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中国囲碁ニュース 2016

棋声人語のバックナンバーをご覧いただけます。

中国からの囲碁ニュースを皆様にお伝えします。

棋声人語 [ 2016年12月28日 ]

2016年中国囲碁甲級リーグ戦/女子囲碁甲級リーグ戦

 12月3日と6日、2016年中国囲碁甲級リーグ戦と中国女子囲碁甲級リーグ戦はそれぞれ重慶市、広東市珠海市にて第22回戦、第18回戦の対局を終わった。両方とも、2015年の覇者が最終ラウンドの前に優勝を確定させた。男子は、蘇泊爾杭州チームが二連覇を果たしたが、女子は天域生態江蘇チームが四連覇を達成した。

 蘇泊爾杭州チームの主なメンバーは助っ人選手の朴廷恒九段(23歳)、李欽誠九段(18歳)、連笑七段(22歳)、邬光亜六段(26歳)、バランスがちゃんとしている。だが、今回の男子甲級の目玉は準優勝チーム雲南保山永子チームの主将柯潔九段(19歳)である。彼は22回戦に全部出場し主将を務めていた。しかも18局に勝利し、最優秀棋士(MVP)、最優秀主将、最多勝利の三つの賞を独占した。ちなみに人気選手賞の一位は連笑であった。その他、チーム成績は三位が伝統の実力チーム中信北京チーム、降格チームは浙江雲林棋禅チームとなった。

 女子甲級では、さらに輝いたスターが出てきた。於之瑩五段(19歳)が18回戦の対局まで全勝し、今までなかった、そして今後もないかもしれない記録を打ち立てた。彼女と王晨星五段(26歳)が組んだ江蘇チームが女子甲級では無敵だということも当たり前だろう。ちなみに、女子甲級では降格となるチームが二つあるのだが、今回は湖南友誼アポロチームと武漢晴川学院チームだった。

 2017年、男女二つのリーグ戦はともに大きな調整が行われる予定である。男子はチーム数が12から14に拡大され、人材交流の新制度も実施される予定である。各チームが一名から二名の棋士を交流に出し、移籍する制度が導入される。女子のほうでは、助っ人制度を解禁し、男子と同じ外国人選手の参戦を許可する予定である。


男子甲級優勝杭州チーム、左一連笑七段、左二張紫良初段(16歳)、左三邬光亜六段、右一郭聞潮五段(26歳)、右三李欽誠九段。左四コーチ汪濤六段(26歳)、右四杭州棋院副院長の杭天鵬四段(39歳)。
男子甲級スポンサー金立グループの副総裁の兪雷(左)が柯潔九段に最優秀棋士賞を授賞。

CCTVスポーツチャンネルは2016中国囲碁甲級リーグの解説を年中生放送。
女子甲級で不敗の於之瑩五段

(記事:楊爍 写真提供:囲碁天地)



2016中国象嶼杯CCTVテレビ囲碁早碁戦決勝戦

決勝戦対局現場

 半年の月日を待ちに待って、11月28日に福建省アモイ市で芈昱廷九段(20歳)と李欽誠九段(18歳)による、2016年CCTV杯テレビ早碁戦の決勝戦が行われた。

 本棋戦は、ランキング上位棋士63名と1名の特別招待女流棋士が出場する。6月の初めに、アモイ、北京で準決勝戦まで行われ、芈昱廷と李欽誠が決勝に進出していた。そして、決勝戦に先行して9月に中国代表として第28回テレビアジア選手権に参加した。そして、当時二段だった李欽誠が優勝し、直接九段に昇段した。芈昱廷はここでは敗退したのだが、別のところで成果を出した。10月に中国棋戦衢州爛柯杯で李欽誠や柯潔九段(19歳)などの強敵に勝ち、1月の竜星戦に引き続き、もう一冠を手に入れた。

 さて、決勝戦は聶衛平九段(64歳)、仇丹雲二段(37歳)によって、CCTVのスポーツチャンネルの生放送で解説された。李欽誠九段は中盤で築いた優勢を最後まで維持することができず、一目半の僅かな差で負けてしまった。芈昱廷九段が今年の三つ目の優勝を手にした。

 これで、2016年中国囲碁界個人棋戦の優勝者が全部決まった。下記の通り:

 芈昱廷:竜星戦、衢州爛柯杯、CCTV杯
 陳耀燁:天元戦
 柯 潔:阿含桐山杯
 黄雲嵩:威孚房開杯
 柁嘉熹:倡棋杯
 范 胤:個人戦
 魯 佳:建橋杯(女子)

 国内棋戦の成果からみると、芈昱廷九段が今年の中国の第一人といえるだろう。だが、中国囲碁界では、ずっと国際棋戦の成績をより重視している。芈九段が今年どの国際棋戦も四強に入ることができなかった。

(写真/記事:楊爍)



第11回春蘭杯世界プロ囲碁選手権

朴永訓九段が柯潔九段に勝利した

 2016年最後の囲碁世界戦は12月20日、22日に江蘇省淮安市で開催された春蘭杯世界プロ囲碁選手権である。中国棋士は2016年の世界大会において活躍が目覚ましい。唐韋星九段(23歳)は第8回応氏杯優勝、柯潔九段(19歳)は21回三星杯優勝、陳燿燁九段(27歳)は第3回百霊杯優勝、それから、周睿羊九段(25歳)と党毅飛四段(22歳)も21回LG杯の決勝進出となった。韓国棋士は2016年では国際試合で一冠もなく、国内棋戦もどんどん少なくなっている難局に陥った。

 3月末に本戦第一回戦と二回戦が終わった第11回春蘭杯でも中国棋士が活躍した。ベスト8の中では韓国棋士は二人しか残っていなかった。12月20日に開かれた八強戦では中国棋士は三人進出したが、韓国棋士はベテラン棋士の朴永訓九段(31歳)だけが四強に入った。

 準決勝戦では、朴永訓九段と柯潔九段がぶつかった。柯九段は世界の囲碁の第一人者と認められている実力者である。だが、2016年に世界戦での優勝を一つも取れなかった朴九段が思いがけない結果を出した。昼の打掛の時にもう優勢を築き、柯九段の猛攻にも落ち着いて対応し、結果、中押し勝ちを収めた。2016年の終わりに、朴永訓九段は韓国囲碁の意地をみせ、今回初めて世界戦の決勝進出を果たした檀嘯七段(23歳)と2017年6月に行われる決勝戦で戦うこととなった。

(記事:楊爍 / 写真提供:sina)



第3回百霊杯世界囲碁オープン戦決勝戦

 柯潔九段(19歳)にとって12月は非常に多忙であった。12月4日に中国囲碁甲級リーグ戦が終わるとすぐ、彼は飛行機で重慶から北京に戻った。そして、5日朝早く飛行機で北京からソウルへ、そこから車で韓国の高陽市に向かった。そこで6,7,8日にわたって開催される三星杯の決勝戦に出場し、柁嘉熹九段(25歳)に逆転優勝した。その日の夜すぐ北京に戻り、9日の朝には北京からすぐ京都へ向かった。11日に阿含・桐山杯日中対抗戦が開催され、河野臨九段(35歳)を勝利した。12日に北京に戻ると、13日には貴州安順へ百霊杯の最終決戦に向かった。

 第3回百霊杯世界囲碁オープン戦決勝戦の五番勝負のうち二局はもう9月のうちに終わっていた。柯潔九段は調子が悪く、陳燿燁九段に二局を取られて、窮地に陥っていた。陳九段は地に辛く、サバキが得意なことでよく知られた実力者であり、柯潔九段が残りの三局を連取することはなかなかに難しいことである。12月上旬の多忙な日程を経て、柯九段にはまだ逆転のチャンスがあるだろうか。

 14日に行われた第3局で、柯九段は複雑な局面で、一石二鳥の一手を打ち、中押し勝ちをもぎ取った。ファンたちに「奇跡が起こるのでは」という希望を与えたが、やはり過酷なスケジュールのためか、16日の第4局では、柯九段は調子が出ずに、五目半の大きな差で負けてしまった。この勝利で陳九段は三年ぶりに世界チャンピオンになった。さらに嬉しいことに、陳九段は今年結婚したばかりで、この日は彼の27歳の誕生日だった。


決勝現場
陳燿燁九段が夫人(23歳)とともに賞杯をあげる

(記事:楊爍 / 写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2016年12月9日 ]

第14回建橋杯中国女子囲碁戦

竜星戦対局現場

「女子は世の中で一番きれいだ」というのは上海建橋グループの理事長周星増(54歳)の名言である。この信念があるゆえ、周星増氏は建橋杯中国女子囲碁戦に14年も賛助し続けてきた。長い間、建橋杯は中国での唯一の女流棋戦である。

 第14回建橋杯予選戦と本戦の第一回戦と第二回戦が8月末に中国北京棋院で行われた。芮廼偉九段(52歳)、李赫五段(24歳)、於之瑩五段(19歳)と魯佳二段(28歳)が準決勝戦に進出した。今年の調子と囲碁愛好者の中での知名度から見れば、今回の決勝戦は30歳も離れている二人の「中国女王」の間で行われると思われていた。だが、予想とは異なり、11月18日に浙江省の嘉興市で行われた準決勝では、芮九段と於五段がそれぞれ魯二段、李五段に負けた。そして、11月20日から22日の間で行われた決勝戦では、魯二段が一、三局を取って、七年ぶりに優勝した。これで魯二段は本棋戦で三度目の優勝となった。建橋杯はいつも過去に優勝したことがある棋士が優勝することが多く、初めて決勝進出を果たした李赫は次のチャンスを待つほかないようである。

 魯佳二段は2001年(平成13年)に昇段した。その時、中国囲碁界はまだ男女問わず大手合でプロ資格を争うことになっていた。2008年(平成20年)、2009年(平成21年)、魯佳は二年連続建橋杯で優勝し、これにより中国のトップ女流棋士になった。2013年(平成25年)、魯佳はプロ棋士周逵四段(30歳)と結婚し、近年はあまり良い成績を残していなかったのが、今回の優勝で棋士の活躍期が人生のどんな段階にもあるということを証明した。

(記事:楊爍 写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2016年12月2日 ]

第8回四維数創杯中国囲碁竜星戦

建橋杯決勝戦

 他国の棋戦に賛助している例は、囲碁界では日本しかない。現在、中国の棋戦では、阿含桐山杯と竜星戦が日本の団体・企業の賛助で行われている。前者(阿含桐山杯)は始まったから20年経過し、後者(竜星戦)も十年の道を歩いてきた。この二つの棋戦で共通なのは、中日両国で同時に棋戦が行われ、年に一度中日で順番に行われる優勝者対抗戦が行われるところだ。

 11月24日、株式会社囲碁・将棋チャンネルの岡本光正社長(51歳)が訪中し、第8回四維数創杯中国囲碁竜星戦の開幕式に出席した。今回、株式会社囲碁・将棋チャンネルとともに協賛するのは中国のハイテク企業「四維数創有限公司」である。それから、今回の本戦は日本竜星戦の制度に参考してパラマストーナメントで実施し、各組優勝者と優勝者を除く最多勝ち抜き者が進出するというルールを採用した。また、各年齢層の棋士に参戦のチャンスを与えられている。予選は20代以下、20代、30代、40代以上及び女子組に分けられている。活躍棋士の人数により、五つの組の本戦進出枠が違うのだが、これにより若い棋士だけでなく、兪斌九段(49歳)、常昊九段(40歳)などの棋士が出場し、より多くの見どころを作ってくれた。

 竜星戦の持ち時間は阿含・桐山杯と同じように、NHK杯のルールを採用しているのだが、早碁の場合、番狂わせが普通に比べより起こりやすいようだ。本選戦では、入段してから大学に入学し、今は卒業した楊啸天四段(26歳)が世界チャンピオン江維傑九段(25歳)を倒し、大番狂わせとなった。そして、新婚の劉星七段(32歳)、王晨星五段(25歳)夫妻が一緒に会場に現れた。劉星は、同世代の黄奕中七段(35歳)、胡耀宇八段(34歳)に連勝し本戦に入った。だが、王晨星は決勝で李赫に敗れ、劉と一緒に本戦入りとはならなかった。

(記事:楊爍 写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2016年11月30日 ]

第7回穹窿山兵聖杯世界女子囲碁選手権

 1993年(平成5年)から、中国、韓国では色々な女子の世界棋戦を行われてきた。団体戦以外、個人がトーナメント戦で優勝を争う棋戦は翠宝杯、宝海杯、興倉杯、東方航空杯、正官杯、大理旅行杯、遠洋地産杯など、たくさんある。だが、回数が穹窿山兵聖杯を超えるものはまだない。蘇州呉中区が主催するこの棋戦が、今年で7回を迎えた。

呉侑珍が決勝戦中
 そして、今年の第7回大会では、棋戦内容が一新された。優勝賞金が30万元(約470万円)に上がった。女子棋戦では相当高い額である。本戦に入り、五日間で四局勝利すると優勝できる。 今回参加した棋士は中国6人、日本3人、韓国3人、中華台北1人、オセアニア1人、ヨーロッパ1人、アメリカ1人であった。1回戦では中国の棋士6人が全員勝ち残った。中国囲碁が優勢を持っている現状でも奇跡とも言えよう。また、日本三人は残念ながら、1回戦敗退となった。

 だが、これはまだ奇跡の始まりに過ぎなかった。韓国の呉侑珍三段(18歳)は、一回戦で不利な形勢に陥っていたが、相手の牛栄子初段(17歳)が秒読みに追われ、1つコウ立てを失い、最後のコウ争いで1つコウ立てが足らなかったため、半目で勝利した。ここから呉三段の幸運の旅が始まった。二回戦、中国の伝説的な女流棋士である芮廼偉九段も優勢を取った状況でミス連発し、半目で敗れた。準優勝戦では、四年前の穹窿山兵聖杯優勝者である李赫五段(24歳)が同じくヨセのコウ争いで一手間違って、再び半目で負けてしまった。それから、決勝戦では、この前中国の劉星七段(32歳)と結婚したばかりの王晨星五段(25歳)も優勢でありながら、急に短絡的になり、呉侑珍三段がもう一度逆転した。このような不思議なストーリーがあり、呉三段の初優勝となった。


「新世代女王」とされる於之瑩五段(19歳)が準優勝戦で同じ江蘇チームの王晨星五段に敗れた。
一回目の敗者が地元の愛好者と組んで、ペア碁戦に出るのは穹窿山兵聖杯の恒例となったイベントである。謝依旻六段(27歳)ペアが黒嘉嘉七段(22歳)ペアに勝って優勝した。

決勝戦当日は謝依旻六段の誕生日なので、ファンからケーキをもらっていた。

(記事:楊爍 写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2016年11月24日 ]

第1回 新奥杯世界囲碁オープン戦

方天豊八段(右)が古力九段と対局中。
王汝南八段(70歳)。張璇八段(49歳)が前列で観戦。

 一般人にとって、三十代はちょうど個人で事業を起こすような時期である。一生の中で、一番いい時がそろそろやってくる。だが、スポーツ選手にとってはそうではない。体力が一番ある年代が二十代であり、三十を超えても活躍し続けるスポーツ選手は珍しい。

