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ヨーロッパ囲碁ニュース

ヨーロッパの囲碁ニュース・棋戦情報のバックナンバーをご覧になれます。

ヨーロッパからの囲碁ニュース・棋戦情報を皆様にお伝えします。

囲碁ニュース [ 2016年12月26日 ]

2017年欧州囲碁コングレス:ロシア決定が一転、ドイツが開催へ


マルティン・スティアスニー欧州囲碁連盟会長、ナタリヤ・コバレバ・露コングレス責任者、マーニャ・マルツ独コングレス責任者、ミヒャエル・マルツ独囲碁連盟会長、マクシム・ボルコフ露囲碁連盟会長。国際アマチュア・ペア碁選手権大会会場にて。

 先日、「2017年の欧州囲碁コングレスの開催をトルコが急遽辞退し、代わりとしてロシアのソチが選ばれた」とお伝えしたが、一転してこの決定が覆され、ドイツ・オーバーホフでの開催が決定した。

 ソチでの開催に対しては、「二年連続ロシアでの開催となる」、「ソチまでのアクセスが困難だ」、「ロシアで開催となった場合、多くの人はビザが必要となり、その手続に時間がかかる」などと言った点に関して多くの反対の声が上がり、その発表を欧州囲碁連盟サイトは炎上状態となった(http://www.eurogofed.org/index.html?id=90)。また、緊急の事態であったとはいえ、欧州囲碁連盟理事会内のみで性急に決定が下された点も批判の対象となった。

 こうした事態を前に、東京での国際アマチュア・ペア碁選手権大会の機会に、ロシア、ドイツのコングレス責任者がスティアスニー欧州囲碁連盟会長立ち会いのもとで協議。ロシア・ソチとドイツ・オーバーホフでの開催について、欧州囲碁連盟のメンバー国に諮問的な投票を実施した上で改めて決定を下すことで合意した。諮問は12月10-19日にわたって実施され、その結果47対9とドイツを推す票が圧倒的多数を占めた。これを受けて理事会も以前の決定を覆し、オーバーホフでの開催を承認した。なんとも味の悪いドタバタ劇となったが、今回の決定が後に禍根を残さないことを願うばかりである。


会場となるトレフ・ホテル・パノラマ。

オーバーホフのあるチューリンゲンは緑が豊富な地方である。

 オーバーホフはドイツ中部テューリンゲン州にあり、ハイキングおよびウィンタースポーツのメッカとして知られる場所である。コングレスに関する提案はこちらで見ることができる。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年11月28日 ]

来年の欧州囲碁コングレス、ロシアのソチに場所が急遽変更



ソチは、黒海とコーカサス山脈に挟まれている。現在、会場について海側と山側との間で選択が進められている、という。(オーガナイザー提供の写真)

 2017年の欧州囲碁コングレスの開催地が、トルコ・カッパドキアから急遽ロシアのソチに変更された。欧州囲碁連盟が発表した。ソチは、言うまでもなく2014年の冬季五輪開催地である。

 ロシアは今年もサンクトペテルブルクでコングレスを開催している。2年連続で同じ国が欧州囲碁コングレスを主催するのは、1967-1968年の西ドイツ(1967年はシュタウフェン・イン・ブライスガウ、1968年は西ベルリンで開催)以来。当時はドイツが圧倒的な欧州囲碁の中心であり、驚きには恐らくあたらなかった。しかし、今回はその時と比べて異常な事態と言わざるを得ないだろう。

 実を言うと、「トルコでの欧州囲碁コングレスは本当に開催されるのだろうか?」という疑問は数年前から取り沙汰されていた。特に、政情の緊張に加え、大きな大会組織の経験がないこと、コミュニケーションの欠如などが問題として指摘されていた。コングレスまで1年を切った段階で、その恐れが現実化してしまった。欧州囲碁連盟は緊急で候補を募り、ドイツ(スキーリゾートのオーバーホフを提案した)とロシアが立候補。その結果、後者が選ばれた。しばしば書いていることではあるが、現在、大きな大会を開催できるのは断然東欧であり、中でもロシアはその能力において群を抜いている。サンクトペテルブルクのコングレスの評判がよかったことも決定に影響したのだろう。まずは伝統の行事が無事開催されることを祈るばかりである。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年11月2日 ]

英国でゲームと教育に関するセミナーが開催


ケンブリッジ大学。(写真:米囲碁連盟サイトより)

セミナーの様子。(写真:ダニエラ・トリンクス)

 英国のケンブリッジ大学において10月初頭、「戦略的ゲームの教授法についてのセミナー」が開催された。主催したのは、チェス、囲碁、チェッカー、バックギャモン、ブリッジといった戦略ゲームの学校への普及を目指すChessPlus (http://chessplus.net/wp/)で、グーグル傘下のディープマインドが協賛した。世界15カ国から、各種の戦略的ゲームを学校に広める活動等をしている40人が集まった。

 セミナーにおいては、各国における取り組みの現状が紹介されたほか、学習に関する心理学、ゲームの指導法や、学校におけるゲーム指導のビジネスモデル・マーケティングなど様々なテーマが取り扱われた。また様々なゲーム間での意見交換の機会となった。
 囲碁関係者では、独出身で韓国明知大学教授のダニエラ・トリンクスさん、仏囲碁連盟公式指導員で韓国出身の黄仁聖(ファン・インソン)さん、仏グルノーブルで学校における囲碁普及活動をしているジョゼ・オリバレスさん、英国囲碁連盟のトビー・マニングさん、米国囲碁財団のポール・バーチロンさん、欧州囲碁文化センターのハリー・ファンデルクロフトさんといった人々が発表を行った。


 仏国内のケースで言うと、スポーツとして認定されているチェスが学校での指導では大きく先行している。囲碁も、各地方で放課後の活動として導入されてきてはいるが、数で言うとチェスの比ではなく、ボランティアに頼っているのが現状である。また指導者の育成、指導法の確立など課題は多い。
 「今回のセミナーは大成功で、囲碁とチェスの指導者は、お互いを敵視するべきではなく、多くの共通点をもった同僚と見るべきだ、ということを改めて証明しました。経験を供給することで、お互いから学び、指導法を改善するとともに、学校でのゲーム指導プログラムを発展させることができるでしょう」とはダニエラ・トリンクスさんの感想。様々なゲームの指導者が集まる機会は稀有であるだけに、貴重な経験となったようである。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年9月27日 ]

フランス囲碁の父「メットル・リム」が逝去


在りし日のイム・ユジョン氏。(写真:Emmanuel Monceaux)

 フランス囲碁の父とされ、「リム先生(Maître Lim -メットル・リム)」の愛称で知られたイム・ユジョン氏が9月7日に亡くなった。91歳だった。「リム先生がいなければ、フランス囲碁の発展は何年遅れただろうか」ここ数年は高齢もあって公の場に現れることは少なくなっていたが、フランス囲碁界からは、在りし日の姿を知るベテランプレイヤーから、「伝説の存在」としてしか知らないであろう比較的新しいプレイヤーに至るまで、哀悼の声が相次いで寄せられた。

