、若手の唐嘉雯六段に譲ることとなった。現在、於之莹八段に残されたタイトルは、この女子名人戦のみとなっている。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年1月30日 ]

丁浩九段、三星杯ワールドマスターズで連覇

図1:対局会場
図1:対局会場

 2024年は5つの世界囲碁国際戦の優勝者が決まった。各大会の優勝者は以下の通り。

 1月:LG杯——申真諝九段(韓国・24歳)が卞相壹九段(韓国・27歳)を2-0で下し優勝。

 5月:夢百合杯——李軒豪九段(中国・29歳)が党毅飛九段(中国・30歳)を3-1で破り戴冠。

 8月:衢州爛柯杯——申真諝九段(韓国・24歳)が辜梓豪九段(中国・26歳)を2-0で撃破。

 9月:応氏杯——一力遼九段(日本・27歳)が謝科九段(中国・24歳)を3-0で圧勝し、悲願の世界一に。

 そして最後の戦いとなったのは、11月12日から22日に韓国高陽市で開催された三星杯ワールドマスターズである。

 群雄が集う三星杯は、世界で唯一、短期間で一発勝負のトーナメント形式で優勝者を決める国際戦。そのため、毎年ドラマティックな展開が繰り広げられる。1回戦では、韓国の2人の女流棋士、崔精九段(28歳)と金恩持九段(17歳)が注目を集めた。なんと彼女たちは、中国の世界チャンピオン、辜梓豪九段(26歳)と謝爾豪九段(26歳)を撃破するという快挙を成し遂げた。しかも、辜九段は今年の応氏杯で、謝九段は衢州爛柯杯で、それぞれ金恩持九段と上野愛咲美五段(23歳)に敗れており、2024年は女流棋士に苦杯を舐める一年となってしまった。しかし、大会が進むにつれ、崔九段と金九段は中国の丁浩九段(24歳)と謝科九段に阻まれ、結果として、ベスト8のうち中国7人、韓国が1人という圧倒的な構図に。開催国の韓国唯一の希望となった申真諝九段も、準々決勝で丁九段に敗れ、中国棋士がベスト4を独占した。これは三星杯の歴史上、2019年以来2度目の快挙だった。

 昨年の三星杯王者である丁浩九段は、姜東潤九段(35歳)、崔精九段、申真諝九段、金禹丞八段(20歳)を次々に破り、決勝進出を決めた。対するは党毅飛九段。5月の夢百合杯決勝で惜敗した党九段は、この大舞台で再びタイトルを狙った。

決勝三番勝負は接戦となり、両者1勝1敗で迎えた最終局。持ち前の冷静さと終盤の勝負強さを発揮した丁浩九段が、2-1で勝利し、三星杯2連覇を達成した。

 この結果、2024年の世界囲碁国際戦のタイトルは、韓国2勝(申真諝)、中国2勝(李軒豪・丁浩)、日本1勝(一力遼)と、三国が競い合う形となった。AI時代の囲碁は、かつてないほど熾烈な国際戦の時代を迎えている。

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年1月21日 ]

胡耀宇八段、奇跡の戴冠——聶衛平杯を制す

 四川省成都市青羊区で開催された聶衛平杯中日韓囲碁マスターズは、2024年に第6回を迎えた。今年も昨年採用された革新的な方式を継続し、中年組(40歳以上)と青年組(20歳以下)に分かれてそれぞれ各8名が争い、両組の優勝者が最後に決勝戦で激突する方式だ。

 大会は11月16日、17日に、歴史ある杜甫草堂で行われた。11月12日に三星杯ワールドマスターズで敗退した前回優勝者の王星昊九段(20歳)が急にスケジュールが空いたため、最後の一枠として出場することが決まった。もし王九段が出場できない場合は、中国代表選抜戦4位の呉依銘六段(18歳)が繰り上げ出場する予定だった。

 大会が始まると、王星昊九段は福岡航太朗七段(19歳)、鄭載想六段(19歳)、韓友賑九段(19歳)を次々に破り、危なげなく青年組優勝を果たした。一方の中年組では、胡耀宇八段(42歳)が山下敬吾九段(46歳)、睦鎮磌九段(44歳)、古力九段(41歳)を連破し、頂点に立った。

 そして、決勝戦はまさかの「上海囲碁界の師弟対決」に。20歳の若きトップ棋士・王星昊九段と、その師匠的存在である世代の名手・胡耀宇八段の対決は、多くの人が「若手の王九段が勝つだろう」と思っていた。しかし結果は、胡耀宇八段が半目差の逆転勝利を収め、“師恩に報いる一局“となった。聶衛平杯の優勝賞金は20万元、準優勝賞金は15万元(約430万円、320万円)。まさに世代を超えた名勝負だった。

 「石仏」と呼ばれ、かつて囲碁界を席巻した李昌鎬九段(49歳)も出場したが、初戦で旧敵の周鶴洋九段(48歳)に敗北。周九段はここ5年以上、棋戦に出場しておらず、最近は雲南省で囲碁普及を行っている。また、長年韓国国家囲碁チームの総監督を務めた睦鎮碩九段も久々に現役復帰を果たし、初戦では羅洗河九段(47歳)を破り、存在感を示した。