 60年前から囲碁は中国政府によりスポーツとされているが、人々の印象では、白髪の年寄りたちが、何十年もの人生経験を生かしてゆったり楽しんでいるゲームだと思われている。この点では、日本の囲碁は最もこの想像にふさわしいかもしれない。しかし、中国の囲碁はもう完全にスポーツ化したので、三十を過ぎたら、棋戦で戦うことができる棋士が少なくなっている。四十、五十代はもういうまでもない。

 だが、意外なことはいつでもあるものだ。2016年11月6日、8日、中国で新しく創立された第1回世界囲碁オープン戦「新奥杯」では、54歳のベテラン棋士方天豊八段が、今トップ棋士の一人古力九段(33歳)と新鋭の舒一笑四段(19歳)に連勝し、16強に入った。方天豊八段は30年前、中国で第一線の棋士であり、1985年(昭和60年)に中国囲碁個人戦で優勝したことがある。第1回新奥杯16強のほかの15人は、方八段が優勝した時、まだ一人も生まれていなかった。これは新奥杯が国際予選で中老年グループ(45歳以上)を設立して以来の最もホットなニュースである。さらにびっくりしたことであるが、今回は長年に棋戦から離れて、北京の何か所の大学で囲碁教師を担当している方天豊八段が初めて参加した世界囲碁棋戦であったということだ。

 11月10日、第1回新奥杯本戦第3回戦で方天豊が四十歳も年下の韓国新鋭の申眞諝六段(16歳)に止められた。そして、申眞諝が唯一8強に入った非中国棋士である。ほかの七人は柯潔九段(19歳)、時越九段(25歳)、周睿羊九段(25歳)、檀嘯七段(23歳)、連笑七段(22歳)、李喆六段(27歳)、彭立尭五段(24歳)。8強戦は2017年4月に行われる予定である。


(記事:楊爍 写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2016年11月10日 ]

第8回応氏杯世界プロ囲碁選手権戦/第13回中国倡棋杯/第6回中国陳毅杯

授賞式

 10月22日、24日、26日、三つの重要な決勝戦が同時に中国上海で開かれた。これらの棋戦は全て応昌期囲碁教育基金会が主催している。1つ目は国際棋戦の「応氏杯」、2つ目は中国国内タイトル戦の「倡棋杯」、最後に中国のアマチュア大会「陳毅杯」である。応氏杯の決勝戦は五番勝負で、第一局と第二局は既に8月に行われていた。また倡棋杯と陳毅杯の決勝戦は、両方とも三番勝負で行われた。

 三つの棋戦が同時に行われたのだが、国際対抗の応氏杯にもちろん焦点がより当たっていた。中国の唐韋星九段(23歳)は、1勝2敗でカド番に追い込まれたが、第4局、第5局を二連勝して挽回した。韓国の朴廷恒九段(23歳)は、40万ドルの優勝賞金に目前にして平常心を失ったせいか、前回に続いて準優勝に甘んじた。唐韋星九段は言動が素直で、形式に拘らないので、中国の愛好者たちに一番庶民的で普通だと思われている世界チャンピオンである。

 また倡棋杯の優勝賞金は45万人民元で、中国国内棋戦の中で一二を争う棋戦である。そして、これは四年に一回行われる応氏杯と偶然同じなのだが、年に一回の倡棋杯でも二年連続で優勝した棋士は、これまで現れていない。第12回倡棋杯で優勝した連笑七段(22歳)は、今年もまた決勝進出を果たしたが、柁嘉熹九段(25歳)に2勝0敗で惨敗した。さらに偶然なのだが、二つの大会でそれぞれ敗れた連笑七段と朴廷恒九段は、同じ中国囲碁甲級リーグ戦の蘇泊爾杭州チームのチームメイトである。そして応氏杯、倡棋杯が終わった二日後、中国囲碁甲級リーグの第14回戦が行われたのだが、ずっとトップだった杭州チームは負けてしまい、順位を三位に落としてしまった。この一週間は杭州が沈黙した一週間だった。

 陳毅杯は中国唯一のトーナメント方式のアマチュア大会である。決勝に進出した王琛7段(24歳)は中国アマチュア四天王の一人である。そして、陳翰祺(16歳)は5月に陳毅杯の決勝戦に進出した後、7月にプロ棋士になった。今回は彼にとってアマチュアとしての最後の一戦である。お別れ試合となった決勝戦に遺憾はなかったようだ。三番勝負の一局目に負けた陳翰祺であったが、あとの二局に連勝し逆転優勝した。陳毅杯の優勝賞金は12万人民元である。


(記事:楊爍 写真提供:sina)

棋声人語 [ 2016年11月2日 ]

第12回無錫威孚房開杯中国囲棋棋王戦

決勝戦会場

 中国囲碁界のプロ棋戦はだいたい五つの種類に分けることができる。1つ目は、中国特有の体制棋戦、団体戦(リーグ戦)、段位戦、個人戦がそれに含まれている。2つ目は新聞棋戦、たとえば、「人民日報」の名人戦、「新民晩報」の天元戦、中央テレビのテレビ早碁戦などがこれにあたる。3つ目は外資による棋戦、日本阿含宗の阿含桐山杯、囲碁将棋チャンネルの竜星戦、以前行われていたNEC主催のNEC杯もこの類に属する。4つ目は国内企業主催の棋戦。会社のリーダーがもともと囲碁愛好者で、彼らが棋戦を創立する形で囲碁に報いている。百霊会社の百霊杯、応氏グループの倡棋杯、建橋グループの建橋杯などである。そして最後は地方政府による棋戦、江蘇省の姜堰市、浙江省の衢州市、江西省の南昌市など、みんな地方政府を後ろ盾にし、囲碁棋戦を支援し続けている。

 無錫威孚房開杯中国囲棋棋王戦を創立した江蘇省無錫市も、最後のグループの1つである。2003年(平成15年)から、秋に8名の棋士を無錫に招待し、優勝をめぐって戦わせる(最初の頃は主催側が棋士を招くという形だったが、いまはランキング上位で2ラウンドの選抜戦を行っている)。挑戦制ではないので、今まで威孚房開杯で連覇を成し遂げた棋士はまだいない。2010年(平成22年)からは、毎年新しい優勝者が誕生している。
 今年も同じ状況だった。8月に北京で行われた予選で二人の世界チャンピオン唐韋星九段(23歳)、柯潔九段(18歳)に連勝した黄雲嵩五段(19歳)は、無錫に来て、檀啸七段(23歳)、江維傑九段(25歳)、芈昱廷九段(20歳)に連勝し、初優勝を果たした。

 ちなみに面白い現象が起きているのだが、今年行われた四つの中国棋戦、優勝や準優勝がドミノのようになっている。天元戦優勝者の陳耀燁九段(26歳)は、阿含桐山杯決勝戦で柯潔九段に敗れ、その柯九段は衢州爛柯杯決勝戦で、芈昱廷九段に負けてしまった。そして芈九段は、威孚房開杯決勝戦で今度は黄五段に負けてしまったのである。


(記事:楊爍 写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2016年10月26日 ]

第6回衢州爛柯杯中国囲棋冠軍戦

 ある木こりが山に入って、柴を刈ろうとした時、山奥で童子が囲碁を打っているところを見かけた。そして、その童子がナツメの核のようなものを彼に含ませた。しばらくして、童子に「まだ立ち去らないの?」と尋ねられ、木こりがふと斧の柄(柯)を見ると腐っているのに気づいた。実は、碁を見ているうちに、世間では百年も過ぎてしまったということなのだが、これが「爛柯」の由来だという。中国の南北朝時代(420年~589年)、任昉の筆記『述異記』に記載がある。人々を夢中にさせ、時間の経過さえ忘れさせる。これが囲碁の魅力である。南北朝時代は、政局が揺れ動いており戦争が絶えずに続いていた。インテリたちもいつ死んでもおかしくない窮地に陥っていた。そんな状況の中、囲碁だけが一時的に快楽を彼らに与え、つらい現実を忘れさせたのだ。これが当時、囲碁が流行っていた理由であろう。

 千年も過ぎた今、囲碁が持っている機能も大きく変わってきた。娯楽の一つから体育の競技になっている。『述異記』に載っている木こりが入った山も「爛柯山」と名付けられ、今の浙江省衢州市にある。2006年(平成18年)以来、衢州爛柯杯中国囲棋冠軍戦が行われてきたのは、この囲碁の伝説を記念し、さらに地方文化を広げる意味も含まれている。

 衢州爛柯杯中国囲棋冠軍戦の賞金は50万人民元(約772万円)、中国国内の棋戦では一番高い。二年に一回の開催で、今年で第6回を迎えた。本戦には32人が参加する。

 1、2回戦は5月に衢州で行われた。10月12日から15日、準々決勝から決勝まで、再度衢州で対局が行われた。今人気の棋士柯潔九段(18歳)が決勝に進出したが、年上の芈昱廷九段(20歳)に敗れてしまった。文字だけを見れば、「爛柯」というのは、苗字が「柯」の棋士にあまり縁起がよくないかもしれない。


芈昱廷九段(左)が柯潔九段を破り、優勝した。
使用した碁笥は衢州磁製
決勝は衢州古建物水亭門で開かれ、
授賞式には、たくさんの観客が集まった。

(記事:楊爍 写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2016年10月19日 ]

第18回中国阿含桐山杯

柯潔を囲むインタビュー

 1999年(平成11年)、68歳の阿含宗管長の桐山靖雄氏が中日囲碁界で同時に阿含桐山杯早碁戦を創立した。そして、毎年、中日両国交替で優勝者対抗戦を行っている。囲碁が中日両国の民衆の生活と密接に関連しているため、阿含桐山杯は長期の民間交流として、両国の友好関係の発展のために特別な意味を持っていると桐山氏は述べていた。

 あっという間に18年が過ぎてしまった。この18年間で、中国阿含桐山杯の優勝者になったトップ棋士は馬暁春九段(52歳)から、周鶴洋九段(40歳)、古力九段(33歳)、朴文尭九段(28歳)、そして去年には新鋭の黄雲嵩五段(19歳)に至り、中国囲碁界はもう五代を経ている。これと同時に、日本も小林光一九段(63歳)から井山裕太九段(27歳)へと、たくさんの変化を経てきた。ちなみに、中日対抗戦は今、中国側が12勝5敗でリードしている。

 2016年8月29日、桐山氏が亡くなった。阿含宗の創立者として、桐山氏は囲碁に対する情熱で中日両国での棋戦を支持してきた。桐山管長が亡くなり、これからの阿含桐山杯はどうなるか。多くの囲碁愛好者がそのことに高い関心を持っているだろう。

 9月29日、第18回中国阿含桐山杯の決勝戦が河北省石家庄市で行われた。歓迎パーティーでは、阿含宗中国事務局局長の史学軍氏が「阿含宗が存在する限り、阿含桐山杯を続けていく。」と表明した。決勝は26歳の陳耀燁九段と19歳の柯潔九段の間で行われた。陳耀燁は先日の第3回百霊杯世界囲碁オープン戦決勝五番勝負で二連勝し、柯潔を窮地に追い詰めているのだが、桐山杯は若者を寵愛しているようだ。今回も含め柯潔は2回決勝戦に進出して、二回とも優勝したのだが、陳耀燁は三回も決勝戦に進出したのだが、三回とも準優勝に甘んじている。

 第18回阿含桐山杯日中決戦は今年の12月に京都で行われる予定。柯潔九段が、日本の趙治勲九段(60歳)と河野臨九段(35歳)の勝者と対戦する。

(記事:楊爍 写真提供:囲碁天地雑誌社)

棋声人語 [ 2016年10月12日 ]

2016年中国囲碁個人選手権

 1956年(昭和30年)に設立された中国囲碁個人戦は、2016年(平成28年)に60年目を迎えた。中国棋界での一番古い棋戦だが、個人戦には賞金もなく、試合日程も長いため、ランキング上位20位の棋士の中には個人戦には参加する人がいない。そのようなこともあり、個人戦は中国棋界で長年冷遇されている。

 中国棋界で唯一だった個人戦は何度かの改革を経て、2004年(平成16年)から徹底的に若い棋士のための試合になっている。試合は男子甲組、男子乙組、女子組の三つに分けられている。応募した男子棋士はランキング順位の順で上位48名は甲組で(前の年の乙組の上位六名も含まれる)、女子組と同じようにスイス式9回戦をする。乙組は48位以下の応募棋士で、スイス式10回戦をする。ちなみに、今年の男子棋士には世界優勝者や国内優勝者はいない。

 だが、このような厳しい条件のもとで、今年の個人戦では注目に値するところもいくつかあった。范胤五段(18歳)は、九戦全勝で優勝した。これは個人戦の歴史では結構珍しい例で、自身の実力と体力を証明してくれた。そして、もっと注目すべきところは范胤が中国囲碁国家チームに召集され、訓練を受けたことがないことだ。これは、個人戦歴代の優勝者のなかでは、さらに珍しいことである。このような優勝者は彼より以前には、1985年(昭和59年)の方天豊(54歳、現八段)、2007年(平成19年)の張立(28歳、現六段)、2008年(平成20年)の孫騰宇(23歳、現七段)の三人だけだった。

 女子組でずっとリードしていたのは王晨星(25歳)、彼女は10月5日に劉星七段(31歳)と結婚式を挙げる予定であるが、残念ながら、最後の2局で連敗を喫し、優勝は李赫五段(24歳)に奪われた。男子乙組の優勝は楊一三段(21歳)である。ちなみに、中国棋界では、楊一が三人もいる。一人は重慶棋院院長の楊一(58歳)、古力九段(33歳)などの有名棋士を育ててきた。そして四川棋士の楊一六段(32歳)、最後にもう一人はこの河北棋士の楊一である。今回の団体戦は、彼の初めての全国優勝であった。


2016年中国囲碁個人戦が9月15日―26日に
浙江省杭州市簫山区で行われた。
男子甲組で優勝した范胤。

男子乙組で優勝した楊一。
指輪をつけて参戦していた王晨星。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2016年10月3日 ]

第3回百霊杯世界囲碁オープン戦決勝戦 第1、第2局

対局現場

 いままでの何十年間、中国の囲碁大会はほぼ体育館の館内で行われてきた。これは中国社会で囲碁が「スポーツ」として定義されていたからである。それに対して、この十数年、韓国の棋戦はだいたいテレビのスタジオで行われた。しかも、視聴者のために、時間はほとんど夜である。そして、中日韓の三国の中で、囲碁の「自然」という本性を十分発揮させているのは、やはり日本だろう。日本の重要な棋戦は大体風景がきれいで優雅なところで行われる。棋士、記者、観客、誰でもゆったりとして愉快である。

 しかし、試合中、その美景を楽しめるのは、対局が終わった時、あるいは室内から眺める時ぐらいしかなく、屋外で試合を行うことはめったにない。だが、9月20日、22日、中国が主催する第3回百霊杯世界囲碁オープン戦の決勝戦の第1局と第2局は、破天荒的に屋外で行われた。