 イム氏は韓国出身で、元はフランス語の教師をしていたが、1960年代半ばに奨学金を得て、フランス中世文学の研究のために来仏した。イム氏がフランスの囲碁と出会ったのは、囲碁そのものがフランスにたどり着いたばかりの1969年のこと。「パリのリュクサンブール公園の近くで散歩をしていたら、アンパンセ・ラディカルというお店のショーウィンドウに飾ってあった碁盤が目に留まった」のがきっかけだった。アンパンセ・ラディカルは戦略的なゲームやそれに関する書籍を扱うお店で、店主のタナスコス氏はフランスにアジアからやってきた新しいゲームとしての「囲碁」を根付かせることを目指していた。店には囲碁を学ぼうとする学生たちが集まり、フランス初の囲碁クラブが生まれた。欧州の五段程度のレベルであったイム氏はまもなくその先生役となり、その指導下にフランスの囲碁を支える人材が数多く育った。囲碁のコミュニティーは次第に大きくなっていき、イム氏の呼称も、「ムッシュー・リム(リムさん)」から「メットル・リム(リム先生)」へと変化していった。こうした中、イム氏はフランスへの定住を決意、囲碁の指導と執筆活動に人生を捧げることとなった。1974年には『9子局の打ち方(Le jeu à 9 pierres de handicap)』、1982年には『6子局の打ち方 (Le jeu à 6 pierres de handicap)』、『一局を上手く打つには(Bien conduire une partie de go)』を上梓。特に『9子局の打ち方』は大きな成功を収め、長い間、初心者指導の「バイブル」となっていた。このほかにも、2000年代に至るまでフランス囲碁協会の機関紙などを通じて多数の文章を発表、そのテーマは囲碁だけでなく、歴史、中国古典の世界などにも及んだ。1986年には、連珠の入門書も出版している。




曺薫鉉9段(左)と3子で対局するイム氏。1979年。
(写真:Jérôme Hubert)

 欧州の各国に囲碁がたどり着いてから根付いていくプロセスは様々で、一様ではないが、ある一時期にカリスマ的な人物が現れ、その普及の中心となる、というケースは多い。「メットル・リム」は、囲碁に対する独特の考察・理論は勿論のこと、韓国の昔話からそのまま現れたような外見、クセが強いが一度聞いたら忘れられない「リム節」とでもいうべき言葉使い、文人の伝統を引き継ぐその博覧強記ぶりなど、まさにあらゆる意味で「カリスマ」であった。その囲碁理論は、いわゆる「外回り」を大事にする梶原理論に近いもので、フランスの囲碁に日本的で華麗な美的感覚を持ち込んだ。

 外国で囲碁普及に身を捧げる人の生活は決して楽ではない。「メットル・リム」もその例外ではなかった。1979年に、韓国のタイトル王だった曺薫鉉9段がパリを訪れた際、イム氏は3子で対局し、完敗した。その碁を振り返って、イム氏は自嘲気味に記している。「偉大な曺先生を前にして、私は恐怖を覚えた。勝とうなどとは考えなかった。フランス人の先生として、私自身を貶めるような恥ずかしい碁は打たないようにしよう、と決心した。(…)勇気をつけるために、私は二杯の酒を飲んだ。それが私の「万歳」の掛け声だったのだ。」ユーモラスな中にも、「メットル」としての矜持と哀愁を凝縮したような文章だと思う。その功績をたたえて、仏囲碁連盟のクラブ対抗選手権は「メットル・リム杯」と名付けられ、多くの参加者を集めている。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年9月13日 ]

ディープマインド、AlphaGo同士の対局をコメント付きで公表

 グーグル傘下の英ディープマインドは9月12日、同社サイト上でAlphago同士が対局した3局をプロ棋士のコメント付きで公表した(https://deepmind.com/research/alphago/alphago-games-english/)。このコメントは、中国のトップ棋士である古力、周睿羊の両九段の分析を、仏在住のファン・フイ二段(先日、AlphaGoと対局した)がまとめたもの。持ち時間は、共に一手5秒という。

 対局は全て黒の中国流から始まったのが注目され、いずれの局もなかなか玄妙な変化に富んで独特な碁になっているようである。中国流そのものは囲碁の歴史の中では比較的新しい布石だが、その源流は17世紀末に活躍した本因坊道策にある、というようなことを考え合わせると、この選択もなかなか味わい深い…というのは穿ちすぎであろうか。また、単純な感想ではあるが、「AlphaGoがこれだけ複雑な碁を打つならば、「囲碁が極められた」と人間が断言できる日はまだ遠い」というような予感もする。いずれにせよ、AlphaGoが囲碁ファンを楽しませ続けてくれるのは何ともありがたいことである。

 なお、同サイト上ではAlphago対李世ドルの5局についてもコメントつきで閲覧することができる。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年9月12日 ]

チェコ・ブルノ大会、ポップ7dが優勝

優勝したポップ7d。(写真:欧州囲碁連盟)

 9月2日から4日にかけて、チェコのブルノにおいて「モラビアン・オープン」大会が開催された。ブルノはチェコ東部(モラビア地方)の中心都市で、遺伝学者のメンデルや小説家のクンデラを輩出し、作曲家のヤナーチェクが活躍した場所でもある。囲碁も盛んで、「モラビアン・オープン」は毎年100人を超える参加者を集めているほか、一時は来年の欧州囲碁コングレスの開催地として名前が挙がったほどである。今年の大会も、113人が参加して盛況に開催された。参加者のレベルも相変わらず高い。今年は、同じ週末に中国・阜康(新疆ウイグル自治区)で「阜康·天池杯、第3回シルクロード国際都市対抗戦」と銘打たれた大会があり、こちらに欧州プロを含めた強豪が10人以上参加するという思わぬ競合を受けたものの、それでも「モラビアン・オープン」の上位15人は5段以上が占めたのは見事で、その基盤が安定していることを見せつけるものであろう。

 6回戦の結果、優勝したのはルーマニアのクリスチャン・ポップ7d。最終戦こそオーストリアのビクトール・リン6dに敗れたが、ベテランの意地を見せつけた。若者の追い上げが強まる中、30-40歳代以上のプレーヤーの影が薄くなっており、是非これからも頑張って欲しいものである。2位にはリン6dが、3位にはウクライナのアンドリー・クラベッツ7dが入賞した。

1クリスチャン・ポップ7dルーマニア5-1(勝-敗)
2ビクトール・リン6dオーストリア5-1
3アンドリー・クラベッツ7dウクライナ4-2
4ツァン・イー5dドイツ4-2
5デュシャン・ミティッチ6dセルビア4-2
6パル・バログ6dハンガリー4-2
7コルネル・ブルゾ6dルーマニア4-2
8ヨハネス・オーブナウス5dドイツ3-3

