ヨーロッパ囲碁ニュース

ヨーロッパの囲碁ニュース・棋戦情報をお伝えします。

囲碁ニュース [ 2024年12月10日 ]

ジャック・ルボー氏が死去

仏人数学者・作家のジャック・ルボー氏が亡くなった。92歳だった。ルボー氏は、1960年に創設された数学と文学とを融合させつつ、言葉遊びなども多用した新たな文学表現を探し求める運動ウリポ(Oulipo)に参加。数学者フランソワ・ルリヨネ、文学者レイモン・クノー、ジョルジュ・ぺレックといった人々と交流し、日本の伝統文学などにも影響されつつ多くの文学作品を残した。1969年には、フランスで初めての囲碁に関する書籍『Petit traité invitant à la découverte de l'art subtil du go(繊細な芸術・囲碁の発見に誘う書)』をぺレック、ピエール・リュソンの両氏と共著した。

ルボー氏は、2014年のインタビュー(https://www.youtube.com/watch?v=klW4bjM-H-s)において、囲碁との出会いについてこう語っている。

「囲碁に出会ったのは数学のせいなのです。私も参加していた数学者集団『ブルバキ』の中心人物の一人だった数学者のクロード・シュヴァレー氏がパリ大学で教鞭を取っていた頃、同氏の圏論のゼミに通っていました。ゼミで発表するためには、教授のパリの自宅に行かなければならなかったのですが、行くと(これは皆からすでに予告されていましたが)、机の上に碁盤があり、一局並べてあるのです。教授、これはいったい何ですか、と質問するのは危険なことでした。教授はすぐに、これは囲碁だよ、教えてあげようか、と説得にかかるからです。シュヴァレー教授は日本で囲碁に出会ったのですが、パリに戻ってきても打つ人がおらず、悶々としていたのでしょう。私はシュヴァレー教授と囲碁を打ち、教授は私に碁の英語誌『Igo Review』を下さいました。こうして、私は教授の助手をしていたリュソン氏と話し合い、シュヴァレー教授が囲碁を打てるように、囲碁の初心者本を書いて囲碁コミュニティを作ろうじゃないか、ということになったのです」

『Petit traité invitant à la découverte de l'art subtil du go』については、「ぺレック、リュソン、私のいずれもそれほど囲碁が強くなかったので、技術的な内容は大したことはないかもしれませんが、素晴らしい言葉遊びが盛り込まれていますよ。例えば、囲碁には『先手 sente』という大事な観念がありますが、これがフランス語の健康(santé)と同じ発音なので、『senteさえあれば、辛いこともなんでもないさ(『健康さえあれば、辛いこともなんでもないさ』というお気楽なシャンソンのタイトルにかけたもの)』といった箴言をいれたものです。私自身は、もうはるか昔に囲碁を止めてしまいましたが…。」と笑った。しかし、この本がきっかけとなって、パリ、そしてフランス各地に囲碁クラブができ、現在のフランス囲碁界へとつながっていくのである。

ぺレック(左)と対戦するルボー氏。1970年。ぺレックは、「e」の文字を使わずに書かれた小説『Disparition』をはじめとする作品群で有名。© Association Georges Perec
『Petit traité』。重版を重ね、未だに出版されているロングセラーである。

ハンガリーオープン、フレイラック1pが優勝

ハンガリーオープン大会が11月23-24日にかけてブダペストで開かれた。今年の大会は、欧州囲碁連盟のグランプリツアーの一つを構成しており、合計で75人が参加した。

参加者。(写真:ハンガリー囲碁連盟、欧州囲碁連盟)

大会は全勝者のいない大混戦となったが、4勝1敗でスタニスワフ・フレイラック1p(ポーランド)が優勝した。2位には地元出身のベテラン、チャバ・メロ6dが、3位にはフレイラック1pに唯一土を付けた若手有望株のユーツェ・シン6d(ドイツ)が入賞した。

成績優秀者。左端が優勝のフレイラック1p。続いて2位のメロ6d、5位のバンジャマン・ドレアンゲナイジア7d(フランス)、4位のパル・バログ7d(ハンガリー)、3位のシン6d、6位のライアン・ツァン4d(英国)