 第3回百霊杯の準決勝戦は、8月の末、貴州省貴陽市で行われたのだが、中国と韓国、それぞれ二名の棋士が残っていた。そして、中国プロ棋士ランキング一位、二位の柯潔九段(18歳)、陳耀燁九段(26歳)が韓国の元晟溱九段(31歳)、申真諝六段(16歳)にそれぞれ勝ち、中国が実質的に優勝、準優勝を収めることとなった。決勝の第1局、第2局は雲南省プーアル市梅子湖のそばで行われた。プーアル市はプーアル茶の産地として知られていて、中国の西南のほうにある。ちょうど初秋の時期で、風光が素晴らしくて、ところどころやさしい緑に覆われている。

 ちょっと意外なことに、この一年、各試合で優れた成績を出して、よく仰天発言によりネットで話題を呼んでいる柯九段だが、こんな美しい環境に囲まれても具合があまり順調ではないようで、陳九段に二連敗して、窮地に追い込まれた。決勝五番勝負の第3局以降は12月中旬に貴州省安順市で行われる予定である。

(記事:楊爍 写真提供:『囲碁天地』)

棋声人語 [ 2016年9月29日 ]

二段から九段に

アジア杯

 2002年(平成14年)、中国棋士の国際棋戦での成績を向上させる目的で、中国囲碁協会は、通常の昇段戦以外で特別に昇段が認められる「昇段奨励条例」を制定した。国際棋戦で優勝した棋士は、直接九段に昇段できる。準優勝を二回した場合でも、九段に昇段できることになっている。テレビ囲碁アジア選手権も昇段規定の対象となっている。

 制定から十四年が過ぎた現在、昔のように国際棋戦で中国の棋士たちが、なかなか優勝できないという状況ではなくなっている。そして制度自体は「農心杯」や女流の「穹窿山兵聖杯」などの団体戦関連で条例が増えた以外は特に変わりはない。この十四年間、世界の囲碁界は大きく変わってきた。選手権戦は数がだんだん減少してきている一方、誰でも参加できるオープン戦は流行してきている。中国囲碁協会は世界囲碁オープン戦で優勝した棋士の九段昇段を黙認している。2013年の唐韋星(23歳)、2014年の柁嘉熹(25歳)、二人はそれぞれ三星杯、LG杯で優勝したことにより三段から一挙に九段に昇段した。中国囲碁棋士は通常での昇段が非常に難しいため、国際棋戦で優勝して一気に昇段することがあり、その急な昇段が人々を驚かせている。三段から九段になるというのは、韓国や日本ではなかなかないことである。

 9月4日、日本の東京で、これまでの昇段記録が一度破られることとなった。破ったのは江西南昌出身の李欽誠(17歳)であった。彼は中国象嶼杯CCTVテレビ囲碁早碁戦の代表選手として第28回テレビ囲碁アジア選手権に参戦し、張栩九段(36歳)、李世乭九段(33歳)、申真諝六段(16歳)に連勝し、優勝した。中国棋界で「ガンマン」と言われている李欽誠なので、遅かれ早かれ、早碁でチャンピオンになると思われていた。

 李欽誠の実力は「神」レベルの九段に達している、これは疑うべくもないことである。そして、二段から九段になるスピードもまた驚異的である。だた、同じ九段に昇段するには、他の世界オープン戦では九勝しなければならないが、このテレビ囲碁アジア選手権では三勝だけでいい、このような「不平等」が中国棋界で議論を呼んだ。面白いことに、今年、中国囲碁協会は昇段制度を改革したばかりで、すべての正式対局が昇段のためのポイントとして計算されるようになっている。これで、長年昇段戦に参加していなかった李欽誠も初段から二段に昇段していたので「初段から九段になる」という奇跡は避けられたのだ。

(記事:楊爍 写真提供:囲碁天地雑誌)

棋声人語 [ 2016年9月15日 ]

第4回中国女流甲級リーグ戦 新疆戦

 中国の今の新疆、青海、甘粛あたりは昔、「西域」と呼ばれていた。漢族ではない少数民族が集まって国を作った。中原王朝が強盛だった頃、西域諸国を自分の勢力範囲に入れようと力を尽くした。張騫、班超が万里を渡って、異郷へ至った。中原に葡萄、西瓜、人参などの特産物が入ってきただけでなく、天山、雪域、女王「西王母」の伝説も伝わってきた。

 現代社会では、万里の距離でも、すぐに到着できる。きれいな天山天地も仙人たちの専有地ではなくなった。9月2、3日、第4回中国女流甲級リーグ戦・第10、11ラウンドの試合が新疆省の省都ウルムチに近い、天池のそばにあるウイグルゲルで行われた。地元テレビ新疆衛星テレビが解説を生放送した。囲碁棋戦が天山に登ったのは初めてである。

 中国における女流棋士の実力は結構はっきりしている。女王と言われる於之瑩五段(18歳)は、現在既に、中国囲碁ランキングで全棋士中50位に入っており、他の女流棋士より百点以上点数が高い。(中国囲碁ランキングは相手の順位により得点が違う。一局勝つと最大8点、最少2点が獲得できる)今年の11ラウンドの女子リーグ戦では一局も負けておらず、これは全棋士の中で唯一である。於五段が在籍している江蘇チームも19の得点で1位となっている(女流甲級リーグ戦は勝つと2点、引き分けが1点、負けたら0点)。二位の杭州チームより4点高く、女流甲級リーグ戦四連覇が目前である。


試合会場となったウイグルゲル
聶衛平九段(64歳)、張璇八段(48歳)が
天池のそばで対局を大盤解説

(記事:楊爍 写真提供:囲碁天地)



第14回建橋杯中国女子囲碁オープン戦

対局会場

 日本の女流棋戦は常に三つ以上ある。女流本因坊戦、女流名人戦、女流棋聖戦、その優勝賞金を合わせたら、1500万円をこえる。これと比べると、中国の女流棋戦は棋戦数の面でも規模の面でも、まだ比較にならない。20世紀70年代以前、中国囲碁界では独立した女流棋戦さえなかった。1978年(昭和53年)に創立された女子個人戦は、賞金がない試合であった。それから北京、済南、西安などでも女流棋戦が行われたが、3回以上続いたものは、ほとんどなかった。

 現在、中国囲碁界で唯一の女流タイトル戦は、2003年(平成15年)から上海建橋学院によって行われている建橋杯である。理事長の周星増(53歳)は長年にわたり、女流棋戦に賛助し、毎回出場棋士たちに特別な賞品を提供している。今年の四種類の賞品は「よく勉強し、よく休む、ちゃんと栄養をとって、いい結果を出す」という意味を含めて、科学著作『万物簡史』、夢百合メモリ枕、ブルーベリーアントシアニン、八強に一人ずつゴールドバーが用意されていた。

 第14回建橋杯には、44名の中国女流棋士が参加した。最年長は芮廼偉九段(52歳)、最年少は周泓余二段(14歳)。7回戦で優勝が決まる。今回、いつもテレビで囲碁を解説している仇丹雲二段(37歳)が張天歌初段(22歳)、戦鷹初段(21歳)、高星二段(21歳)の三名の後輩たちに連勝し、八年ぶりに本戦入りを果たし、人々に深い印象を残した。ただ、残念なことに、本戦1回戦では勝利できず、芮廼偉九段に負けてしまった。

 今回の試合は8月27日から31日まで行われ、四名の棋士が勝ち残った。準決勝と決勝三番勝負は11月に浙江省嘉興市で行われる予定である。現在のタイトル保有者は中国棋士ランキング全50位に入っている於之瑩五段(18歳)である。


仇丹雲二段
四強による記念撮影。左から魯佳二段(28歳)、芮廼偉九段、
於之瑩五段、李赫五段(24歳)。

(記事/撮影:楊爍)

棋声人語 [ 2016年9月5日 ]

2016年中国国家囲碁チーム選抜戦

国家チーム選抜戦

 近代中国囲碁の発展は社会主義制度に依存している状況であった。1960年、日本囲碁訪中代表団(瀬越憲作名誉九段(1888-1972)が団長)を迎えるために、中国政府は囲碁集訓隊を創立した。そしてその後、1965年に囲碁国家チームが正式に成立した。陳祖徳九段(1944-2012)、聶衛平九段(64歳)、馬暁春九段(52歳)、常昊九段(39歳)、古力九段(33歳)は囲碁国家チームが育てた五代にわたる国手である。そんな国家チーム成立から、50年が経過した。

 今の中国国家囲碁チームの監督は華学明七段(53歳)、総コーチは兪斌九段(49歳)、コーチ陣には王磊八段(37歳)、黄奕中七段(35歳)がいる。日常集団訓練に参加する棋士は青年チーム、女子チーム、少年チームに分けられている。国家はこの棋士たちに食事と宿泊、日常訓練(成績が優秀であれば、すこしボーナスがもらえる)、国際棋戦に参加するチャンスなどを提供している。柯潔九段(19歳)、時越九段(25歳)、於之瑩五段(18歳)などの有名棋士は全員国家チームのメンバーである。

 中国の国家囲碁チームでは、年に一回メンバーを入れ替わるようになっている。チームに加入するには三つの道がある。成績優秀な人は選抜なしに直接加入、そして、約半分のメンバーは国家選抜戦で選ばれ、残りはコーチ陣の推薦によって決まる。そんな国家囲碁チーム選抜戦だが、今年は8月17日―21日に中国棋院で行われた。

 青年チーム、女子チームに応募した人数はそれぞれ42人、26人だった。スイス式8回戦トーナメントを経て、青年チームの選抜戦は謝科二段(16歳)、女子チームは、潘陽初段(19歳)がそれぞれ優勝した。またもう1つのチーム、少年チームは参加できる年齢が16歳以下に限られており、今年は2001年1月1日以降の生まれである棋士しか条件に当てはまらない。いつもは参加する人数が多いのだが、今年は条件を満たす応募者は十名しかいなかった。そのため、コーチ陣は9回の総当たり戦を実施することを決め、その結果、今年プロになったばかりの黄明宇初段(13歳)が優勝した。これも中国の囲碁入段制度改革後、入段年齢制限が25歳に引き上げられたことが要因と考えられるだろう。選抜戦後、国家囲碁チームの最終メンバーは年末に公表される予定である。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2016年8月18日 ]

2016年 利民杯世界星鋭最強戦 予選第2ラウンド

 「風煙俱淨,天山共色。從流飄蕩,任意東西。自富陽至桐廬一百許里,奇山異水,天下獨絕。(風も煙もなく、天が山と一色になっている。船を川の流れに任せて、赴くまま進んでいく。富陽から桐廬までの百里余りの路程に、連なる山々と澄んだ川の水は、天下一の絶景と言える。)」これは千五百年前、中国南北朝の斎梁の時、文学家呉均の名作『与朱元思書』の序文である。銭塘江の一部として、富春江の美景は広く知られている。杭州市内で行われるG20サミットが迫っているため、これまでずっと杭州天元ビルで行われてきた世界星鋭最強戦が富陽区に移った。会場を出ると、きれいな富春江が目に映る。

 世界星鋭最強戦は予選の第1、第2ラウンドと本戦に分けられている。2回の予選でそれぞれ8人が選抜され、本戦に入る。予選の第1ラウンドは4月26日~29日で終わった。中国の範蘊若五段(20歳)、童夢成五段(20歳)、陳賢五段(19歳)、楊楷文四段(19歳)、楊鼎新四段(17歳)、伊凌濤三段(16歳)、韓国の申旻埈五段(17歳)、偰玹準二段(17歳)が幸運児となった。予選第2ラウンドでは中国、日本、韓国、中華台北からの125名の棋士が参戦した。中国国家囲碁チームで訓練を受けた王沢錦四段(17歳)、趙晨宇四段(17歳)、廖元赫四段(15歳)、謝科二段(16歳)が本戦に進出した。

 その他には、現在上海外国語大学に在学中である乔智健四段(20歳)が三年連続で予選突破、その安定性は今の人気新鋭棋士にもひけをとらない。そして、中韓でまだあまり知られていないが、新人の何語涵三段(16歳)と宋圭相初段(18歳)が本棋戦で素晴らしい実績をあげた。

 そして一番注目すべきなのは、韓国の女流棋士崔精六段(20歳)である。今年に入ってから、実績をどんどん積み重ねている。トップの男性棋士にも対抗できる彼女は七名の男性棋士――黄春棋アマ(13歳)、馬光子二段(20歳)、王沢錦四段、陳昱森三段(17歳)、陳玉儂三段(18歳)、陳梓健三段(16歳)、朴河旼二段(18歳)と対局し、全勝の成績を収め、予選を経て本戦に進出した初めての女流棋士となった。まさしく棋界女傑とも言えよう。


予選の第2ラウンド通過棋士による記念写真。左から乔智健、謝科、宋圭相、崔精、趙晨宇、廖元赫、王沢錦、何語涵。
崔精は対局の時、日本ペア碁協会が主催した「PAIR GO WORLD CUP 2016 TOKYO」のTシャツを着ていた。

小池芳弘初段(18歳)、牛栄子初段(17歳)などの参戦の日本棋士が各国プロ棋士交流戦に参加。
広瀬優一初段(15歳)、大竹優初段(14歳)が廖元赫四段と謝爾豪三段(17歳)の対局を観戦。

(記事/写真:楊爍)



2016年中国囲碁プロ入段戦

 「二十歳になってから、私は入段した。囲碁のプロを目指している人にとっては、確かに遅いといえるかもしれない。だが、囲碁を愛している大学生にとっては、これは眩しすぎる栄誉である。何といっても、プロの入段だよ。」上海の出身で華東法政大学2年生の曹聡(20歳)は、今年四年ぶりに入段戦に参加し、合格した後、こう感慨深く語った。

 中国囲碁プロ入段戦は2012年から、毎年入段できる人数を25人(男子20人、女子5人)に限定し、年齢も25歳以下と限っている。今年の入段戦は7月11日から25日まで浙江省衢州市で行われた。ちなみに、この五年間で入段棋士の平均年齢は15歳に上がっているのだが、これはかつて入段戦で不合格となり、現在大学に入ったり、就職したりしている多くのアマ棋士たちが幼い頃の夢を叶えているからだ。

 ただその一方で、若年の入段棋士減少、2000年(平成12年)以後生まれの棋士があまり成果を出せないなどの問題がどんどん出てきた。中国囲碁界では「将来どうやって日本、韓国の若手棋士に対抗するのか」という憂慮の声も聞こえる。入段戦を通じて、プロ棋士の養成が多元化しているが、一方、年上のアマ棋士の入段で、年下がなかなか入段できないため、年下の子どもたちにおいて、道場で碁を学ぶという意欲が明らかに減少しているのが現状だ。どのようなことでも「諸刃の剣」になりうるようである。