大会にて、リジー1p(左)とジャバリン1pの検討風景。左からポドペラ7d、カチャノフスキー1p、スルマ1p、シクシン1pが見守る。(写真:欧州囲碁連盟)

 なお、先に触れた「阜康·天池杯、第3回シルクロード国際都市対抗戦」には、パボル・リジー(スロバキア)、アリ・ジャバリン(イスラエル)、イリヤ・シクシン(ロシア)、マテウシュ・スルマ(ポーランド)、アルテム・カチャノフスキー(ウクライナ)の欧州囲碁連盟プロのほか、アレクサンダー・ディナーシュタイン3p(ロシア)、ルカシュ・ポドペラ7d(チェコ)などが参加、中国のアマ強豪とつばぜり合いを演じた。結果、シクシン1pが8戦全勝で見事優勝して6万人民元の賞金を獲得。このほか、カチャノフスキー1pが2位(7勝)、ジャバリン1pが4位(6勝)、ポドペラ7dが5位(6勝)、ディナーシュタイン3pが6位(6勝)にそれぞれ入賞した。

[ American Go E-Journal ]


アムステルダムの囲碁専門書店、店主が交代へ

ザンドフェルトさん。

 米囲碁連盟発行のE-journalによると、オランダ・アムステルダムのチェス・囲碁専門書店である「Schaak en Go winkel het Paard(「チェスと囲碁ショップ、ケイマ」の意)」の店主が交代する。ペーテル・ザンドフェルトさんが引退し、マリーケ・ディーデレンさんにバトンタッチする。


 ザンドフェルトさんは、マリーケさんのお母さんであるマリアンネさんと約30年前に同書店を設立、世界でも有数のゲーム専門書店に育て上げた。同書店では、囲碁、チェスのほか、バックギャモン、パズルなどの書籍も揃えており、特に囲碁書籍に関しては、小売・卸売で共に欧州の中心的な存在となっている。


 ザンドフェルトさんは毎年、欧州囲碁コングレスでも囲碁書籍のスタンドを構えており、ご存知の方も多いのではないだろうか。今後は、欧州囲碁文化センター(EGCC)での仕事や、浮世絵のコレクションなどに集中するそうだ。

書店の様子。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年8月29日 ]

欧州女流囲碁選手権、コバレバ5dが優勝

 欧州女流囲碁選手権が、8月20日の週末にベルギーのアントワープで開催された。ベルギーが欧州レベルの選手権を開催するのは久しぶりのこと。ブリュッセルが2019年の欧州囲碁コングレスの開催地に選ばれたこともあり、今回の欧州女流選手権の開催には、大会組織のノウハウを蓄積する意味もあるのだろう。

参加者。(写真:Marika Dubiel)

 参加者数は16人で、開催国ベルギーをはじめとして、ロシア、ハンガリー、ドイツ、ルーマニア、オランダ、英国、チェコ、フランス、トルコから選手が集まった。優勝候補は韓国棋院のプロであるスベトラナ・シクシナ3pやナタリア・コバレバ5dなどを擁するロシア勢。また、昨年の覇者であるリタ・ポチャイ4d(ハンガリー)が有力と見られていた。

 シクシナ3pは3回戦でポチャイ4dを破って順当に3連勝、同じく無敗で勝ち進んだコバレバ5dとの全勝対決に臨んだ。2006年に欧州チャンピオンになったこともあるシクシナ3pが当然有利かと思われたが、黒番のシクシナ3pの手があまり伸びず、これをコバレバ5dが手厚く咎めて見事中押勝を収めた。コバレバ5dは5回戦も勝利し、欧州女流選手権で2007年、2013年に続き3度目の栄冠に輝いた。

優勝したコバレバ5d。先日サンクトペテルブルクで開催された欧州囲碁コングレスのメインオーガナイザーも務めた。ロシアでは、スポンサーから常に結果を出すことを求められるのだそうで、こうしたプレッシャーもロシア勢の強さにつながっているのかもしれない。(写真:Marika Dubiel)
2位のシクシナ3p。欧州プロのイリヤ・シクシン1pのお姉さんで、現在はカナダ在住。(写真:Marika Dubiel)
3位に入賞したリタ・ポチャイ4dは、コバレバ5dと共に先日のペア碁ワールドカップにも参加した。(写真:Marika Dubiel)

上位入賞者は以下の通り。

1ナタリア・コバレバ5dロシア5-0
2スベトラナ・シクシナ3pロシア4-1
3リタ・ポチャイ4dハンガリー4-1
4ラウラ=アウグスティナ・アブラム2dルーマニア3-2
5イリーナ・デイビス1kルーマニア3-2
6エルビナ・カルルスベルグ3dロシア3-2
7マーニャ・マルツ3dドイツ3-2
8ドミニク・コルニュエジョルス1dフランス3-2

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年8月9日 ]

ロシアで欧州囲碁コングレスが開催

 7月22日から8月7日にかけての2週間、ロシア・サンクトペテルブルクにおいて第60回欧州囲碁コングレスが開催された。
 欧州の一大囲碁大国であるロシアだが、コングレスを主催するのはこれがまだ2度目。前回は2003年で、同じくサンクトペテルブルクで開かれたが、組織に様々な問題点が指摘され、あまり評判が良かったとはいえない。それだけに、今回の大会前は各方面から不安が表明されていたが、結果的には前回とは打って変わって豪華な大会となった。申し込み人数は1200人を超え、この数字はある程度疑ってかかる必要があるかもしれないが、メイントーナメントへの参加者は累計で600人と、過去のコングレスと比較しても最大級であることは間違いない。過去数年の囲碁コングレスは中国企業が主要スポンサーとなり、その名を冠していたが、今年のスポンサーはロシアの貴金属鉱山大手企業であるポリメタルが務めた。

会場となったアジムートホテル(写真:ロシア囲碁協会)
9路盤大会に参加する子供達(写真:ロシア囲碁協会)

優勝したウクライナチーム(写真:ロシア囲碁協会)

 欧州囲碁コングレスの幕を開けるのはパンダネットが主催する欧州国別チーム対抗戦。決勝ラウンドに残った4チームは、昨年の覇者フランスに加えて開催国のロシア、ウクライナとルーマニア。結果は、アルテム・カチャノフスキー1pやアンドリー・クラベッツ7dといった強豪を擁するウクライナが2勝1分けで初優勝を飾った。2位はロシア、3位はフランス、4位はルーマニアだった。

 欧州囲碁コングレスのメイントーナメントは、欧州のプレーヤーだけを対象とする欧州選手権とそれ以外のプレーヤーも加わるメイン大会とに内部で分かれる。欧州選手権は、昨年まで3連覇を果たしたファン・フイ2p(フランス)が不参加の中、アリ・ジャバリン1p(イスラエル)とイリヤ・シクシン1p(ロシア)が決勝に進出した。