ベルリン・クラニック大会、クルシェルニツキー7dが優勝

ブダペストでハンガリーオープンが開かれた同じ週末、第44回目となる独ベルリン・クラニック(鶴を意味する)大会が開催された。12か国から127人が参加した。

5回戦の結果、ヴァレリー・クルシェルニツキー7d(ウクライナ)が全勝優勝を果たした。2位はイシン・ユアン5d(アイスランド)、3位はシンホン・チェン5d(ドイツ)だった。また学生として最高位(4位)に前川かく6d、女性として最高位(11位)に前川あきら5dが入賞した。

成績優秀者。左から2番目が優勝のクルシェルニツキー7d。(写真:ドイツ囲碁連盟)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2024年10月21日 ]

欧州学生選手権、ジェポフ5dが優勝

欧州学生選手権が9月7-8日にセルビア・ノビサドのノビサド大学で開催された。地元セルビアに加え、ブルガリア、チェコの3か国から10人が参加した。
5回戦の結果、ブルガリアのシナン・ジェポフ5dが全勝優勝を果たした。2位はチェコのレオン・ドゥフェル3d、3位はセルビアのヴク・デュシャニッチ1dだった。

大会の様子。(写真:欧州囲碁連盟)
中央が優勝したジェポフ5d。左が2位のドゥフェル3d、右が3位のデュシャニッチ1d。

ジェポフ5dは2020年、欧州青少年選手権U20で準優勝するなどの実績があるが、ここ数年は囲碁から離れていた。復帰戦で嬉しい優勝を果たした。

リ・ティン1p、欧州女流選手権連覇

欧州学生選手権に続く週末の9月14-15日にかけて、欧州女流選手権がスロバキアのブラチスラバにおいて開催された。10か国から24人が参加した。
5回戦の結果、関西棋院所属のリ・ティン1pが全勝で2連覇を果たした。2位はマーニャ・マルツ4d(ドイツ)、3位はオレシア・マルコ4d(ウクライナ)、4位はリタ・ポチャイ5d(ハンガリー)だった。

対局の様子。
最終戦、リ・ティン1pとポチャイ5dの対局。大熱戦の末リ・ティン1pが勝利を収めた。
中央が優勝のリ・ティン1p。左が2位のマルツ4d、右が3位のマルコ4d。新鋭のマルコ4dはポチャイ5dを破って3位入賞。

ディープマインドの創設者、ハサビス氏にノーベル化学賞

2024年ノーベル化学賞に、ディープマインド(現グーグル・ディープマインド)を創設したデミス・ハサビス氏、同社の研究者ジョン・ジャンパー氏が選ばれた。タンパク質の立体構造を予測するAIツール「AlphaFold2」の開発が評価された。ワシントン大学のデイビッド・ベイカー氏と同時受賞となった。

ディープマインドは囲碁AI「AlphaGo」を開発、2016年のイ・セドル9pとの対局などが話題を呼んだ。ディープマインドの研究チームはその後、AIを活用し、タンパク質の構造予測に挑戦、「AlphaFold」の開発に至った。タンパク質の構造を理解することは、特定のタンパク質をターゲットにしたり、その行動を変化させることにつながり、医療では重要な課題となる。タンパク質は2億以上存在する。タンパク質はアミノ酸の鎖から成っており、これが「折り畳まれて(Fold)」三次元構造を創り出すが、科学者はその構造予測に悩まされ、これまで構造が同定されたタンパク質は17万個にとどまっていた。ディープマインドは「AlphaFold」の第2バージョンである「AlphaFold2」においてかつてない予測の精度を達成することに成功。ノーベル賞選考委員会もこの成果を「完全な革命」と評価した。
ハサビス氏は、受賞を受けて、「私はAIが世界を変えられると信じており、AIに人生を捧げてきた」と語った。また、子供達にビデオゲームで遊ぶだけでなく、ビデオゲームを作ることにも興味を持ってほしい、と述べ、自分自身も、若い頃にゲーム作成に取り組んだことが、後のAIでの経験に役立っていると明かした。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2024年9月12日 ]