葛玉宏氏と囲碁道場関係者と入段者9名の記念写 真葛玉宏氏(44歳、六番目、中国プロ棋士トレーニングマーケット有名経営者)
戴思遠(1番目)、陳玄(2番目)、尭瀟童(3番目)、陳豪鑫(5番目)※左から
尹渠(6番目)、黄子萍(4番目)、孫冠群(3番目)、朱明晟(2番目)、肖琪(1番目)※右から

2016年中国入段棋士:

王星昊2004年2月2日上海出身
陳豪鑫2004年1月5日広東出身
曹聡1996年4月18日上海出身
石豫来2001年12月23日貴州出身
于浩然1995年10月3日黒竜江出身
魯俊仁1998年4月11日安徽出身
楊潤東2000年3月26日河南出身
劉宇航2001年7月18日山西出身
黄明宇2002年8月23日上海出身
張俊哲1999年11月16日江西出身
戴思遠1999年9月4日 湖南出身
肖琪 1996年6月13日甘粛出身
陳瀚祺2000年7月5日浙江出身
何旸 2000年10月6日浙江出身
尧潇童2000年2月8日広東出身
蔡文鑫2002年2月2日江蘇出身
朱明晟1996年11月21日上海出身
陳玄 1997年6月10日山東出身
楊文鎧1999年3月2日四川出身
周玉川1995年3月10日北京出身
尹渠2002年1月31日江蘇出身
黄子萍2000年11月10日北京出身
趙一方1999年1月15日山東出身
孫冠群1994年4月2日黒竜江出身
劉慧玲1998年1月19日湖北出身

(記事:楊爍   写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2016年8月8日 ]

海外から境外へ囲碁の旅
(第13回倡棋杯準決勝戦&2016海峡両岸囲碁チャンピオン争奪戦)

 中国政府にとって、「海外」と「境外」は政治的な面では全く異なった概念である。香港、マカオ、中華台北などの中国政府行政管轄外の中国地域が「境外」で、中華文化圏ではない外国が「海外」である。7月9日から17日の一週間、六名の中国トッププロ棋士たちを追いかけて、カナダトロントから中華台北にかけての「海外から境外へ囲碁の旅」を体験した。

 7月9日、10日、11日、第13回倡棋杯準決勝戦がカナダのトロント大学で行われた。それと同時に、第3回世界大学生囲碁選手権戦も行われた。主催者の応昌期教育基金会は、今年、この二つの世界巡業棋戦を同時開催にし、大学生囲碁愛好者にプロ棋士と触れ合える機会を提供した。ちなみに、2015年は、倡棋杯の準優勝がアメリカニューヨークのハーバード大学で、世界大学生囲碁選手権戦が中華台北新竹の「清華大学」で行われた。

 今回の準決勝戦では、連笑倡棋杯者(22歳)、柁嘉熹九段(25歳)がそれぞれの対戦者―――鄔光亜六段(26歳)、唐韋星九段(23歳)に勝った。決勝は10月に上海で行われる予定である。

 7月13日、中国棋士一行はトロントから北京に帰国した。そして、唐韋星九段は、翌朝には、また台北への飛行機に乗っていた。まだ時差ボケから抜け出せていないというのに。7月15日から17日の海峡両岸囲碁チャンピオン争奪戦は中国囲碁甲級リーグのスポンサー企業である金立会社が特別に行っている特別親善試合である。2014年から、中国大陸の三名の世界優勝者が中華台北のタイトル保持者の一人と三回戦によって勝負することになっている。今年は柯潔九段(18歳)、時越九段(25歳)、唐韋星九段と周俊勲九段(36歳)。意外なことに、旅で疲れていた唐韋星がかえって窮地を脱して、勝機をつかんだ。周俊勲に負けたが、柯潔、時越に連勝し、優勝を勝ち取った。柯潔九段がまさかの最下位で、時越、周俊勲が二位、三位であった。


倡棋杯対局現場。
柯潔九段、周俊勲九段、時越九段、唐韋星九段(右から)は台風ニパルタックの被害を受けた台湾の学校に8万元を寄付した。

(記事:楊爍  写真提供:sinaサイト)

棋声人語 [ 2016年7月20日 ]

第4回 中信置業杯中国女流甲級リーグ戦 敦煌戦

 戦火の中、趙行徳は何百巻の仏教経典を載せているラクダ群を引いて、鳴沙山千仏洞への道を歩いている。これは、日本の小説家である井上靖(1907-1991)が毎日芸術賞を受賞した小説『敦煌』の中の深く感銘を与える一節である。千年の戦火を経て、敦煌には古代から伝わってきた光り輝く文化が今日まで残っている。実力者は力で一時的にのみ、その名をとどろかせることができるが、文化は末永く存在していく。これは人類の文明がくれた答えである。

 中国甘粛省にある敦煌は広い砂漠、莫高窟、月牙泉などの歴史文化景色で知られて、数えきれない観光客を魅了してきた。7月4、5日、第4回中信置業杯中国女流甲級リーグ戦が敦煌で特別会場を設け、6、7ラウンドの試合を行った。於之瑩五段(18歳)、王晨星五段(25歳)が所属する江蘇チームが二局全部で勝利をおさめ、ランキング一位を確保した。宋容慧五段(24歳)、高星二段(20歳)と李小渓二段(22歳)の杭州チーム、黒嘉嘉七段(22歳)、陸敏全二段(17歳)、张子涵初段(22歳)の厦門チームがそのあとについている。

 十チームが参戦している2016年中国女流囲碁甲級リーグ戦は国家が提唱している「一帯一路」政策に応じ、古代中国と西域(中央アジア、ヨーロッパ)へとつながるシルクロードと、東南沿海(東南アジアからアフリカ、オセアニア)へとつながる海上シルクロードの有名な町に特別会場を設けている。先日4月末には、唐代の東都洛陽で1、2ラウンドが行われたが、今後天山の下の新疆ウイグル自治区ウルムチ市(10、11ラウンド)、福建省厦門市(14、15ラウンド)と広東省珠海市(17、18ラウンド)で行われる予定である。


西域風情にあふれている会場。
鳴沙山の前にて、上海チームのゼイ廼偉九段(52歳)、 唐奕三段(28歳)。

(記事:楊爍  写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2016年7月12日 ]

第4回 百霊杯世界囲碁オープン戦本戦

 「三十年前と比べて、今の戦いはますます激しくなっている。」これは、偉大な棋士として、中国棋界にも大きな影響をもたらした小林光一九段(63歳)が中国北京で行われた第3回百霊杯開幕式で述べた感想だった。今回、小林九段はワイルドカードの枠で百霊杯に参加した。三十年前の世界の第一人者ともいえる小林九段だが、ステージの下にいる若い選手たちに向かって、棋譜でしか見たことがない名前の棋士を自らの目で見ることができるのが嬉しいとも述べた。

 だが勝負に関しては、やはり年齢のせいか、1回戦で自分より45歳も年下である中国の陳正勲二段(18歳)と対戦し、一目半の僅差で負けてしまった。そして、小林九段と一緒に参加した三名の日本選手も全員1回戦で敗退した。今回の百霊杯は32強戦から中韓勢による争いとなった。

 6月28日、30日、7月2日の三回戦を経て、中国の五名の棋士:前回優勝者の柯傑九段(18歳)、元春蘭杯チャンピオンの陳耀燁九段(26歳)、国内名人・倡棋杯の二冠王である連笑七段(22歳)、新鋭の范胤四段(18歳)と許嘉陽四段(16歳)、韓国の三名の棋士:韓国ランキング1位の朴廷恒九段(23歳)、三星火災杯で優勝経験のある元晟溱九段(31歳)、韓国国内棋戦のレッツランパーク杯優勝の申真諝五段(16歳)が8強入りとなった。

 トップ棋士の安定性と、新鋭棋士の勢いが印象に残る結果となった。中国では、時越九段(25歳)は、攻めが強い棋風であり大石を殺すのが上手なので、「大石殺し屋」という異名でも呼ばれている。ただ今回は三回戦で、逆に范胤四段に大石を殺され敗北した。  朴廷恒九段は第8回応氏杯の決勝で対戦予定の唐韋星九段(23歳)、世界戦でこれまで8回優勝した古力九段(33歳)に連勝し、柯潔九段とともに優勝の有力候補となっている。

 第3回百霊杯準々決勝、準優勝三番勝負は8月25日から貴州省貴陽市で行われる予定である。


ユニークな抽選ボード。64名本戦棋士の写真で「百霊杯」という文字が作ってある。棋士たちがステージに上がって、好きな棋士の画像を選んで、その後ろにある数字が番号になる。
小林光一九段が昼休みの間、古力九段と於之瑩五段(18歳)の対局棋譜を見ている。

対局会場全貌。
8強記念写真。左から申五段、朴九段、元九段、連七段、許四段、范四段、陳九段、柯九段。

(記事/撮影:楊爍)

棋声人語 [ 2016年7月5日 ]

2016中国囲碁団体選手権

 現代の中国における囲碁は、スポーツ「挙国体制」の時に創立された種目のため、今でも、すべてのプロ棋士がスポーツ選手と見られているのだが、中国政府は、このようなスポーツ選手のために、毎年三つの棋戦――団体戦、段位戦、個人戦を行っている。これらの棋戦は20世紀の50年代から80年代に創立されたのだが、今ではそれぞれ違った道を歩んでいると言える。例えば、個人戦に関しては、タイトル戦の創設が進み、中国囲碁界において一番重要視される棋戦ではなくなってしまった。一方、団体戦に関しては、1999年(平成11年)から分化したのだが、ハイレベルのチームは最上位の甲級リーグ戦に参加するようになり、それに応じて、乙級や丙級に分けられた。当初は参加するチームはほとんどなかったが、中国のプロ棋士の人数増加や実力が向上するにつれて、今では乙級、丙級、女子乙級を含む中国囲碁団体戦がかえって中国囲碁界伝統棋戦の中では一番注目を集める試合になっている。

 2016年中国囲碁団体戦は江蘇省無錫市で行われた。翌年2017年の中国囲碁甲級リーグへの出場チームが14に拡大し、その関係で乙級の試合は7回戦から8回戦に増えた。10日間で全部試合を終わらせなければならないので、試合日程は、想像以上に過酷なものになった。最後に勝ち進んだ三チームはすべて中国だけでなく海外の選手が混じったチームであった。邱峻九段(33歳)、李志賢三段(23歳)、朱元豪四段(25歳)、李維清三段(16歳)の上海建橋学院チーム、李世乭九段(33歳)、廖行文五段(21歳)、張立六段(28歳)、陳賢五段(19歳)の河南亜太チーム、そして、朴永訓九段(31歳)、安冬旭六段(23歳)、王昊洋六段(27歳)の広東東湖棋院チームが来年の甲級リーグに昇格した。

 ちなみに、この三チームといえば、河南チームは去年甲級から降格した広西チームのメンバーで、上海チームは去年降格した時の同じ顔ぶれだった。また広東チームもかつての甲級チームである。それゆえに、今回の団体戦の結果は「元メンバーの甲級復帰」と言われている。

 その他、今年中国棋界に注目されているチームとしては、伊田篤史八段(22歳)、一力遼七段(19歳)、余正麒七段(21歳)、許家元三段(18歳)の最強新鋭の中日友好チームであったのだが、丙級一位の成績を収め、四年ぶりに乙級に昇格した。来年、日本チームは主将を井山裕太七冠(27歳)に任せるのだろうか、どのような成績になるのか等、この二、三日のホットな話題だった。


(記事:楊爍  写真提供:sinaサイト)

棋声人語 [ 2016年6月28日 ]

第8回応氏杯準決勝戦

対局現場。

 長江中流にある中国の都市「武漢」は、長江に沿って、西へ行くと四川省にたどり着き、東へ行けば呉越(江蘇・浙江)とへ繋がる。また、北へ行って漢水を経ると陜西、河南に入る。南へ行くと、洞庭湖を渡り、湖南、江西に入ることができる。そのため、昔から   「九省通衢」(九州(省)に通じる交通の要所)と呼ばれている。その位置の重要性は明らかであろう。

 武漢囲碁界は応氏杯を非常に重要視している。葉桂五段(41歳)、黎春華四段(43歳)の二人の湖北出身の女流棋士が記録係を担当した。また、華以剛八段(67歳)、唐奕二段(28歳)が湖北省図書館、武漢大学で囲碁愛好家向けに現地解説を行った。本戦の準決勝はそれぞれ中国棋士の時越九段(25歳)対 唐韋星九段(23歳)、韓国棋士の李世乭九段(33歳)対 朴廷桓九段(23歳)のいわば同国同士の「内戦」であった。昔からの中国囲碁愛好者からみれば、国の対抗ではないため「刺激」が足らなかったかもしれないが、碁の内容そのものはやはり素晴らしかった。

 準決勝戦は三番勝負で行われ、両カードの流れは、驚くほど似たものであった。第1戦で唐九段と朴九段がまず1勝をあげたが、第2戦で時九段と李九段が粘り強く1勝を戻した。そして、第3局では唐九段と朴九段が再び勝利した。唐九段と時九段はまだまだ若いが、これまですでに三星杯世界囲碁マスターズ準決勝三番勝負で二回も激闘を演じており、今回で三度目の三番勝負での対決となった。一方、それぞれの世代の代表者ということもあり、李九段と朴九段の対戦回数は多い。最終的には、唐九段は強靭な粘りを発揮して逆転できたが、李九段は年齢などによるところも大きいのか後輩の前に敗れ去った。決勝戦の五番勝負は8月、10月に中国の北京、上海で行われる予定である。

 四年に一度の応氏杯は優勝者に対して非常に厳しいようだ。二連覇を達成する人がいないどころか、前回の優勝者が出場したら、必ず負けてしまっている。それに対し、準優勝者にはとりわけ好意的に思われる。第4回の準優勝者である常昊九段は第5回の優勝者となり、第5回の準優勝者である崔哲瀚は第6回の優勝者となった。そして、朴廷桓九段は第7回の準優勝者である。彼はこの不思議な法則で第8回の優勝者になるだろうか。


(記事:楊爍  写真提供:sinaサイト)

棋声人語 [ 2016年6月17日 ]

第6回黄竜士双登杯世界女子囲碁団体選手権 第2ステージ

 第6回黄竜士双登杯世界女子囲碁団体選手権の第1ステージが、4月7日から13日まで、中国江蘇省蘇州市姜堰区で行われた。韓国チーム先鋒の金彩瑛二段(20歳)が、日本の木部夏生二段(20歳)、中国の王祥雲二段(26歳)、日本の青木喜久代八段(48歳)、中国の宋容慧五段(23歳)に連勝し、韓国チームは好調な滑り出しであった。その後、日本チームの謝依旻六段(26歳)が出場を早めて、金彩瑛二段、中国の魯佳二段(27歳)に連勝。しかしながら、韓国チームの朴志娟四段(25歳)が謝の連勝を止め、第1ステージは終了した。