 先日のペア碁ワールドカップにも参加したこの二人は、やはりひとつ頭が抜けているようである。結果は、シクシン1pが勝って4度目の優勝を果たした。

 3位決定戦はルカス・ポドペラ7d(チェコ)がマテウス・スルマ1p(ポーランド)を撃沈した。ウクライナのクラベッツ7dと並んで、来年の欧州プロ候補の最右翼である。

欧州選手権決勝。シクシン1p(右)がジャバリン1pを破って優勝(写真:ロシア囲碁協会)
3位に食い込んだポドペラ7d(写真:ロシア囲碁協会)

 一方のメイン大会に優勝したのは韓国元院生の金永三(キム・ヨンサム)7d。2011年のフランス・ボルドー大会に続く2度目の栄冠に輝いた。しかし、10戦全勝で優勝を果たした前回とは違い、今回は10戦中8勝で4人が並ぶ中での「鼻差」の優勝となった。2位は、金7dを第7回戦で破ったシクシン1pで、SOS(対戦した相手の総ポイント)わずか1点差に泣いた。3位には2014年に世界アマで台湾に初めて優勝の栄誉をもたらした詹宜典(チャン・イーティエン)7d、4位はジャバリン1pが入賞した。

右上がメイン大会優勝の金7d。欧州各地の大会に参加経験があり、気さくな人柄で人気も高い。ドイツのマーニャ・マルツ3d(右下)と組んだペア碁でも優勝した(写真:ロシア囲碁協会)
3位の詹7d(写真:ロシア囲碁協会)

対局会場(写真:ロシア囲碁協会)
チェスのグランドマスター同士がチェスおよび囲碁で対局するイベント(写真:ロシア囲碁協会)
韓国の趙恵連9pが日本の囲碁ソフト「Zen」と向2子で対局した。結果はZenが手堅く1目半勝ちを収めた(写真:ロシア囲碁協会)
昨年まで欧州3連覇を果たしたファン2pは、AlphaGoの対局の解説会を開いた。ファン2pはこの後アメリカ囲碁コングレスでも同様のイベントに参加、世界中を飛び回っている(写真:ロシア囲碁協会)

 来年の大会はトルコ、カッパドキア地方の中心地であるユルギュップで開催される予定(サイトはこちら:http://www.egc17.com/)。これまで開催地が未定で開催が危ぶまれたが、ようやくここにきて確定した。囲碁の新興国トルコで開催される初めての大会となる。また、2018年はイタリア・ピサ(http://egc2018.it/)、2019年はベルギー・ブリュッセルと、2年続けて西欧での開催が決まった。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年7月27日 ]

三星火災杯統合予選ワールドディビジョン、ジャバリン1pが枠抜け

三星火災杯の統合予選が7月半ばにソウルの韓国棋院で開催された。同予選では、中国、台湾、韓国、日本を除いた国からのプレーヤーが参加できる「ワールドディビジョン」が設けられている。今年は12人が参加し、欧州からもパボル・リジー1p(スロバキア)、アリ・ジャバリン1p(イスラエル)、マテウス・スルマ1p(ポーランド)、コルネル・ブルゾ6d(ルーマニア)の4人が参戦した。なお、欧州外の参加者の出身国はアメリカ、カナダ、アルゼンチン、タイ、ベトナム、シンガポール、南アフリカ共和国。欧州プロ以外のプロとしては、アメリカからエリック・ルイ1pが参加している。

左からスルマ1p、リジー1p、ジャバリン1p、ブルゾ6d。(写真:欧州囲碁連盟)
枠抜けを果たしたジャバリン1p。(写真:欧州囲碁連盟)

 欧州組は好調で、1回戦、2回戦を共に勝ち抜けて準決勝の四枠を独占した。決勝に進んだのは共に2014年にプロになったリジー1pとジャバリン1p。結果は、ジャバリン1pが勝って枠抜けを果たした。

 

先日の「ペア碁ワールドカップ」に参加した際、「難しいかもしれないが、あくまでアジアのプロに比肩できるプレーヤーになることを目標に頑張る」と語ってくれたジャバリン1p。9月に開催される本戦での活躍を期待したい。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年6月21日 ]

フランスとドイツの青少年選手権

5月28日の週末に、フランスとドイツの青少年選手権が偶然同時に開かれたので、以下に紹介しよう。

ドイツ

 ドイツの青少年選手権はダルムシュタット大会と並行して開催された。ダルムシュタット大会は「Darmstädter-Go-Tage(ダルムシュタット囲碁デー)」と呼ばれるイベントの一つをなしていて、週末の大会のほか、それに先立つ数日間には囲碁のワークショップやレクチャーなど様々な行事が開かれる。フレンドリーな雰囲気で、毎年100人近い参加者があり、このイベントの一環で、これまでにも何度か青少年選手権の開催を引き受けてきた。今回の青少年選手権の参加者数は全部で40人。これは過去最高だそうである。カテゴリーは19歳未満(U19)、15歳未満(U15)、11歳未満(U11)の3つに分かれる。1日目はカテゴリーに関係なく皆が混合で予選に参加した上で、2日目に各カテゴリーの成績優秀者が準決勝、決勝を争う、というシステムである。
 上位入賞者は以下の通り。

U19

順位名前段級位クラブ
1マルティン・ルジカ4dフライブルク
2チャフィク・バントラ3dディンスラーケン
3マティアス・パンコーク4dオルデンブルク

U15

1チェン・フェイヤン2dフランクフルト
2アルベド・ピットネル2dベルリン
3エマヌエル・シャーフ1kトリアー

U11

1イマヌエル・ドッタン6kベルリン
2フェルディナンド・マルツ9kイエナ
3ケビン・ズー14kラティンゲン

 優勝者のルジカ4d、チェン2d、ドッタン6kはいずれも昨年に引き続き連覇だそうである。U19は上位6人が2d以上というハイレベルの戦いだった。また、3位に入賞したパンコーク4dはイタリアの国籍も持っており、この直後に行われたイタリア選手権で優勝した。二重国籍の多いヨーロッパならでは、という感じである。上位入賞者の出身クラブが多彩であるのも印象的。写真は以下のページ(http://www.eurogofed.org/index.html?id=52)より参照できる。

フランス

会場の様子。小学生の部の対局。(写真:José Olivares Flores)

 フランスの青少年選手権は、パリ郊外のカシャンにあるカシャン高等師範学校で開催された。フランスは交通網がAからZまでパリを中心に構築されており、国土が広いこともあって毎年場所を変更するのは大変だ、ということで、開催地はここ数年このカシャンに固定されている。