欧州囲碁コングレス、仏トゥルーズで開催

欧州囲碁コングレスが7月26日から8月10日にかけて仏トゥルーズで開かれた。パリ・オリンピックとほぼ同じスケジュールでの開催となった。コロナ禍も次第に過去のものとなり、対面式のコングレスが再開して2年目。観光大国フランスでの開催ということもあり、全部で1500人を集める巨大な大会となった。

会場となった航空学校ENACでの集合写真。(写真:Matthieu Aveaux、以下同)
大会の冒頭で行われたパンダネット主催の国別チーム対抗戦では、フランスが全勝で3年ぶりの優勝を果たした。2位はウクライナ、3位はチェコ、4位はポーランドだった。
対局場の様子。
中国製の対局ロボットのデモンストレーション。
ペア碁大会の様子。100ペア以上が参加した。
欧州選手権決勝の様子。ウクライナのアンドリー・クラヴェッツ1p対フランスのトマ・ドゥバール7dの対決となった。クラヴェッツ1pが手厚い打ち回しで4目半勝ちを収め、2連覇を果たした。3位はスウェーデンのフレドリック・ブロンバク7d、4位はフランスのデニス・カラダバン6dだった。
実況解説の様子。真ん中は日本棋院のアンティ・トルマネン1p、右はドイツのルカス・クレマー6d。
関西棋院の林耕三7pによる解説にはいつも人だかり。
日本棋院の内田修平8pも参加した。

来年のコングレスは、ポーランドのワルシャワで開催される予定。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2024年7月7日 ]

プラハ大会、盛況に

第52回となるチェコ・プラハ大会が4月末に開かれた。27カ国から169人が参加した。

会場の様子。(写真:チェコ囲碁協会、欧州囲碁連盟)

6d以上の20人から成るトップグループではハイレベルな戦いが繰り広げられた。6回戦の結果、韓国のキム・ドヒョプ7dが6戦全勝で優勝した。2位はアリ・ジャバリン2p(イスラエル)、3位はアンドリー・クラヴェッツ1p(ウクライナ)だった。

成績優秀者。

パンダネット・欧州チーム選手権、決勝進出国が決定

パンダネット主催の欧州チーム選手権はオンラインの予選ステージを終え、4か国の決勝進出国が決定した。昨年優勝のウクライナは7勝2分の負けなしで1位。これに、フランス(5勝3分1敗)、ポーランド(4勝4分1敗)、チェコ(5勝2分け2敗)が続いた。ウクライナ、フランス、チェコは昨年に続く決勝進出となった。決勝ステージは7月26-27日にかけて仏トゥルーズにおいて、欧州囲碁コングレスに先立って開かれる。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2024年5月20日 ]

欧州ペア碁選手権、フランスペアが優勝

欧州ペア碁選手権が4月19-21日にかけて開催された。場所はクロアチア有数の観光地、ドブロブニクである。11か国から20ペアが参加した。

参加者は観光も楽しんだ。(写真:Mirta Medak、欧州囲碁連盟)

ルーマニアのラウラ・アヴラム3dとデニシュ・ドブラニシュ5dペアが3連勝で走る展開となったが、第1戦に敗れたフランスのミレナ・ボクレ4dとフロラン・ラボレ5dのペアが第4戦でルーマニア・ペアを撃破。最終戦は共に勝って4勝1敗で並んだものの、規定によりフランス・ペアの優勝になった。

一部の対局には、電子碁盤が用いられた。
優勝したフランスのボクレ/ラボレ・ペア。

準決勝以降の結果は以下の通り。

順位 名前(ペア) 平均段級位 勝敗
1 ミレナ・ボクレ
フロラン・ラボレ
4d フランス 4-1
2 ラウラ・アヴラム
デニシュ・ドブラニシュ
4d ルーマニア 4-1
3 イトカ・バルトヴァ
オンドジェイ・シルト
4d チェコ 3-2
4 ロヴァ・ヴァーリン
チャーリー・アーケルブロム
3d スウェーデン 3-2
5 ミルタ・メダック
スチェパン・メダック
3d クロアチア 3-2
6 ニョシ・カオ
アントワーヌ・フネック
3d フランス 3-2
7 マーニャ・マルツ
ヨハネス・オブナウス
5d ドイツ 2-3
左から2位のルーマニア、優勝のフランス、3位のチェコペア。