 そして、第2ステージが6月4日から始まった。一勝も取れなかった中国チームは王晨星五段(25歳)と於之瑩五段(18歳)の活躍で、劣勢を跳ね返した。王晨星五段が朴志娟四段、日本の王景怡二段(29歳)、韓国の金恵敏七段(29歳)に連勝した。日本チーム主将の藤沢里菜(17歳)が王晨星五段に中押し勝ちを収めたが韓国チーム副主将呉侑珍二段(17歳)に敗れた。そして、中国チーム主将の於之瑩五段が韓国の呉侑珍二段、崔精六段(19歳)に連勝を収め、中国チームが優勝。これで、中国チームが通算4度目優勝となった。

 18歳の於之瑩五段は、本棋戦への参加が今年で5年目となった。五年前、中国チームの二番手として出場し、チームの勝利に貢献した。そして、4年前には六連勝という記録を作った。また、この三年間は同じ年である韓国の崔精六段と優勝を争ってきた。この棋戦はまさにこの少女棋士の成長を記録してきたと言えよう。この半年間、於之瑩五段は世界女子個人戦(穹窿山兵聖杯)で優勝を収め、世界女子団体戦(天台山農商銀行杯)の主将として中国チームを勝利へ導いた。ちなみに、今年の9月、彼女は大学に入学する予定である。18歳の輝かしい活躍に思わず感嘆を禁じ得ない。


優勝の記念撮影。 左から於之瑩五段、中国国家囲碁チーム監督の華学明七段(53歳)、魯佳二段。
中韓の主将対決、崔精六段(左) 対 於之瑩五段(右)。 立会人の王汝南八段(69歳)。

左:日本チームの副将、王立誠九段を父に持つ王景怡二段。
右:藤沢里菜三段は中国でもファンが多い。

(記事:楊爍  写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2016年6月10日 ]

2016中国象嶼杯CCTVテレビ囲碁早碁戦

 日本のNHK杯、韓国のKBS杯と異なり、この十数年、中国国営テレビCCTV主催の早碁棋戦は、CCTV杯ではなく、協賛する各企業名の冠がつけられている。例えば、「歩歩高杯」、「招商銀行杯」、「中信銀行杯」など。しかし昨年2015年、この早碁棋戦は一年間中止になり、テレビ囲碁アジア選手権の出場資格は、国家チームの内部選抜戦の結果で決められた。

 そんな中、今年は福建省アモイ市の企業「象嶼グループ」が出資し、1987年(昭和62年)から始まった本棋戦が復活した。だが、CCTVが命名権を放棄したときから「テレビ早碁」というのは名ばかりになっている。以前も準々決勝戦の1局と決勝戦の2局しかCCTVで放送されなかったが、今年も確実にテレビで放送されるのは、開幕戦と最後の決勝戦だけである。

 本棋戦は、ランキング上位棋士63名と1名の女流棋士が出場する。今回の女流棋士は中国囲碁国家チームで一番年下の周泓余初段(13歳)であった。1回戦の開幕戦と決勝戦はアモイで行われ、その他の1回戦の対局と準決勝戦までの対局は6月3、4、12日に中国棋院で行われることになっている。1手30秒の早碁なので、どんなことが起こっても不思議ではない。LG杯で宿敵李世乭九段に快勝したばかりの古力九段(33歳)が、一回戦で無名の李銘五段(23歳)に負けてしまった。そして、柯潔九段(18歳)もLG杯で韓国の女子棋士崔精六段に敗れた范蕴若四段(20歳)の前に敗退。毛睿龍四段(26歳)は今年から中国囲碁甲級リーグに参加しないため、第一線から身を引いたとみられていたが、今回の棋戦では周睿羊九段(25歳)、邱峻九段(33歳)、陳耀燁九段(26歳)と時越九段(25歳)、三人の国際棋戦優勝経験者と一人の準優勝経験者に連勝し、番狂わせを起こしたといえよう。ちなみに毛四段以外にベスト4に入ったのは芈昱廷九段(20歳)、童夢成五段(20歳)と李欽誠初段(17歳)。李初段は一昨年の本棋戦での優勝者である。


唐韋星九段(23歳)と胡躍峰五段(24歳)の対局が、今回の開幕戦となった。
劉菁八段(41歳)謝少博二段(25歳)がアモイのファンに向け大盤解説を行った。

今回、開幕戦以外の1回戦~準々決勝戦は中国棋院で実施した。
一年近く試合に参加していなかった孔傑九段(33歳)

(記事/撮影:楊爍)

棋声人語 [ 2016年6月3日 ]

第一回新奥杯世界囲碁オープン戦統合予選

 三十年前、日中スーパー囲碁で「民族的英雄」となり、いまはアメリカに帰化した江鋳久九段(54歳)をはじめ、長年大学で囲碁の専門課程を設けることに力を入れている方天豊八段(53歳)、常昊九段(39歳)と結婚して良妻賢母となった張璇八段(47歳)…… 中国棋界で数知れない伝説を作った先輩棋士たちは、とうの昔に第一線から離れた。もしもう一度世界大会の本戦に彼らが現れたとしたら、多くのファンの記憶が思い起こされることになるだろう。

 5月24日から28日まで、第一回新奥杯世界囲碁オープン戦統合予選が北京の中国棋院で行われた。近年、中国棋界では、多くの新しい国際棋戦が創設された。河北ガス会社が協賛する「新奥杯」もその一つである。新奥杯のルールは中国の百霊杯、夢百合杯とほぼ同じだが、統合予選でシニア組とワールド組も設けている。それぞれ1972年前生まれの棋士や中国以外の日本、韓国、中華台北などの棋士の参加が認められている。そして、ワールド組の棋士にも対局料が支払われる。これは中国の棋戦では初めてのことだ。

 ワールド組の結果は予想通りだった。江鋳久九段はもう引退していたが、欧米棋士に連勝し、本戦に入った。一方、シニア組は意外な番狂わせが起こった。無名の地方棋士である王東亮六段(44歳)が韓国囲碁チーム総コーチの劉昌赫九段(50歳)、中国国家囲碁チーム元総コーチの聶衛平九段(63歳)に連勝した。最後に、もし中国国家囲碁チーム総コーチ兪斌九段(49歳)に勝利していれば、3人の「総コーチ抜き」としてホットニュースになったであろう。また残念なことに、今回シニア組に参加する日本棋士はいなかった。

 予選の結果、通過者50人の内訳は、中国棋士36名、韓国棋士12名、日本棋士1名、アメリカ棋士1名となった。本戦64強戦から16強戦は今年11月に中国北京で行われる予定である。


女子組の定員数が減ったため、韓国の崔精六段(20歳)と中国の宋容慧五段(23歳)が一般組に申し込んで、男子棋士と真正面から勝負しようとしたが、勝ち進むことはできなかった。
王東亮六段が半目で劉昌赫九段に辛勝した。

江鋳久九段が手に持った「敲玉」と揮毫された扇子は奥さんである芮廼偉九段(52) の直筆である。
富士田明彦五段(24歳)が中国の牛雨田七段(31歳)を打ち負かし、日本棋士の唯一予選突破者となった。

(記事/撮影:楊爍)

棋声人語 [ 2016年5月30日 ]

第5回天台山農商銀行杯世界女子囲碁団体戦

 浙江天台は仏教の聖地のひとつであり、「天台宗」の発祥地でもある。隋代(西暦598年)に建てられた国清寺は中国の重要なお寺で、唐代の鑑真、宋代の済公、日本の空海、最澄などの法師もここにきて、拝謁したり、修行したりしたことがある。「大衍暦」を作り出した唐代天文学者一行大師も天台に長く滞在したことがあり、国清寺に着いた時、寺前を流れる渓流が突然流れの方向をかえ、西へ流れていったという話さえ残っている。

 一行僧はほかの伝説もたくさん残した。稗史によると、囲碁が全然わからなかった一行は唐代囲碁名人王積薪と一局しただけで、すぐに王と匹敵できるようになったという。「これは先を争うだけだろう。四句の掛け割り算さえできれば、誰でも名人になれる。」という評価も残している。だが、一行僧の「四句の掛け割り算」が伝わっきていなかったため、歴代の囲碁関係者がこの物語に懐疑をずっと抱いていた。しかし、今年、グーグルが開発した囲碁人工知能AlphaGoが現れた。パソコン囲碁は根本的には、一行の「囲碁は計算なり」という理念を応用している。

 2012年(平成24年)から、天台生まれのプロ棋士兪斌九段(49歳)による強い推進で、天台地方政府は世界女子囲碁団体戦を創立した。中国、日本、韓国、中華台北の四チームはそれぞれ選手を三人出場させ、総当たり戦を行う。第5回では、中国参戦選手は於之瑩五段(18歳)、王晨星五段(24歳)、宋容慧五段(23歳)、韓国は崔精六段(19歳)、呉侑珍二段(23歳)、呉政娥二段(23歳)、日本は青木喜久代八段(47歳)、向井千瑛五段(26歳)、万波奈穂三段(30歳)、中華台北は黒嘉嘉七段(21歳)、張正平三段(34歳)、張凱馨五段(35歳)。国内棋戦おかげ杯と重なった日本チーム以外の三チームは最強フォーメーションである。

 ホームだった中国チームは存分に実力を発揮し、三戦全勝、一局しか失わなかったという成績で優勝した。韓国は再び準優勝、フォーメーションが揃っていなかった日本勢が1:2で中華台北に負け、初めて最下位となった。これで五回までの大会結果は、韓国が第1・2回を、中国が第3・4・5回を優勝した。


中国チーム優勝記念写真。右から於之瑩五段、王晨星五段、宋容慧五段、中国国家囲碁女子チームコーチ王磊八段(38歳)。
於之瑩五段が崔精六段との主将対決で勝って、中国チームにとって重要な一局を取った。

(記事/撮影:楊爍)

棋声人語 [ 2016年5月20日 ]

第18回阿含・桐山杯予選

 中国のプロ囲碁界には、毎年25名ほどの棋士が入ってくる。中国の囲碁プロ制度が遅れて誕生したとはいえ、このような数字で発展してきて、プロ棋士の人数がそろそろ日本と韓国の総和を超えようとしている。今ではプロ資格を持っている棋士は約700名である。だが、試合に出ている「活躍棋士」が百人だけである。これは、中国囲碁高度体育化による特殊現象である。

 今や、百霊杯、夢百合杯、新奥杯と倡棋杯では公開予選の段階が設けられているが、公開戦では対局料がないので、厳密に言うと、まだ「プロ棋戦」とはいえない。この点からみれば、日本阿含宗の賛助で開かれる阿含・桐山杯は今中国での一番大きなプロ棋戦であり、144名の棋士に対局料を提供する。

 中国阿含・桐山杯はネット予選、一次予選、二次予選、本戦、決勝戦の五つの段階に分けられている。またネット予選はプロ、アマチュアの二部に分けられている。選抜された16名の棋士が一回予選戦をしてから、112名ランキング上位の棋士とともに四回の本選戦をする。そして、最後まで勝ち抜いた8名が本戦に入る。今回本戦に入ったのは、前期の優勝や準優勝、そして前年度の世界優勝、準優勝からなっている八人のシード棋士だった。一手30秒の早碁のため、試合は番狂わせの連続だった。本選戦1回戦で若き名手唐韋星九段(23歳)を制して勝った常昊九段(39歳)が2回戦で女流棋士唐奕二段(28歳)に負けてしまった。ここ数年、囲碁界の第一線からフェードアウトしていた謝赫九段(31歳)も、曹又尹三段(29歳)、丁浩三段(15歳)、黄奕中七段(34歳)、古霊益五段(24歳)に連勝し、本戦に戻ってきた。

 謝九段以外では、柁嘉熹九段(25歳)、邬光亜六段(25歳)、彭立尭六段(24歳)、李軒豪五段(21歳)、毛叡竜四段(26歳)、夏晨琨四段(21歳)、辜梓豪四段(18歳)も本戦に入った。彼らは直接本戦に入る棋士と一緒に四回の争いを通じて、優勝者を決める。そして、その優勝者がまた日本阿含・桐山杯の優勝者と対抗戦を行う。


対局現場
常昊九段(左)が唐奕に敗北した

ファンが謝赫九段からサインをもらう
伝統となった優勝トロフィー

(記事/撮影:楊爍)

棋声人語 [ 2016年5月11日 ]

中国第3回南北大学生対抗戦

 中国語の中では、「南」と「北」は意味深い言葉である。中国は大陸が広いゆえに、経済や文化には大きな違いがあり、それぞれのライフスタイルや考え方なども大きく異なっている。南と北の交流や衝突はつねに中国歴史の主題のひとつであり、囲碁にも大きな影響を与えてきた。

 以前のことはともかく、2016年4月30日から5月2日、中国第3回南北大学生対抗戦が上海建橋学院で行われた。これは上海外国語大学の孫遠三段(34歳)と北京清華大学の由小川副教授の提唱により、2014年(平成26年)から年に一回行われている大学生の交流イベントである。2014年は杭州で行われ、2015年は北京、2016年は上海にやってきた。この対抗戦に参加するのは主に北京大学生囲碁リーグと上海大学生囲碁リーグの主力であるが、参加校が年々増えてきて、2016年では50校にも至った。

 2016年南北大学対抗戦の最も注目するところは面白い種目が沢山増えたことだ。遠い歴史の中から掘り出されたチベット囲碁「密芒」、朝鮮囲碁「巡将」、三人で一組の相談碁もあるし、最近中国では大人気の「チーム対抗戦」もある(基本ルールはペア碁と同じだが、試合は三段階に分けられ、それぞれ違った選手が出場する。コーチにはタイムやチェンジの権利がある)。

 それから、独創性に富んでいるスパイ囲碁(三人連碁、三人中一人が実は敵側、対局がある段階に進行したら、味方内の投票で「スパイ」を決め、その後の着手する権利を奪う)、暗礁囲碁(双方が事前にそれぞれ三つの着手位置を決めるが、盤上にはおかない。事前に決めた着手位置は、表明したタイミングで自分自身はその位置も含め2手着手できる。相手側が着手しようとした場合は、その位置には着手できないのでパスをすることになる)などもある。これらの何れも囲碁界で先例にあったゲームだ。

 このイベントは対抗戦とはいえ、実は交流会でもある。大会期間中はちょうどメーデーの連休で、中国各地から集まった大学生たちが上海で顔を合わせた。プロに比べ人数が格段に多いアマチュア愛好者にとって、「手談」ができる囲碁は有効なコミュニケーション手段の一つでもある。今回の大会でも「友情の小舟、愛情の大船」というスローガンが掲げられた。参加した大学生がこのような囲碁イベントを通じて恋人を見つけるのは、囲碁がもたらした縁だろう。


大会記念写真
チベット囲碁のルールには十二の座石が四角や天元を占める、チベット族文化の吉祥模様を局中でできたら特別奨励があるなどがある。プロ棋士孫遠三段(左)と張昊四段(24歳)も興味津々で試してみた。

南北対抗には学生交流もあれば、教師、OBの手合せもある。北京郵電大学元学長林金桐教授(70歳、左)と上海建橋学院理事長周星増(53歳)が対局中。
大会に参加した女子大学生の囲碁愛好者

(記事/撮影:楊爍)

棋声人語 [ 2016年5月6日 ]