 今年の参加者数は44人と、例年並みの数字だった。カテゴリーは「高校生」「中学生」「小学生」の3つなのだが、こちらでは飛び級などもあって「『小学生』のカテゴリーに参加しているが実際にはもう中学に通っている」といったケースもあり、一応年齢制限(それぞれ18歳、15歳、11歳以下)が設けられている。これについては異論もあり、「欧州の青少年選手権のカテゴリー、すなわち20歳未満、16歳未満、12歳未満に直すべきではないか」というような提案もなされている。

高校

順位名前段級位クラブ
1アリアーヌ・ウジエ2dアントニー
2フランク・ギャラン4kパリ
3ロナン・ドゥラヌリー5kロリアン

中学校

1オーレリアン・モレル3kグルノーブル
2ギヨーム・ウジエ1kアントニー
3イザーク・スクリブ2kアレス

小学校

1スン・レシアン8kパリ
2橋口直登11kパリ
3マックス・ビヨン12kグルノーブル

 高校生優勝のアリアーヌ・ウジエ2dは昨年に続く連覇。中学生準優勝のギヨーム・ウジエ1kのお姉さんで、フランスの女性トップを争うことのできるレベルまでやってきた。小学生優勝のスン・レシアン8kは、日本の橋口11kを破ってこちらも連覇を果たした。フランスは、囲碁普及が盛んなパリとグルノーブルが上位を占めた、という感じで、そこに両クラブの活発さを認めるべきか、「それ以外はどうなっているのか」という不安を感じるべきか、難しいところである。


上位入賞者。参加者全員に賞品が配られる。(写真:José Olivares Flores)
最後は皆で集合写真。(写真:José Olivares Flores)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年6月10日 ]

ウィーン囲碁大会

会場のヴァルドルフ学校。(写真:Désirée Mühl)

 5月最終週末に、オーストリア・ウィーン囲碁大会が開催された。オーストリアの大会としてはリンツ、ザルツブルク、ジーヴィンケル(アペルトン)、オーストリアオープンといった大会がある。いずれも決して大規模とはいえないが、中欧各国と距離的に近い地の利を活かし、様々な国籍のプレーヤーが集まる大会となっている。

 今年の大会の参加人数は69人で、その出身国を見ると、オーストリアのほかにドイツ、ハンガリー、チェコ、スロバキア、ルーマニア、ポーランド、クロアチア、ウクライナ、イタリア、オランダ、英国、ルクセンブルクと非常に多彩である。

 さて欧州連盟では、欧州の主要大会で好成績を収めたプレーヤーにポイントを与え、その総合ポイントをアジアの国際大会に欧州の選手が招聘された場合の選考規準としている。ウィーン大会は今年このポイントを稼げる大会となったこともあり、5d以上のプレーヤーが10人以上参加するハイレベルな大会となった。

5回戦の結果は以下の通り。

1パボル・リジー1pスロバキア5-0(勝-敗)
2ビクトール・リン6dオーストリア4-1
3パル・バログ6dハンガリー3-2
4スタニスワフ・フレジュラック5dポーランド3-2
5ロタール・シュピーゲル5dオーストリア3-2
6ドミニク・ボビズ6dポーランド3-2
7コルネル・ブルゾ6dルーマニア3-2
8ルカシュ・ポドペラ7dチェコ3-2

チェコのベテランであるダネック5d(左)がリジー1pと対戦。後ろでは欧州の若手を指導するZhao Baolongプロがインターネット上で解説中。(写真:Désirée Mühl)
成績優秀者。左からシュピーゲル5d、フレジュラック5d、リジー1p、リン6d、バログ6d。(写真:Désirée Mühl)

 リジー1pがプロの貫禄を見せて全勝優勝を果たした。2位にはオーストリアチャンピオンのリン6dが入賞した。以下は3勝で6人が並んだが、ハンガリーの強豪バログ6dが3位に入賞した。
(このレポート作成にあたって協力をいただいたビクトール・リン6dとデジレ・ミュールさんに感謝します。)



サンクトペテルブルクで200面近い多面打ちイベント開催

 5月21日、ロシアのサンクトペテルブルクで200面近い多面打ちイベントが開催された。アレクサンダー・ディナーシュタイン3p、イリヤ・シクシン1p、ナタリヤ・コバレバ5dなど27人が191面の対局をこなした。写真はロシア囲碁連盟サイト(http://gofederation.ru/blogs/posts/555272145)、またビデオはYoutubeで(https://www.youtube.com/watch?v=-jQ-gv4WH84)閲覧できる。どういうきっかけでこのようなイベントが実現したかは不明だが、今年の欧州囲碁コングレスはサンクトペテルブルクで開催されるので、それに関連した行事かもしれない。コングレスのサイトはこちら(http://egc2016.ru/)。


多面打ちを行うコバレバ5d。(写真:ロシア囲碁連盟、Mikhail Krylov)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年5月30日 ]

アムステルダム大会:ドゥバール6dが全勝優勝

アムステルダム大会で優勝を飾ったドゥバール6d(左)。写真はストラスブール大会にて、フランスのバンジャマン・ドレアンゲナイジア6dとの対局。(写真:Nyoshi Cao)
 アムステルダム国際囲碁大会が5月5日から8日の四日間にかけて開催された。会場は例年通り郊外アムステルフェーンにある欧州囲碁文化センターである。かつては欧州最大規模を誇った同大会だが、第45回目となる今回の参加者がわずか68人とは、あまりに寂しい。オランダの囲碁はかつてシュレンパー、バンザイストといった強豪を輩出したのだが、若者への普及が遅れたためか、ここのところの地盤沈下が著しく、それがもろにこの数字に現れている。欧州囲碁を盛り上げるためにもぜひ奮起を願いたい。

 参加人数が少ない、といってもトップクラスは5段、6段がひしめくハイレベルな戦いである。7回戦の結果はフランスのトマ・ドゥバール6dが最終戦でハンガリーの若きチャンピオンであるドミニク・ボビズ6dを振り切り、7戦全勝で堂々優勝を飾った。3位にはフランスのタンギー・ルカルベ6d、4位にはポーランドのスタニスワフ・フレジュラック5dと若手が上位を独占した。
 同大会の写真は以下のリンク(https://www.flickr.com/photos/hvdkrogt/sets/72157667838336921/with/26908745266/)より閲覧できる。



2016年Kidoカップ:シクシン1p、復活

 アムステルダム大会の翌週、ドイツ・ハンブルクでKidoカップが開催された。同大会は欧州強豪のみを集めた「トップ8」大会と一般大会からなり、全部を合わせて190人近い参加者が集まった。ドイツは現在若者の層が厚くなっている印象で、数年後にはかなりの強国にのし上がるような予感もする。