 大会の合間には、聶衛平九段(72歳)と張璇八段(56歳)が、杜甫草堂の歴史ある大樹の下で大盤解説を行った。往年の名棋士たちが一堂に会する貴重な機会となった。

図1:決勝戦会場。
図1:決勝戦会場。
図2:周鶴洋九段は李昌鎬九段に勝利。
図2:周鶴洋九段は李昌鎬九段に勝利。
図3:久々の公式戦に挑んだ睦鎮碩九段、初戦で羅洗河九段に勝利。
図3:久々の公式戦に挑んだ睦鎮碩九段、初戦で羅洗河九段に勝利。
図4:聶衛平九段と張璇八段による大盤解説の様子。
図4:聶衛平九段と張璇八段による大盤解説の様子。

( 記事/写真:易非 )

棋声人語 [ 2025年1月15日 ]

党毅飛九段、誕生日に衢州爛柯杯で栄冠を手にする

図1:決勝戦会場
図1:決勝戦会場

 世界囲碁の聖地を目指す中国浙江省衢州市が、2022年に創設した衢州爛柯杯世界囲碁オープン戦。それ以前から続く国内大会もなお健在だ。2006年に始まり、2年に1度開催されてきた同名の国内版・衢州爛柯杯が、2024年6月12日から17日にかけて第10回大会を迎えた。中国ランキング上位32名の棋士が衢州に集結し、6日間で5回戦のトーナメントを戦い、50万元(約1000万円)の高額賞金をかけた熱戦が繰り広げられた。

 年初の中国天元戦では連笑九段(30歳)が優勝し、夢百合杯世界オープン戦では李軒豪九段(29歳)が制覇するなど、ベテラン棋士たちが囲碁界の主役となっている。そして今回も、党毅飛九段(30歳)と連笑九段の二人がそれぞれ4連勝し、決勝進出を決めた。ここ20年、囲碁界は若手棋士の台頭が著しかったが、この世代が再び頂点を争う展開は、AI時代の進化がもたらした大きな変化として注目された。

 決勝戦が行われた6月17日は、党毅飛九段の30歳の誕生日という特別な一日。夢百合杯で準優勝に甘んじた彼は、雪辱を果たすべく、粘り強く戦い抜いた。終盤、連笑九段の痛恨のミスを見逃さず、半目差という僅差で逆転勝利を飾った。また、所属する四川省囲碁協会からも30万元(約600万円)の特別報奨が贈られ、30歳という節目の誕生日は栄光とともに祝われた。

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

棋声人語 [ 2025年1月7日 ]

姜堰女子囲碁戦が奇跡の復活

 過去に中国で開催されていた女流の世界大会は、江蘇省姜堰市の勝ち抜き戦、浙江省天台市の団体戦、江蘇省蘇州市と福建省福州市の個人戦(穹窿山兵聖杯、呉清源杯)の4大会があった。しかし、コロナ禍の影響により、2020年から2023年までいずれも中断を余儀なくされた。2024年、そのうちの江蘇省姜堰市の「黄竜士杯」が先陣を切って大会を再開することを決め、さらに蘇州市や天台市の世界女子戦も復活に向けて準備が進められているという。

 姜堰市で開催された黄竜士杯は、創設当初は中国・日本・韓国・中華台北の4ヵ国による団体戦として行われ、2012年から2019年までは中国、韓国、日本の各国から5人ずつ参加する勝ち抜き戦形式に変更。2022年に韓国の湖盤社が三国女子勝ち抜き戦を企画し、一度だけ開催されたが、その後、明確な中止の発表はなかった。そして2024年、第10回黄竜士杯世界女子囲碁戦が復活。形式は大きく変更され、中国4名、日本2名、韓国2名の計8名による7回戦の総当たり戦が採用された。優勝賞金は30万元、準優勝賞金は10万元(約600万円、200万円相当)となっている。

 大会は、女子囲碁界で絶対女王とされてきた韓国の崔精九段(27歳)の独壇場になると思われていたが、意外なことに、彼女は初戦で同胞の許瑞玹四段(22歳)に勝利した後、突如として調子を大きく崩し、6連敗という結果で最下位に沈んだ。一方、中国のエース於之瑩八段(26歳)は、国内の代表選抜戦で敗退し、本戦に進むことができなかった。女子囲碁界の勢力図は、大きく変わる兆しを見せている。

 優勝は中国の周泓余七段(22歳)。6勝1敗の好成績で堂々の戴冠となった。唯一、周七段に土をつけたのは日本の上野愛咲美五段(22歳)だったが、最終局で既に優勝争いから脱落していた中国の陸敏全六段(25歳)に敗北。惜しくも優勝を逃した。

最終順位は以下の通り。
1位:中国 周泓余七段(22歳)(6勝1敗)
2位:日本 上野愛咲美五段(22歳)(5勝2敗)
3位:中国 李赫五段(32歳)(4勝3敗)
4位:中国 李小溪四段(18歳)(3勝4敗)
5位:韓国 許瑞玹四段(22歳)(3勝4敗)
6位:日本 藤沢里菜七段(25歳)(2勝5敗)
7位:中国 陸敏全六段(25歳)(2勝5敗)
8位:韓国 崔精九段(27歳)(1勝6敗)

図1:熱戦が繰り広げられた対局会場の様子。
図1:熱戦が繰り広げられた対局会場の様子。
図2:優勝者と準優勝者の記念写真。
図2:優勝者と準優勝者の記念写真。

( 記事:易非 / 写真提供:sinaサイト )

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