第8回応氏杯世界選手権

 四年に1度の応氏杯世界選手権は応昌期氏(1917―1997)により、1988年(昭和63年)に創立された。オリンピックと同じ年に行われるので、「囲碁オリンピック」とも呼ばれている。第1回~4回の優勝者は韓国曹薫鉉九段(63歳)、徐奉洙九段(63歳)、劉昌赫九段、李昌鎬九段(40歳)である。この四人は韓国囲碁界の「四天王」とも呼ばれた。応氏杯は韓国囲碁の一番輝かしい時代を見届けていた。

 4月20日から24日まで、第8回応氏杯の1回戦、2回戦や3回戦が中国上海で行われた。以前と比べると、今回の応氏杯は本戦人数を30人までに広げ、持ち時間を3時間30分から3時間に縮めた(持ち時間を使い切ったら35分ずつ2目コミ出しというのも20分に減らした)。これはプロ棋士の増加や早碁の加速化への対策である。

 韓国では曹徐劉李「四天王」のあとを継ぎ、李世乭九段(33歳)が韓国囲碁界の王者となった。だが、そんな李九段も十二年にわたって応氏杯に出場したものの、優勝は一回もない。2016年、彼は三回目の出場を果たし、サインや一緒に写真を撮るなどの要求をすべて堅く断って、北アメリカの劉志遠初段(25歳)、中華台北林立祥六段(22歳)、韓国姜東潤九段(27歳)に連勝し、ベスト4に入った。また、現在人気絶頂の中国柯潔九段(17歳)が初参戦したのだが、8強戦で韓国朴廷恒九段に1目の最小差で逆転され、対局が終わってもすごく悔しがっていたようだ。勝負は残酷である。

 それから、中国時越九段(25歳)と唐韋星九段(23歳)が二人とも勝ち残った。そして、日本の河野臨九段(35歳)が中韓世界チャンピオンレベルの陳耀燁九段(26歳)と朴永訓九段(31歳)を破りベスト8まで勝ち残って、今回の最大のダークホース的な活躍を見せた。ただ残念なことに、8強戦で時越九段に負けてしまった。準優勝戦は6月に中国湖北省武漢市で行われる予定である。


久しぶりに国際棋戦に出場した日本の張栩九段(36歳)前半で優勢を築いていたが、後半では柯潔九段(右)に逆転された。
世界で初めてAlphaGoと対戦したプロ棋士として注目された、樊麾二段(34歳、右)は応氏杯に初参戦、だが昼休憩に入る前に芈昱廷九段(20歳)に負けてしまった。

河野臨九段が善戦し、日本棋士で唯一8強に入った。
林海峰九段(73歳)は応氏と親しく、今回も上海を訪れ、日本棋士の羽根直樹九段(39歳)、山下敬吾九段(37歳)、張栩九段、結城聡九段(44歳)とともに検討をしている。

(記事/撮影:楊爍)

棋声人語 [ 2016年4月26日 ]

第30回中国天元戦

 日本棋院、韓国棋院は20世紀前半に相次いで創立されたのだが、国内におけるプロ制度化が遅かったこともあり、中国棋院は1992年(平成4年)にやっと創立された。その関係で、中国囲碁界では何十年もの長い間続いている棋戦が少なく、今年30回を迎えた天元戦が歴史のもっとも長い棋戦となっている。

 中国天元戦は1987年(昭和62年)に創設され、当時参加した棋士は十九名だけだった。その時、棋士生涯のピークにいた聶衛平九段や馬暁春九段は選抜なしで直接ベスト4に入り、決勝戦では「双竜会」を上演した(二人とも辰年生まれである)。1987年から1996年(平成8年)までの十年間は聶九段、馬九段と劉小光九段、この中国トップ棋士の三人の混戦で、決勝はほとんどこの三人の間で行われた。馬九段、劉九段がそれぞれ四回優勝、そして、少々年上の聶九段が二回優勝した。そんな中1997年(平成9年)に常昊七段(当時)が突然現れて、馬暁春天元に挑戦してタイトルを奪取、この優勝から五回も連続優勝を収めた。2002年、常天元は黄奕中六段(当時)にタイトルを奪われたが、翌2003年(平成15年)から、古力九段の六連覇や陳耀燁九段の八連覇など再び連覇が続く時代となった。この連覇記録は群雄続出の時代において珍しい記録である。

 2016年、唐葦星九段が天元への挑戦権を獲得したが、江蘇省呉江氏同里鎮(この十数年の中国天元戦は全部同里で開かれた)という「福地」の加護に恵まれた陳天元にはまだかなわなかったようだ。唐九段は1勝もできずに2連敗で敗退した。そして、今回はちょうど三十周年ということで、主催者により聶、馬、劉、常、黄、古、陳の歴代天元七名が招請された。「天元」とは、囲碁用語では碁盤の真ん中の一点を指す。真ん中にいて回りを見下す。聶九段、馬九段、常九段、古九段、みんな中国囲碁界で「天元」と似たような地位を得ている大棋士で、その棋士たちと「天元」という称号とが相まって、一層の輝かしさが感じられた。

前の左から陳耀燁九段(26歳)、黄奕中七段(34歳)、古力九段(33歳)、馬暁春九段(51歳)、
聶衛平九段(63歳)、劉小光九段(56歳)、唐韋星九段(23歳)、常昊九段(39歳)

(記事:楊爍  写真提供:sinaサイト)

棋声人語 [ 2016年4月18日 ]

第6回 黄竜士双登杯世界女子囲碁団体選手権

対局現場。

 17世紀の中国清代の棋聖である黄龍士とは、「昭和棋聖」呉清源九段に中盤の戦闘力が「十三段」にも至ったと称賛されている、碁界の歴史上でも有名な棋士である。黄龍士の故郷は今の江蘇省泰州市姜堰区である。2010年(平成22年)から、姜堰は女子囲碁棋戦を行ってきた。毎年、姜堰で女子棋戦が行われる度、黄龍士が破竹の勢いで囲碁界に君臨した頃が思い浮かんでくる。

 2010年姜堰で中国女流名人戦が創設され、翌2011年から中国、日本、韓国、中華台北の4か国・地域からそれぞれ三名の女流棋士が出場する団体対抗戦となった。そして2012年からは、中日韓三国から各五人を出して、第1ステージ、第2ステージの二段階(毎ステージ七局)の勝ち抜き団体戦に変わり、この方式は今でも続けている。農心杯と似て、毎年の黄龍士双登杯では必ず連勝を果たす女流棋士が現れる傾向がある。

 2012年の大会では、日本の吉田美香が中国ルールを上手く利用し(コウとダメ詰め両方頑張った末)半目で韓国の崔精に勝利を収め、そしてその後、中国の王晨星が八連勝という驚異的な成績を残したため、韓国チームは一戦も取れずに早々に敗退することとなった。また王晨星の連勝は、日本の謝依旻に阻止されたが、次に於之瑩が謝依旻を破り、中国チームの優勝となった。

 翌2013年の勝ち抜き戦では合計十三局行われた中で、勝利を手にした女流棋士は三人だけだった。韓国の金彩瑛が初めに四連勝、また中国の於之瑩が五連勝、続いて韓国の崔精が三連勝の成績を残し、最終的に韓国チームの優勝となった。そして2014年、中国の宋容慧が三連勝、韓国の金恵敏が五連勝、中国の於之瑩が三連勝、最後の主将対決では中国の王晨星が韓国の朴志恩に勝った。2015年、韓国の呉政娥が五連勝、中国の宋容慧が五連勝、韓国チームが崔精の三連勝で優勝した。二回以上勝ったのが三人だけの2013年と2015年大会では、日本チームは一局も勝利を得られなかった。

 そして2016年、姜堰での勝ち抜き戦がまた始まった。先鋒を担った棋士たちの連勝はまだまだ止められないようだ。韓国の金彩瑛二段(20歳)が三年前の再現のようだが、今回も四連勝を収めた。これまで四回も日本の主将を務めてきた謝依旻(26歳)は、プレッシャーで一局しか勝っていなかったが、自ら出場を早めて、連勝中の金彩瑛を倒し、日本チームに久々の一勝をもたらした。


「美人棋士」謝依旻六段は中国でも多くのファンを持っている
終盤の時、睦鎮碩九段、林子淵八段、金恵敏七段、崔精六段、
呉侑珍二段、藤沢里菜三段、木部夏生二段が対局室に入ってきた。

謝依旻が黒番でVS金彩瑛、黒93、95が鋭くて、白が全盤的に薄くなっている。黒101のハサミに対して、白102の反撃作戦が少しやりすぎか。 以下、白は黒の左上の地を潰したが、黒115が先手で白の「目」 が破られ、白の大石があっという間に黒に殺された。日本の女流三冠「謝依旻」が力を見せた一局であった。


(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2016年4月12日 ]

Google CEOサンダー・ピチャイ氏が聶衛平囲碁道場を見学

 3月15日にAlphaGoと李世乭九段(33歳)の五番勝負が終わってから、グーグルのAlphaGo開発に関する次の一手が世界で注目されている。囲碁での開発を継続し、人間の棋士と対戦させ続けるのか、それとも他の分野に向かうのか。

 そんな中、2016年3月31日午前、Google CEO サンダー・ピチャイ氏(44歳)が中国北京にある聶衛平囲碁道場をプライベートで訪問、聶衛平九段(63歳)、古力九段(33歳)、柯潔九段(18歳)と面会し、道場の子供たちとも交流した。聶九段は中国囲碁界の柱石として、AlphaGoの着手を褒め称え「わが国家チームのメンバーを集めて、ちゃんとその着手を勉強すべきだ。」と語った。

 ちなみに、ピチャイ氏の九歳になる長男は囲碁がすごく好きなようで、グーグルがAlphaGoを開発する目的は人間棋士のアシスタントにすることだと述べた。そして、AlphaGoは柯九段とも対戦するのかと問われたピチャイ氏は「柯潔さんと相談してもいいですよ。柯潔さんと対戦できるのなら、AlphaGoにとっては、とても光栄です。」と答えた。

 古九段が「囲碁は打てますか」と尋ねた際、ピチャイ氏は笑いながら、「まだまだ初心者ですが、私の携帯にはAlphaGoがあります。」と答え、人々を笑わせた。そして、ピチャイ氏自らも囲碁を打ちたいと言い出して、以下のような貴重な棋譜ができた。ピチャイ氏が黒番で、柯潔九段が白番。白2を見てピチャイ氏は「これは特別な打ち方だな」と呟いた。その後、ピチャイ氏が中央を連続で手抜きし、黒3、5が右上二つの星を占めたような配石となったのだが、柯九段が「あら、こっちが不利になったね」と発言した。この対局は14手までで打ち掛けになった。


(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2016年4月4日 ]

第11回春蘭杯世界囲碁選手権

 1988年(昭和63年)、囲碁の初めての世界戦「世界囲碁選手権・富士通杯」が日本で創立された。富士通杯は「選手権戦制度」を採用し、日本、中国、韓国、中華台北、欧州及び北米の各地から推薦されたトップ棋士が集められ、各国・地域の参加人数には、大きな数の差はなかった。また、選手には高級な宿泊と食事、交通費も提供、支給された。この方式は世界戦が始まった当初よく採用されており、後の日本のトヨタ・デンソー杯や、韓国の東洋証券杯、LG杯なども、この「選手権制度」に従い実施された。

 21世紀に入って、囲碁のプロ棋士が激増し、中日韓三国間で競争が激しくなってきた。世界戦では「選手権制度」の門戸開放により、選手人数が拡大され、国際予選が設立されるようになった。さらには、2009年(平成21年)に「オープン戦制度」が登場した。この制度は、選手たち自身で宿泊と食事また交通費を負担し、毎回の対局費が支給されない代わりに、最後に敗れた一局の賞金が贈呈される仕組みである。近年始まった韓国のBCカード杯、中国の百霊杯、夢百合杯は、このオープン戦制度を採用し、その後LG杯と三星杯も追従した。本戦に参加できる選手の大部分が、オープン戦(統合予選)の通過者で占められるようになり、現在の世界戦では中韓の棋士の人数が、他の地域よりかなり多くなっている。

 このような時代背景のなか、選手権制度を堅持している応氏杯と春蘭杯はとりわけユニークな存在である。3月26日-28日、第11回春蘭杯が江蘇省泰州市で第1回戦と第2回戦が行われた。世界戦の中で唯一の24人によるトーナメント制を採用している春蘭杯の本戦選手は、中国11名(中の3名は前期シード)、韓国5名、日本5名、中華台北、欧州と北米各1名となっている。ただ、2回戦までの激戦の結果、準々決勝戦に残った各国地域の棋士の多少は主催者が提供するシード数に関係なく、実力そのものが出た格好になった。

 中国の柯潔九段(18歳)、柁嘉熹九段(25歳)、芈昱廷九段(20歳)、檀嘯七段(22歳)、連笑七段(21歳)、辜梓豪(18歳)と韓国の朴永訓九段(30歳)、金志錫九段(26歳)が準々決勝進出を決めた。準々決勝戦は年末に行われる予定である。


3月28日の第2回戦で、中国の芈昱廷九段が黒番で、韓国の朴延桓九段と対戦した(1-52)。白24までは3月15日に行われた李セドル九段とAlphaGoの第五局と全く同じ形で、芈九段が黒25で変化し布石を続けた。その後の朴九段が白50、52の高空作戦をとったのも見ると、AlphaGoがトップ棋士にも対しても多大な影響を与えたと感じずにはいられない。人間はコンピューターではないので、前半は真似ることができても、後半は自ら打たなければならない。結局、芈九段が中押し勝ちをおさめた。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2016年3月25日 ]

第2回日中竜星戦

 日中間の囲碁交流は1960年代から始まり、80、90年代に頂点に達した。日中囲碁交流戦、日中スーパー囲碁、日中天元戦、日中名人戦、日中NEC杯対抗戦……だが、いろいろな理由もあり、現在では日中棋戦は阿含・桐山杯日中決戦と日中竜星戦のこの二つしか残っていない。

 日中竜星戦は2014年に始まり、その第1回は、第5回中国竜星戦優勝者の古力九段が第23回日本竜星戦優勝者の河野臨九段に逆転勝ちした。2015年の第2回は各大会が集中したため、2016年3月16日に延期されていたのだが、第6回中国竜星戦優勝者の柁嘉熹九段(25歳)と第24回日本竜星戦の優勝者結城聡九段(44歳)と対戦となった。ちなみに日本の決勝戦の時、対戦相手の趙治勲九段が奥様の病気で辞退したので、結城九段の優勝は不戦勝であった。

 十九才も離れた対戦は、今の国際棋戦では相当珍しい。年齢が勝負を決める鍵になることも多い。結果は柁嘉熹九段の中押し勝ちだった。これで中国側が日中竜星戦で二連勝。

 しかし、試合の勝敗よりも交流の意義がもっと大切であろう。常昊九段(39歳)と華学明七段(53歳)が中国棋院二階で数百名もの囲碁愛好者への大盤解説会を行った。そして、日本の囲碁・将棋チャンネル岡本光正社長は閉会式で「この棋戦を今後も続けるつもりだ。」と宣言した。