欧州青少年選手権、ハンブルクで開催

欧州青少年選手権が3月半ばにドイツ・ハンブルクにて開催された。同時に一般を対象としたMausefalle大会、ドイツ女流選手権も開かれ、豪華な大会となった。

大会の様子。こちらも、上位では電子碁盤が用いられた。(写真:欧州囲碁連盟)
指導碁の様子。
会場前にて集合写真。

各カテゴリーの結果は以下の通り。

< 12歳未満(U12)> 参加者数:38人

昨年4位だったチェコのダッハ2dが全勝で初優勝を果たした。

順位 名前 段級位 勝敗
1 バルティク・ダッハ 2d チェコ 6-0
2 ベンデ・バルツァ 2d ハンガリー 5-1
3 ライアン・ツァン 3d 英国 4-2
4 アルペル・スラク 3d トルコ 4-2
5 ヤコヴ・シチッチ 4k クロアチア 4-2
U12の上位入賞者。

< 18歳未満(U18)> 参加者数:52人

昨年、U16において2位に入賞したシン5dが優勝を果たした。

順位 名前 段級位 勝敗
1 ユツェ・シン 5d ドイツ 6-0
2 スチェパン・メダック 3d クロアチア 5-1
3 ヤン・コミン 2d チェコ 4-2
4 ロベルト=
アンドレイ・グロス
3d ルーマニア 4-2
5 オレシア・マルコ 3d ウクライナ 4-2
U18の上位入賞者。

< 21歳未満(U21)> 参加者数:8人

U21は全勝者のない大混戦。5勝1敗で3人が並んだが、ブノワ・ロビション3d(フランス)が、過去青少年選手権で優勝経験のあるドブラニシュ5d(ルーマニア)、ピットナー5d(ドイツ)の有力候補をかわして初優勝した。

順位 名前 段級位 勝敗
1 ブノワ・ロビション 3d フランス 5-1
2 アルヴェド・ピットナー 5d ドイツ 5-1
3 デニシュ・ドブラニシュ 5d ルーマニア 5-1
4 ニコラ・ロビション 3d フランス 3-3
5 オンドレイ・クラリック 4d スロバキア 3-3
U21の上位入賞者。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2024年3月4日 ]

欧州グランプリファイナル、ブルゾ6dが優勝

欧州グランプリファイナル大会が2023年12月28-31日にかけてロンドンにおいて開催された。年末恒例のロンドン大会に合わせての実施となる。

予選リーグには10人が参加し、2グループに分かれて準決勝進出者を決定した。グループAではウー・ホユン5d(英国)とスタニスワフ・フレイラック1p(ポーランド)が、グループBではルカシュ・ポドペラ7d(チェコ)とコルネル・ブルゾ6d(ルーマニア)が枠抜けした。

昨年優勝のフレイラック1pは準決勝で脱落し、決勝はブルゾ6d、ポドペラ7dの対決。ブルゾ6dが細碁を制して優勝した。

準決勝以降の結果は以下の通り。

ウー ブルゾ ブルゾ
ブルゾ
ポドペラ ポドペラ
フレイラック
優勝したブルゾ6d(左)。
成績優秀者。右から2番目が優勝のブルゾ6d、3番目が準優勝のポドペラ7d。左端が3位のフレイラック1p。

グルノーブル囲碁大会、盛大に開催

第6回となる仏グルノーブル国際囲碁大会が1月末に開かれた。15か国から158人を集める大きな大会となった。

大会の様子。
子供向けの大会も開かれた。

5回戦の結果、韓国のキム・ドヒョプ7dが全勝優勝を果たした。2位はアリ・ジャバリン2p(イスラエル)、3位はルカシュ・ポドペラ7d(チェコ)、4位はバンジャマン・ドレアン=ゲナイジア7d(フランス)、5位はリュカ・ネイリンク6d(ベルギー)だった。

成績優秀者。右端は同大会のスポンサーを務める黄仁聖(ファン・インソン)さん。

[ 記事:野口基樹 ]

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