 さて、トップ8大会に参加したのはパボル・リジー(スロバキア)、アリ・ジャバリン(イスラエル)、マテウス・スルマ(ポーランド)、イリヤ・シクシン(ロシア)の欧州4プロに加え、クリスチャン・ポップ7d(ルーマニア)、ルカシュ・ポドペラ7d(チェコ)、コルネル・ブルゾ6d(ルーマニア)、パル・バログ6d(ハンガリー)の4アマ。総当りのリーグ戦の結果は、シクシン1pが全勝優勝を飾り、先日のグランドスラム大会の鬱憤を晴らした。2位はジャバリン1pで、ここのところ安定した力を見せている。3位にはリジー1pが入った。4位にはルーマニアの強豪ポップ7dがアマとして食い込む健闘を見せた。ベテランながら相変わらずの豪腕は健在である。

 一般大会では、中国出身のSu Yuanlong5dが優勝。これに、ドイツの若手ヨナス・ベルティッケ5d、ハンガリーのドミニク・ボビズ6d、ポーランドのスタニスワフ・フレジュラック5dが続いた。ボビズ6dとフレジュラック5dはまさに伸び盛りで、出る大会ごとに上位入賞を果たしており、今が一番囲碁が楽しい時であろう。



ストラスブール大会

 5月21-22日にかけて仏ストラスブールで大会が行われた。昨年はグランドスラム大会予選を同時に開催したため3月に開かれたが、今年は例年通り5月に戻った。今年の参加者は59人だったが、国籍でみると10カ国というのはさすが欧州議会の置かれた国際都市だから、というのは言い過ぎだろうか。レベルも6段以上が7人と、充実したものとなった。

ストラスブール大会恒例、子供大会の表彰式。地元から40人が集まった。(写真:Nyoshi Cao)

 決勝に進出したのは初参加の韓国Kim Seonjin7dと日本の片山浩之7d。結果はKim7dが中押勝を収めて優勝した。片山7dは元東京大学囲碁部主将で、現在は東京大学で都市工学の分野の准教授を務める。この度フランスに数ヶ月の間研究滞在することとなった機会に同大会に参加、準優勝ながらその実力を存分に発揮した。3位には筆者、4位にはフランスのトマ・ドゥバール6dが入賞した。

決勝の碁を検討する片山7d(左)とKim7d。(写真:Nyoshi Cao)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年5月10日 ]

第2回グランドスラム大会、ジャバリン1pが優勝

 第2回の欧州グランドスラム大会が4月28日から5月1日にかけてベルリン中国文化センターにおいて開催された。優勝賞金1万ユーロという欧州最大の大会である。昨年の大会ではシクシン1p(ロシア)が優勝、スルマ1p(ポーランド)が準優勝、ジャバリン1pが3位(イスラエル)と、欧州囲碁連盟のプロが上位を独占した。今回の大会に参加した12人は以下の通り。

イリヤ・シクシン1pロシア
マテウス・スルマ1pポーランド
アリ・ジャバリン1pイスラエル
パボル・リジー1pスロバキア
アルテム・カチャノフスキー1pウクライナ
カタリン・タラヌ5pルーマニア
アレクサンダー・ディナーシュタイン3pロシア
クリスチャン・ポップ7dルーマニア
アンドリー・クラベッツ6dウクライナ
ルカス・ポドペラ6dチェコ
チャバ・メロ6dハンガリー
デュシャン・ミティッチ6dセルビア

 前回はポップ7dが4位に食い込み、アマチュア勢の意地を見せた。タラヌ、ディナーシュタインのベテランプロ勢、また今後プロになる可能性を秘めたアマチュア勢がどこまで欧州囲碁連盟プロに迫れるかが注目である。

予選ラウンド(左側が勝者、以下同)

カチャノフスキーポドペラ
ディナーシュタインクラベッツ
タラヌメロ
ミティッチポップ

 まず初日の予選ラウンドでは、先日プロ資格を得たばかりのカチャノフスキー1pのほか、ディナーシュタイン3p、タラヌ5p、ミティッチ6dが勝ち抜き、シードされている欧州囲碁連盟プロとの対局に臨んだ。

準々決勝

カチャノフスキーシクシン
リジーミティッチ
ジャバリンディナーシュタイン
スルマタラヌ

 カチャノフスキー1pが昨年優勝者のシクシン1pを撃沈して気を吐いた。しかし、ほかの予選勝ち上がり組は欧州プロに敗れ去り、順位戦に回った。

準決勝

ジャバリンスルマ
カチャノフスキーリジー

 準決勝では、ジャバリン1pがスルマ1pを、カチャノフスキー1pがリジー1pをそれぞれ破り、共にジワリと手厚い棋風の二人が決勝に進出した。

決勝

ジャバリンカチャノフスキー

 決勝は予想通り渋い展開となったが、ジャバリン1pが中押しで勝ち、優勝を収めた。ジャバリン1pは昨年ハンブルグのKido Cupに優勝したほか、欧州選手権は準優勝。また、3月の百霊杯世界囲碁オープン戦統合予選では1回戦を突破し、その実力が開花しつつある

8位までの最終順位は以下の通り。

1アリ・ジャバリン1p
2アルテム・カチャノフスキー1p
3パボル・リジー1p
4マテウス・スルマ1p
5アレクサンダー・ディナーシュタイン3p
6カタリン・タラヌ5p
7デュシャン・ミティッチ6d
8イリヤ・シクシン1p

 上位4位を欧州プロが独占した。また、ディナーシュタイン、タラヌの両ベテランが頑張り、5位と6位にそれぞれ入賞。珍しく、シクシン1pが大ブレーキで8位に終わった。アマチュア勢としてはミティッチ6dが唯一入賞した。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年4月12日 ]

2016年グランドスラム大会予選会

 4月2日から3日にかけて、2016年グランドスラム大会の参加者を決定する予選会がハンガリーのブダペストにおいて開催された。グランドスラム大会そのものは4月28日から5月1日にかけての週末にベルリンで開かれる予定で、すでに欧州プロ、アマを含め9人(イリヤ・シクシン1p、マテウス・スルマ1p、アリ・ジャバリン1p、パボル・リジー1p、クリスチャン・ポップ7d、アレクサンダー・ディナーシュタイン3p、カタリン・タラヌ5p、アルテム・カチャノフスキー1p、チャバ・メロ6d)の参加者が選抜されている。ブダペストでは更に2人が選出され、最後に「ワイルドカード」がスポンサーより選ばれて最終12人のリストが確定する、という流れとなる。

 予選会の参加資格は簡単に言うと「欧州の国籍を10年以上保有した、六段以上のプレーヤー」。大体欧州では30人程度がこのカテゴリーに入るが、ブダペストに集まったのは8人だった。5回戦でグランドスラムへの参加権を争った。最終順位は以下のとおり。