右辺の戦いは、攻勢である白がミスして、黒に反撃されてダメ場を打って繋がるしかなかった。左の潜在力が白の勝つ最後の頼りだったのだが、白100で103くらいに押していったら、まだヨセで戦えるかもしれないと常昊九段が述べた。だが次のようにも解説した「だが、このような俗な打ち方は日本の棋士にはできないかも。」実戦は、黒が103を先手で打ち、黒109のハネまで、上辺の黒地を拡大、これで黒の勝ちが決まった。

(記事/写真:楊爍)



第十三回倡棋杯予選

対局現場

常昊九段(右)が李成森二段に負けた

 今の中国囲碁界で一番規模の大きい棋戦は、応氏グループが協賛する倡棋杯で、中国国内で唯一のオープン戦である。オープン戦の制度は韓国から生まれたもので、予選には全プロ棋士が参加できるが、対局費は支払われない。対局費を支払うことが伝統となって久しい日韓では、このオープン戦の制度への抵抗が強かった。だが、これまですべての棋戦の予選がネットで行われてきた中国では、対面対局が打てる機会が与えられえるため、多くの棋士に歓迎されているようだ。

 応募した多くの棋士が中国各地から集まってきて、今回の予選は、2月23日から26日にわたり連続で対局が行われた。北京にある中国棋院の対局ホールは、二百近くの棋士でいっぱいであった。この参加者たちの多くが十代で、兪斌九段(48歳)、常昊九段(39歳)など数少ない先輩がまわりを見渡していたのだが、「ぜんぜん知らない棋士ばかりだね。」と感慨にひたっていたのであった。

 常昊九段は案の定、知らない新鋭棋士に負けた。かろうじて一目半ほどの僅差で焦士維二段(18歳)に勝ったが、また同じ一目半で李成森二段(16歳)に敗れた。次世代の棋士と4局連続で打つハードスケジュールでは、多少の力不足が感じられた。しかし一方で、兪斌九段は先輩のプライドを守りぬいた。彼は陳一鳴二段(23歳)、王裕子三段(26歳)、謝赫九段(31歳)に連勝し、二回戦に進出した最年長棋士となった。

 ほかに注目すべきなのは女流棋士の王祥雲二段(26歳)、長年にわたって頻繁にテレビに出て棋戦解説をしていた彼女だが、今回の戦績は驚くほど素晴らしかった。李修全二段(18歳)、崔燦六段(28歳)、胡躍峰五段(24歳)に連勝して予選決勝に進出した。ちなみに、胡五段は中国囲碁甲級リーグ湖北チームのメイン選手である。だが快進撃はここまで、残念ながら李維清二段(15歳)に敗れ、次の二回戦に進むことはできなかった。

 倡棋杯は予選、二回戦、本戦の三段階にわかれ、予選から選抜された16名の棋士がまた等級分ランキングの上位棋士と戦い、八か月の後、賞金45万人民元(約800万円)の優勝者が決められる。

王祥雲二段(左)が胡躍峰五段を負かした
甘思陽四段が毎局独特な布石をする


常昊九段が白番で李成森二段との対戦、左の優勢をたよりに、白116の挟みが相当素晴らしい一手だった。先輩棋士の碁には歳月の積み重ねがあって、いつも人を感動させるのだが、囲碁が結局一種の勝負であり、前半でいくら好手を打っても、勝ちに直結しないこともある。

(記事/写真:楊爍)



第三回百霊杯世界囲碁オープン戦統合予選

 3月9日から15日、韓国ソウルで行われた、グーグル傘下のDeepMindチームが開発した人工知能囲碁プログラム「AlphaGo」と世界最強棋士の一人、李世乭九段(33歳)との五番勝負が全世界で話題を呼んでいた。その頃、千キロも離れた北京では、3月11日から14日まで第三回百霊杯世界囲碁オープン戦統合予選が行われていたのだが、こちらは多少忘れられがちだったようだ。

 百霊杯は中国が2012年(平成24年)に設立された国際棋戦で、予選にはプロ棋士が参加してもいいし、アマチュア棋士もプロに挑戦できるチャンスがある。今回の予選に応募した棋士は409名にものぼり、長年試合に出ていなかった中国地方棋士もたくさん北京に集まり、囲碁を通じて友人と交流をした。だが、AlphaGoと李九段の戦いがプロ碁界に大きな衝撃を与えたせいか、AlphaGoが三連勝してから、百霊杯予選の現場では、どこの対戦後の検討でも「AlphaGoなら、どう打つだろう」という声が聞こえた。

 強力な囲碁プログラムがプロ碁界に深く影響を与えた。厳在明三段(18歳)は白番で曹潇陽四段と対戦した時に、AlphaGoが李世乭との五番勝負第二局で着手したのと同じコスミを打った。今までの囲碁における発想では、この一手は絶対に打てない筋だった(図⒈左下)。AlphaGoに二子を置かせてもよいと言い放った羅洗河九段(38歳)は、若い世界チャンピオン周睿羊九段(25歳)を負かし、自分の発言は妄言ではないと証明したようだ。人間による囲碁はまだまだ見どころがあるのだ。また今回の予選では、韓国の金彩瑛二段(20歳)、金多瑛初段(18歳)が同じグループでともに戦った場面もあった。

 結果、中国30人、韓国18人が予選を突破した。予選決勝に残った中国アマチュア棋士三名は、残念ながら本戦には入れなかった。本戦は6月末に北京で開かれる。

厳在明三段(右)が曹潇陽四段に勝った
羅洗河九段(左)が周睿羊九段に勝った。金志錫九段(26歳)、元晟溱九段(30歳)、崔哲瀚九段(30歳、後ろに立っている人右から左)、連笑七段(21歳)など、超一流棋士が観戦

金彩瑛二段(左)、金多瑛初段(右)姉妹
ヨーロッパプロのアリ・ジャバリン初段(イスラエル)が台湾棋士を破った


(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2016年3月17日 ]

第十七回農心杯世界囲碁最強戦

中国チームが優勝、左から古力九段(33歳)、
柯潔九段(18歳)、連笑七段(21歳)

 黄浦江の両岸ではきらきらと煌めいて、百年前の旧フランス租界時代からそびえ立ってきた金融ビルが極彩色に輝いている。上海のバンド(外灘)、この中国での一番賑やかな大都市の中心地で、3月1日から5日にわたって、三ヵ国の勝ち抜き団体戦、第十七回農心杯世界囲碁最強戦の最終第3ラウンドが行われた。毎年の初春、韓国のラーメン会社が協賛するこの中日韓三国の最強棋士たちが対決する棋戦は、上海で最終決戦を迎える。

 今回の農心杯では、三国の棋士たちがそれぞれ実力を存分に発揮した。日本チームの先鋒一力遼七段は第1ラウンド(重慶)で開幕早々いきなり三連勝を達成したのだが、これはこの十数年で日本棋士が残した数少ない好成績である。一力は、この活躍で日本棋道賞の国際賞を受賞した。その後、中国チームの名将古力も第2ラウンド(釜山)で三連勝し、この活躍で中国チームは人数的に大きく優勢となった。第3ラウンド(上海)が始まった時、中国チームは古力九段、連笑七段、柯潔九段の三名、日本チームは村川大介八段、井山裕太九段の二人、そして韓国チームは主将の李世乭九段しか残っていなかった。

 3月1日、村川八段が古力九段の連勝を止め、日本棋士の実力を示した。だが次に登場した33歳の李世乭九段が、窮地に追い込まれながらも闘志を燃やし、村川八段、連笑七段、井山九段を破り続けた。この怒涛の三連勝により韓国チーム優勝の望みが最後戦までつながることとなった。逆に残念に感じられたのは井山九段である。日本国内棋戦のスケジュールの関係で、現在年に一回だけ農心杯にしか参加できていない。負担が重いこともあるのか、井山九段は本来の実力を示すことができなかった。

 3月5日、三連勝と勢いに乗っている李世乭九段が、再び柯潔九段の前に座った。農心杯は連勝者を偏愛する傾向がある。十年前、李昌鎬九段が農心杯で五連勝し、逆転勝ちで韓国チームに賞杯をもたらしたシーンが、今現在でも思い出されるが、これはテレビドラマ化されたほどである。しかしながら今回は結局、李世乭九段は柯潔九段を破ることができず、1月の夢百合杯、2月の賀歳杯に続き、また柯潔九段に敗れることとなった。柯潔が冷静さを発揮し、中国チームは農心杯での三連覇を達成した。


決勝戦李世乭九段が白番で柯潔九段との実戦譜。井山裕太九段は研究室で、黒37した時、白38が41でツギか、あるいはA位でハネかと打つべきだと強調し、実戦は黒41、43と一子を取られて白の難局になったと述べた。序盤での遅れが李九段が今回負けた重要な原因と言えよう。

(記事:楊爍 写真提供:『囲棋天地』)

棋声人語 [ 2016年3月1日 ]

中国囲碁段位制度改革

 「一品入神、二品坐、三品具体、四品通幽、五品用智、六品小巧、七品闘力、八品若愚、九品守拙」、これは中国の三国時代から伝わってきた「囲碁九品」というものである。中国の南北朝の時期には、中央政府のより全国で囲碁の実力を評価する「品棋」という活動を行われたこともあったようだ。この「囲碁九品」は日本に伝わってから、本因坊道策によって「囲碁段位制」として確立され、今でも使われている。

 今の中国囲碁段位制は1982年(昭和57年)に始まり、中国国家体育運動委員会(現国家体育総局)が陳祖徳、呉淞笙、聶衛平に九段を授与したことが中国囲碁職業化(スポーツマンとする)の発端となった。それからの二十年は、中国棋士が昇段したければ、年に一度の昇段戦(大手合)に参加するしかなかった。21世紀に入り中国囲碁界が国際棋戦をより重視するようになってからは、2002年(平成14年)、2012年(平成24年)の二度も昇段制度の改正が行われた。国際棋戦で優秀な成績を取れば直接五段、七段あるいは九段にまで昇段することができる。唐韋星、柁嘉熹などの棋士はみな世界チャンピオンに輝いたことで三段から直接九段に昇段した。だが、等級分制度(点数制のランキング)などが行われていることにより、段位制は中国囲碁界で棋士の実力を評価する意味を失い、単純な名誉称号となっている。そのため、多くの棋士が昇段戦に出場しなくなっている。今では、昇段戦出場しているのは最高で六段の棋士となっている。

 これまでの制度だと、中国棋士は八段に昇段することができず、女流棋士は最高五段にまでしかなれなかった。そんな中、2016年に中国囲碁協会は段位制の改革を実行、すべての中国棋士(段位差が二段以内)の間での等級分戦(中国公式戦)を昇段基準に追加した。計算方法は今までの中国昇段戦と同じ(同段位の間で一局の勝ちが90点、負けが30点、一段の差につき5点の調整がある)だが、昇段に必要な対局数は前より四局増えることとなった。例えば、初段の場合、公式対局12~15局で平均75点、16~19局で平均70点、そして20局終わった時点で平均67.5点を維持できたら、二段に昇段することができる。

 この新規定のもとでは、李欽誠のように昇段戦に出ない活躍中の新鋭棋士が初段に滞っている奇妙な状況は二度と現れることはなくなるだろう。その逆で「初段が九段に直接昇段する」のような仰天ニュースもなくなるだろう。

昇段
条件
必要
回数
内容
九段1回国際棋戦(応氏杯、LG杯、三星杯、春蘭杯、百霊杯、夢百合杯)及びテレビ囲碁アジア選手権で優勝
国際団体戦(農心杯)で3連勝以上してチームの勝利を決定させる
2回テレビ囲碁アジア選手権の準優勝 / 世界団体戦(農心杯)で1勝か2勝し試合を終わらせる
-八段での公式対局26~29局で75点、30局~33局で70点、34局終了時点で67.5点の平均点を維持できた場合
八段-七段での公式対局24局~27局で75点、28局~31局で70点、32局終了時点で67.5点の平均点を維持できた場合
七段1回中日阿含桐山杯日中決勝で一回優勝(中韓対抗戦でもいいが、中韓天元対抗戦がもう中止となった)
農心杯で一回四連勝及び以上
-六段での公式対局22局~25局で75点、26局~29局で70点、30局終了時点で67.5点の平均点を維持できた場合
六段-五段での公式対局20局~23局で75点、24局~27局で70点、28局終了時点で67.5点の平均点を維持できた場合
五段1回女子国際棋戦(穹窿山兵聖杯)で優勝
女子国際団体戦(黄龍士双登杯)で3連勝以上でチームの勝利を決定させる
2回女子国際棋戦(穹窿山兵聖杯)準優勝 / 女子国際団体戦(黄龍士双登杯)で1勝か2勝しチームの勝利を決定させる
-四段での公式対局18局~21局で75点、22局~25局で70点、26局終了時点で67.5点の平均点を維持できた場合
四段-三段での公式対局16局~19局で75点、20局~23局で70点、24局終了時点で67.5点の平均点を維持できた場合
三段-二段での公式対局14局~17局で75点、18局~21局で70点、22局終了時点で67.5点の平均点を維持できた場合
二段-初段での公式対局12局~15局で75点、16局~19局で70点、20局終了時点で67.5点の平均点を維持できた場合

(記事:楊爍)

棋声人語 [ 2016年2月17日 ]

第四回CCTV杯賀歳杯

 「あけましておめでとうございます。よいお年を!」このごろ中国で一番流行っている挨拶である。2016年2月8日から中国は旧正月に入った。「春節賀歳」、急速に変化している現代中国にあって伝統的な雰囲気がもっとも濃い時期である。

 毎年の旧正月前後、中国のどの家庭でも、1年間外で苦労し頑張った家族を迎え、提灯をともし、除夜の晩餐をしながら、久々の一家団欒を楽しむ。それ故に、この時期は囲碁の棋戦も小休止となっている。

 そんな中、2013年(平成25年)から、中国中央テレビ(CCTV)が囲碁愛好者に「賀歳」するためにテレビ早碁棋戦(NHK杯と同じルール)を「賀歳杯」と名付けて始めた。

 第一回賀歳杯は中国の国内棋戦として行われ、当時の中国囲碁甲級リーグのMVP古力九段と最優秀主将の時越九段が決勝戦で対決し、時九段が優勝を収めた。続く第二回では、中日韓の選手が参加する変則トーナメント方式の国際棋戦に変更され、旧暦正月二日から五日まで生放送で放送された。日本の村川大介七段(当時)は一回戦で時越九段に敗れたが、続いて対戦した韓国の李世乭九段を破って復活を果たした。しかし、決勝戦では再び時九段に敗れた。第三回では、中国と韓国の選手がそれぞれ柁嘉熹九段と金志錫九段に変わった。結果は二人がそれぞれ村川八段に勝ち、決勝戦では柁九段が勝利した。

 今年の第四回、中国棋士の柯潔九段(18歳)は運も味方につけて自国のファンに「賀歳」を続けた。一回戦では不思議とも言えるほどの逆転劇で日本の一力遼七段に勝利。決勝戦では、一カ月前の第二回夢百合杯囲碁世界オープン戦に続き、李世乭九段に勝って優勝した。賀歳杯は囲碁愛好者にとっての一大イベントだけでなく、参加棋士にとって「お年玉」とも言えよう。柯九段はこの優勝で80万人民元(約1400万円)を獲得した。これはほぼ日本の王座戦の優勝賞金と同じ額である。


柯九段は黒番で一力七段と対戦。一力七段は白番で序盤では明らかに優勢を持っている。柯九段は精一杯追いつこうとしたが、ここまではまだ一力七段が優位に打ち進めていた。だが、秒読みの中で一力七段は大きな盲点を突かれた。白180、186と続けて先手を打ち、そして白188にノビを打ったのだが、黒189に切られて大きな損をした。もし、180、186のどちらかを交換しなかったのなら、白188のノビが成立していた。それで、白は負けないであろう。一力七段にとって非常に残念な一局だったのではなかろうか。

(記事:楊爍)

棋声人語 [ 2016年2月3日 ]

第七回中国竜星戦 決勝

対局会場

 中日両国の囲碁界交流には長い歴史がある。この三十年、NEC、阿含宗、リコーなどが中国棋界で棋戦を作った。近年始まった中日囲碁友好を象徴する棋戦が日本の囲碁将棋チャンネルが2009年に作った竜星戦である。

 当初、中国竜星戦は日本と同じモデルを採用した。事前に対局を録画して、後日テレビで放送。放送前は結果を非公開とする。だが、今ではもう完全に「中国化」している。最初はネット予選を行い、本戦は中国棋院で実施。準々決勝からの対局は天元囲碁チャンネルスタジオで録画される。放送は翻訳され、日本でも放送されている。ちなみに2014年からは、中日両国の竜星戦優勝者の対抗戦も実施されるようになった。

 日本竜星戦は8ブロックに分け、パラマス式のトーナメント戦を戦って、各ブロック優勝者や優勝者を除く最多勝ち抜き者が決戦トーナメント戦に出場する。これに対し、中国竜星戦は本戦に入ってから64名の棋士によるトーナメント戦で行われる。芈昱廷九段(20歳)は今回丁浩三段(15歳)、檀嘯七段(22歳)、連笑七段(21歳)、周睿羊九段(24歳)に勝ち続け決勝に進出した。その決勝戦は1月27日、28日に三番勝負の形式で行われ、芈九段が2勝0敗で陳耀燁九段(26歳)に勝ち、初優勝を飾った。

 芈九段は江蘇省徐州市の出身で、裕福な家庭で育ったわけではなかったが、幼少時代に囲碁の才能が見いだされてからは、父親が一家の総力をあげて息子を応援、上海や北京などに囲碁修行に行かせた。結果、この賭けは成功。芈は2007年(平成19年)に入段、2013年(平成25年)に古力九段(32歳)を破り、第1回夢百合杯世界囲碁オープンで優勝した。そして、同世代の囲碁を学んでいる少年たちの代表となったのだ。しかし、芈九段は国際棋戦では立派で誇らしい成績を飾ったのだが、これまで国内棋戦ではあまり実績がなかった。今回の竜星戦優勝は芈九段にとって、特別な意味があるだろう。


第七回中国竜星戦の準決勝で面白い形が偶然出現した。黄云嵩四段(18歳:黒番)が陳耀燁九段と対戦。今流行している布石だと、白10の後は白12でAくらいが普通で、それからの変化はかなり複雑である。陳九段が白12を選んだことで伝統的な形に戻り、その後白14の下ツケから白16のトビまでとなった。ここまでの序盤戦は昨年12月25日の中日阿含桐山杯対抗戦で井山裕太九段(26歳)が白番で黄四段と対戦した一局とまったく同じである(手順がわずか違うが)。陳九段が意図的にわざと選択したとは言いかねるが、同じ布石を選んだ黄四段は、今回もまた負けてしまったのである。

(記事:楊爍  写真提供:sinaサイト)

棋声人語 [ 2016年1月29日 ]

第30期中国天元戦 本戦

天元戦本戦の対局会場

 序盤では精妙な構想で豪快に捨石をして優勢を築きながら、終盤に入ったら、秒読みによまれミス連発して結局負けてしまう。年配の先輩棋士がこのような形で敗れ去るのは心を痛いことであるが、仕方がないことでもある。1月23日、第30期中国天元戦の挑戦者決定戦で、この一幕がまた再現された。

 かつて2003年(平成15年)から2008年(平成20年)まで中国天元を六連覇した古力九段(32歳)は中国棋界の王者であった。それと同時に、中国名人も六連覇、世界戦でも何回も優勝した。だが、2009年(平成21年)に陳耀燁九段(26歳)に天元を奪われてから、「古力王朝」は急速な衰えを見せた。それから古力が中国の国内棋戦で優勝するのは難しくなり、世界戦では五年間も優勝がない。

 1月15日、第30期中国天元戦本戦が開幕した。天元戦は中国棋界での最も歴史の長い新聞棋戦で、上海の「新民晩報」主催で行われる。試合日程も毎年同じ時期に決まっており、中国の旧正月の前に挑戦者が決まり、春が来る時に江南の古鎮同里で挑戦手合三番勝負が開催される。中国天元戦本戦に参加したのは32人で、9日に五試合行われ、古力九段は謝科二段(16歳)、王昊洋六段(27歳)、周賀璽五段(23歳)、謝爾豪二段(17歳)を立て続けに負かし決勝戦まで進出したが、最後は、惜しくも唐韋星九段を前に力尽きた。

 今年天元戦が三十年を迎える記念に、主催者に計らいで決勝戦の時に歴代天元、聶衛平九段(63歳)、劉小光九段(55歳)、馬曉春九段(51歳)、常昊九段(39歳)、黄奕中七段(34歳)、古力九段を招いて、記念イベントが行われる予定である。ちなみに、同里の人は挑戦者決定戦が行われる時、四月の挑戦手合の際は古力九段がゲストではなく挑戦者として同里に来てほしいと希望を語っていたのだが、勝利の女神が若い方を偏愛するのは、また残酷な現実である。


挑戦者決定戦の対局。ヨセに入ると、形勢は非常に細かくなっている。黒番の古力九段は白Aの先手を打ち忘れ、逆に白に先着されて劣勢に陥った。黒Bも秒読みによまれた普段ではありえないポカで、白△に切断され、碁が終わってしまった。

(記事/撮影:楊爍)

棋声人語 [ 2016年1月22日 ]

中国囲碁界2015

 「滾滾長江東逝水,浪花淘尽英雄」。(滔々と流れる長江は、東方へ流れ去り、この長江と似ている歴史の流れの中では、名を残した英雄たちも歴史の白波によって選別される。)2015年、常昊九段(39歳)、孔傑九段(33歳)のような一つの世代を代表した名前も今や、試合で目にすることが少なくなっている。「三十代」で、今でも後輩たちに対抗できているのは古力九段(32歳)一人となってしまった。6月、古力は周睿羊九段(24歳)を破り、第十回春蘭杯世界囲碁選手権で優勝した。そして9月、北京の清華大学に入り、歴史学科の学生になった。

 新人もどんどん出てきている。2015年、一番注目されたのは柯潔九段(18歳)、1月、12月そして、2016年1月に第二回百霊杯世界囲碁オープン戦、第二十回三星火災杯世界囲碁マスターズ、第二回夢百合杯世界碁オープン戦で立て続けに優勝し、嵐のようなスピードで「この人こそ今の中国囲碁界の第一人者」と言わしめることとなった。

 また女子では、柯潔と同じ年齢の於之瑩五段(18歳)が女子碁界の覇権を固めた。第六回穹窿山兵聖杯世界女子囲碁選手権と第十三回建橋杯中国女子囲碁オープン戦の優勝を果たした。そして他にも、黄雲嵩四段(18歳)、辜梓豪四段(17歳)などの「十代」棋士が棋戦で優勝し、中国囲碁界の主力に成長した。

 2015年も中国囲碁界では色々なことがあったのだが、いいこともあればよくないこともある。棋聖戦(最後の優勝者:周睿羊九段)、電視快棋戦(最後の優勝者:李欽誠初段(17歳))、理光杯(最後の優勝者:柯潔九段)そして招商地産杯中韓対抗戦がこの年をもって終了した。今現在、中国囲碁界で全棋士が参加できる国内棋戦は七つしかない。なお、倡棋杯以外、ほかの棋戦の予選は全部ネットで行われるようになっている。

(記事:楊爍)

現在の中国囲碁界の主要棋戦は下記の通り

棋戦現優勝者優勝賞金(人民元)参加資格
中国男子囲碁甲級リーグ杭州チーム(蘇泊爾)50万元12チーム(各チーム4名)
中国女子囲碁甲級リーグ江蘇チーム30万元10チーム(各チーム2名)
天元戦陳耀燁九段(26歳)20万元すべての棋士
名人戦連笑七段(21歳)15万元すべての棋士
倡棋杯連笑七段(21歳)45万元すべての棋士
阿含桐山杯黄雲嵩四段(18歳)20万元すべての棋士
竜星戦柁嘉熹九段(24歳)12万元すべての棋士
衢州爛柯杯(二年一回)范廷鈺九段(19歳)50万元すべての棋士
個人戦辜梓豪四段(19歳)なしすべての棋士
威孚房開杯柯潔九段(18歳)15万元ランキング上位30名
西南王戦(地方棋戦)唐韋星九段(22歳)8万元四川、貴州、雲南などの
省チーム棋士16名
建橋杯(女流棋戦)於之瑩五段(18歳)25万元女流棋士
新人王戦(新鋭戦)廖元赫二段(15歳)6万元16歳以下の若手棋士

棋声人語 [ 2016年1月12日 ]

第17期阿含・桐山杯日中決戦

 一生の中に、十三年はいくつあるだろう。青年から中年へ、中年から老年へと変わる。今では、どのプロ棋士でも自分の好調期が十三年も続けられるとは言い切れないだろう。

 阿含・桐山杯中日対抗戦では、日本勢は十三年間も勝っていない。十三年の中で、加藤正夫名誉王座(1947――2004)をはじめ、「平成四天王」の羽根直樹九段(39歳)、山下敬吾九段(37歳)、張栩九段(35歳)、それから、二十代の井山裕太九段(26歳)、村川大介八段(25歳)、日本阿含・桐山杯の優勝者は中国のチャンピオンに、十二回相対し戦ったが、一度も勝利を収められなかった。途中まで優勢でも、結局最後には敗れてしまう。これはもう国際棋界の不思議の1つである。

 2015年12月25日クリスマス、四回目の出場となる井山裕太により、ようやくこの連敗に終止符が打たれる。30秒一手の中国阿含・桐山杯ルールを採用し、対局は中国四川省成都市で行われた。対局の結果、井山裕太は黄雲嵩四段(17歳)に白番中押し勝ちを収めた。黄は中国若手棋士の有望株で、2015年にGLOBIS杯世界囲碁U20 で優勝した。しかも、今回勝利すると七段に昇段できるという状況だったのだが、井山が見事「日本囲碁六冠王」の実力を発揮し、2015年の最後を有終の美で飾った。

 対局後の記者会見で、井山は「中国や韓国の棋士と取っ組み合う時、それなりの実力が備わっていないと勝つことが難しい。」と述べた。より多くの日本棋士の実力がさらに向上すれば、中日韓三国の争いは一層素晴らしくなるだろう。

井山裕太九段が対局室に入る
試合直前、中日マスコミが大注目

対局会場、右は黄雲嵩四段、立会人王汝南八段(69歳)
井山裕太九段が優勝後賞杯を受ける

(記事/撮影:楊爍)



金竜城杯世界囲碁団体選手権

 「昭和の巨星」小林光一名誉棋聖(63歳)、二十五世本因坊治勲(59歳)、「三つの耳さん」聶衛平九段(63歳)、中国棋界に「虎」と呼ばれる依田紀基九段(49歳)、中国の「竜」と「虎」の代表常昊九段(39歳)と古力九段(32歳)、韓国両世代の第一人者李世乭九段(32歳)、朴廷恒九段(23歳)……このように多くの新旧超一流の棋士が集まり、また新旧時代の棋士による対局を見ることができるこの棋戦が注目されるのも理解できるだろう。

小林光一九段と李世乭九段(左)の時代を超えた対戦
選手カードを胸に付けた聶衛平九段はまだまだ健闘、鄭弘九段(47歳)、陳詩淵九段(30歳)、小林光一九段を負かし続ける。

 2015年12月16日から22日まで中国広州省広州市で開かれた 金竜城杯世界囲碁団体選手権には中国、韓国、日本、中華台北、オーストラリア、ポーランド、ドイツ、ロシア、フランス、ウクライナ、シンガポール、イスラエル、中国香港、中国マカオ、マレーシアの十五カ国・地域の十八チームが参加した。中国、韓国、日本、中華台北以外の十一のチームは12月16日に三ラウンドの予備予選を行い、その中の九チームが予選に進んで、中国、韓国、日本、中華台北からの七つのシードチームやワールドカードチームと12月17日から19日まで五ラウンドのスイス式トーナメント戦を戦った。また予選を通過した上位四チームが三人の相談碁で対戦し、準決勝、決勝を経て、最後の優勝チームを決定する。優勝賞金は200万人民元(約3700万円)。

 さて今回の大会は、三十年前に日中スーパー囲碁で「波瀾万丈な一局」を繰り広げた聶九段と小林九段が三十年ぶりに再会した。また、小林九段、聶九段は、これまで対戦がない韓国の李九段、朴九段のような「時代の寵児」とようやく同じ碁盤の前で相対することとなった。二十五世本因坊治勲と朴永訓九段(30歳)の韓国出身の一流棋士同士は、第18回三星杯決勝戦以来、十二年ぶりに再会を果たした。さらに、数多くの青い目をした中日韓台以外の外国棋士も参加し、世界囲碁の「カーニバル」の様相を呈していた。

 結果の方だが、朴廷桓九段、金志錫九段(26歳)、李東勳五段(17歳)の韓国シードチームが決勝戦で半目勝ちを収め、柯潔九段(18歳)、時越九段(24歳)、周睿羊九段(24歳)の中国シードチームに勝利し、前回に引き続き、この斬新な団体戦の覇者となった。


常昊九段(左)を相手に、一時に優勢を持っていた趙治勲九段は秒読みの段階で逆転された。
左から:王立誠九段(57歳)、陳詩淵九段、林立祥六段(22歳)、余正麒七段(20歳)、林君諺六段(18歳)の五名の台湾出身の棋士が検討している。

ドイツのアマチュア選手ジョナス(右)は黒で依田紀基九段に「7・7」という奇妙な布石を披露した。
蘇耀国九段(36歳)、余正麒七段、依田紀基九段の日本シードチームがベスト4に入った。

周睿羊九段、時越九段、柯潔九段(座っている人左から)の中国シードチームが相談碁中
李東勲五段、金志錫九段、朴廷桓九段(座っている人左から)の韓国シードチームが優勝

(記事/撮影:楊爍)

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