1デュシャン・ミティッチ6dセルビア4-1(勝-敗)
2ルカス・ポドペラ6dチェコ4-1
3コルネル・ブルゾ6dルーマニア3-2
4ビクトール・リン6dオーストリア3-2
5タンギー・ルカルベ6dフランス3-2
6アンドリー・クラベッツ6dウクライナ2-3
7ドミニク・ボビズ6dハンガリー1-4
8ペーター・マルコ4dハンガリー0-5

 全勝者はなく、1敗のデュシャン・ミティッチ6dとルカス・ポドペラ6dが勝ち抜いた。また、ワイルドカードに選ばれたのは先日のプロ入段手合で決勝に進出したウクライナのクラベッツ6dだった。


2016年欧州ペア碁選手権

欧州ペア碁選手権が4月9-10日の週末にチェコのブルノで開催された。開催国チェコに加え、スロバキア、ハンガリー、ロシア、ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデン、クロアチアの9カ国より18ペアが参加した。結果は以下のとおり。

1シクシナ/シクシン7dロシア6-0(勝-敗)
2ポチャイ/バログ5dハンガリー5-1
3マルツ/パンコーク4dドイツ4-2
4ズメコバ/クルムル1kチェコ4-2
5シュープラン/オーブナウス3dドイツ4-2
6トムス/ポドペラ3dチェコ4-2
7ザルツコバ/ホラ4dチェコ4-2
8ニョシ/フネック4dフランス3-3

 共にプロの姉弟のシクシナ/シクシン組が圧倒的な強さを見せ、昨年に続いて優勝した。2位のポチャイ/バログ組も昨年に続く準優勝となる。3位には、ドイツのマルツ/パンコーク組が入賞。平均段位が1級のズメコバ/クルムル組が健闘、4位に食い込んだ。

 写真は欧州囲碁連盟のサイト(http://www.eurogofed.org/index.html?id=46)から閲覧できる。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年4月5日 ]

2016年パリ囲碁大会

 3月26日-28日の3日間、復活祭の月曜日の祝日に合わせてパリ囲碁大会が開催された。一時は消滅の危機にさらされた同大会だが、3年前から安定した運営を目指したチームが立ち上げられ、その復活を図ってきた。会場も数年前には随分パリから離れた場所となってしまい、「本当にパリ大会なのか」という陰口も聞かれたほどだったが、ここのところはパリ郊外のヌイイー市ながら凱旋門からもほど近い場所に固定され、おかげで対外的なイメージも随分改善した。

会場の様子(写真:https://plus.google.com/+JeanPierreTavan
戴7d(右)とドイツチャンピオンのルカス・クレマー6dとの対局
(写真:https://plus.google.com/+JeanPierreTavan

 44回目となる今回の大会には152人が参加。かつては300人を超える大会だっただけに、当時と比較するとまだまだだが、それでも一昨年の66人、昨年の96人に比べて大幅な増加である。グーグル・ディープマインドのAlphaGoがメディアに大きく取り上げられたことでフランス並びに欧州各国の囲碁人口がさらに増える可能性もあり、来年以降の更なる伸びに期待したい。

 6回戦の結果、1、2位は韓国棋院元院生のOh Mingyu七段とChae Jinwon六段が占めた。3、4位はフランスのトマ・ドゥバール六段、戴俊夫八段が、5、6位はルーマニアのクリスチャン・ポップ七段、コルネル・ブルゾ六段が占めた。


2016年欧州青少年選手権

パリ大会とほぼ同時に、セルビアのスボティツァで2016年の欧州青少年選手権が開催された。スボティツァはセルビア北部に位置し、ハンガリーとの国境にも近い場所である。各カテゴリーの結果は以下のとおり。

U12

1ヨアンアレクサンドル・アルシノアイア2kルーマニア
2ビルジニア・シャルネバ2kロシア
3ニキータ・プリカレフ5kロシア
4イワン・クロチキン5kロシア
5バレリア・クロチキナ2kロシア

 ルーマニアのアルシノアイア2kが全勝優勝を果たした。昨年のドブラニス1dに続き、国としては連覇である。昨年3位のシャルネバ2kが準優勝だった。それにしても、日本の小学生にあたるこのカテゴリーではロシアが圧倒的な強さである。

U16

1バジェスラフ・カイミン5dロシア
2バレリー・クルシェルニツキー3dウクライナ
3キム・シャホフ3dロシア
4オスカル・バスケス3dスペイン
5シナン・ジェポフ5dブルガリア

 カイミン5dは昨年に続く優勝。クルシェルニツキー3dも昨年同様2位に泣いた。先日大人を含めたスペイン選手権で国内チャンピオンとなったバスケス3dが4位に入賞した。5位のジェポフ5dはブルガリア出身。東欧の中ではあまり囲碁が盛んでなかった国だが、その状況を変えられるか。

U20

1グレゴリー・フィオニン6dロシア
2スタニスラフ・フレジュラック5dポーランド
3ドミニク・ボビズ6dハンガリー
4ステパン・ポポフ4dロシア
5アントン・チェルニフ4dロシア

 先日欧州プロ入段大会にも参加したフィオニン6dが優勝した。ただし、フレジュラック5dと共に5勝1敗で、際どい勝利だった。3位にはハンガリーチャンピオンのボビズ6dが食い込んだ。

 写真などは大会サイト(http://eygc2016.rs/)から閲覧することができる。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年3月8日 ]

2016年欧州プロ入段手合

 3月4-6日にかけて、ドイツのバーデンバーデンにおいて欧州プロ入段手合が開催された。バーデンバーデンは高級保養地で、フランスのストラスブールなどからも近い。参加したのは、欧州ランキングを基準に選抜された16人。2014、2015年は一大会ごとに2人が入段していたが、今回から1人ずつと、更に狭き門となる。

緑と水の豊かなバーデンバーデン。(写真:筆者)
参加者(欧州ランキング順)
1アンドリー・クラベッツ6dウクライナ 9バンジャマン・
ドレアンゲナイジア
6dフランス
2アルテム・
カチャノフスキー
6dウクライナ 10ドラゴシュ・
バジェナル
6dルーマニア
3ルカス・ポドペラ6dチェコ 11ツァオ・ペイ6dドイツ
4トマ・ドゥバール6dフランス 12ユーリ・クローネン6dフィンランド
5ビクトール・リン6dオーストリア 13ルカス・クレマー6dドイツ
6ドミトリー・スリン6dロシア 14ヤン・ホラ6dチェコ
7コルネル・ブルゾ6dルーマニア 15タンギー・ルカルベ6dフランス
8チャバ・メロ6dハンガリー 16グレゴリー・
フィオニン
6dロシア

 ご覧のとおり全員が6段で、7段保有者が消えた。とはいえ、上位のレベルはそれほど以前と変わったわけではなく、誰が出てきてもおかしくない状況。前評判は、クラベッツ、カチャノフスキー、ポドペラの上位三人が高く、特にクラベッツ6dは中国での修行を通じてとみに腕を上げたとの評だった。

 大会のシステムは、3回戦まではダブルエリミネーション(二敗者が脱落する)方式で8人に参加者をしぼり、そこからはノックアウト方式でプロ入段者を決定する、というものである。1回戦では、フランスの伏兵ドレアンゲナイジア6dがクラベッツ6dを撃沈して気勢を上げた。有力候補の1人ポドペラ6dはブルゾ、リン6dに競り負け、早々に脱落した。

一回戦のドレアンゲナイジア6dvsクラベッツ6d戦。白熱した展開に皆注目。(写真:Harry van der Krogt)
パボル・リジー1pはインターネット上でライブ解説を行った。(写真:Harry van der Krogt)

 8強に残ったのはクラベッツ、カチャノフスキー(ウクライナ)、ドゥバール、ドレアンゲナイジア、ルカルベ(仏)、リン(墺)、ブルゾ(ルーマニア)、フィオニン(ロシア)。意外や意外、フランスが3人とも残ったのが目立つ。

談笑するフランスチーム。ルカルベ6d(左)、ドゥバール6d(中)とドレアンゲナイジア6d(手前)。奥はルーマニアのブルゾ6d。(写真:Harry van der Krogt)
4回戦結果
ドレアンゲナイジアドレアンゲナイジア
リン
ドゥバールクラベッツ
クラベッツ
カチャノフスキーカチャノフスキー
ルカルベ
ブルゾブルゾ
フィオニン


準決勝。カチャノフスキー6d(手前)がブルゾ6dを破る。検討に加わるのはドイツのトイバー6dとロシアのフィオニン6d。(写真:Harry van der Krogt)

 4回戦(準々決勝)ではドゥバールvsクラベッツ、ルカルベvsカチャノフスキーと、フランス対ウクライナの対局が2つ重なったが、ドゥバール6dは苦しい碁を粘ったものの2目半届かず、ルカルベ6dもヨセでチャンスを逃して敗れ去った。一方、ドレアンゲナイジア6dはリン6dの大石を屠って好調ぶりを見せつけた。また、過去2回の大会で後1勝のところで涙を飲んだベテランのブルゾ6dが若手のフィオニン6dを破り、安定した力を見せた。

5回戦結果
ドレアンゲナイジアクラベッツ
クラベッツ
カチャノフスキーカチャノフスキー
ブルゾ

 準決勝となる5回戦では、クラベッツとカチャノフスキーのウクライナ勢が完勝。結果的に見ると、決勝はランキング上位の二人の対決という順当な結果となった。

決勝。カチャノフスキー6d(左)とクラベッツ6d。中央はマルティン・スティアスニー欧州囲碁連盟会長。
(写真:Harry van der Krogt)

 決勝ではカチャノフスキー6dが持ち味を出しきって7目半勝ちを収め、パボル・リジー、アリ・ジャバリン、マテウス・スルマ、イリヤ・シクシンに続く5人目のプロ入段を果たした。カチャノフスキー6dは23歳。ウクライナ・リビウ出身で、現在はキエフに在住。落ち着いた性格そのままに、非常に手厚い石運びを好み、欧州囲碁選手権では優勝はないものの、上位入賞の常連である。2013年には世界アマで3位にも入賞。昨年大学を卒業し、現在はプログラマーとして働いている。「仕事が忙しくなかなか囲碁を打つ時間がない」とのことだが、これからどのようなプロ活動を見せるか、注目である。

(写真を提供してくださった欧州囲碁センターのHarry van der Krogtさんに感謝します。)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年2月15日 ]

樊麾プロ、第1回欧州プロ選手権に優勝

 ロシア・サンクトペテルブルクで、2月13-14日にかけて「第1回欧州プロ選手権」が開催された。この大会は欧州囲碁連盟とロシア囲碁連盟に加え、高名な実業家であるロマノフ氏の協賛により実現した。優勝賞金は1000ユーロと、決して他の大きな大会に比べて高いとは言えないが、上位三人が応氏杯(2人)、春蘭杯(1人)という二つの世界戦の参加権を分け合うという意味で重要な大会である。欧州国籍を持つプロが招待され、先日グーグルのAlphaGoとの対局で話題を呼んだ樊麾(Fan Hui、フランス)二段に加え、イリヤ・シクシン(ロシア、1p)、アレクサンダー・ディナーシュタイン(ロシア、3p)、マテウス・スルマ(ポーランド、1p)、アリ・ジャバリン(イスラエル、1p)の5人が参加。総当りリーグ戦を争った。

 混戦が予想される中、樊二段が4戦全勝で堂々の優勝を飾り、欧州チャンピオンの意地を見せつけた。二位争いは、ディナーシュタイン三段が全敗で脱落する中、ジャバリン、シクシン、スルマの欧州3プロがすべて2勝2敗で並ぶ大混戦となった。これを受けて2局のプレーオフが打たれ、これに共に勝利したスルマ初段が応氏杯への参加権を得た。

Youtubeでの中継の様子。先に優勝を決めた樊二段(右下)が、李プロ三段(上)とドイツのマーニャ・マルツ4dの解説に加わる。樊二段は、「Alphagoとの対局を通じて、碁に対する考え方が一変した。おかげで強くなったと思う」と笑いながら語った。
 ロシア囲碁連盟はYoutubeの特設チャンネルなどを通じてその対局を中継、中国のZhao Baolongプロや、韓国の李夏辰(Lee Hajin、世界囲碁連盟理事)プロなどがライブでコメントを行った。

 なお、この「欧州プロ選手権」と並行して、第7回Chinese Consul Cupが開催され、こちらは200人以上を集める盛況となったという。大会の写真などは、ロシア囲碁連盟のサイト(http://gofederation.ru/)で閲覧することができる。ロシアは今年の夏、同じくサンクトペテルブルクで第60回欧州囲碁コングレス(http://egc2016.ru/)を開催する予定となっており、すでに300人以上が参加登録している。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年1月29日 ]

グーグル英子会社のシステム、仏プロ棋士に互先で初勝利

 米検索エンジンのグーグルは、英子会社のディープマインドが、現欧州チャンピオンでフランス国籍の樊麾(ファン・フイ)プロ二段に互先で勝利したと発表した。コンピュータがプロ棋士に互先で勝利するのは史上初めての快挙で、囲碁界および人工知能研究界に大きな衝撃が走った。

 対局は2015年10月に秘密裏に行われていたが、この度、英科学専門誌『ネイチャー』の1月28日号にこれに関する記事が掲載され、その表紙を飾った。英ディープマインド社が開発したAlphaGoというシステムは、ファン二段に、19路盤で互先で挑戦。1時間持ち(秒読みは30秒×3回)の碁では5戦全勝を飾り、早碁では3勝2敗という戦績を上げた。前者5局の棋譜はAlphagoのサイト(http://www.deepmind.com/alpha-go.html)で閲覧することができる。

 ディープマインド社は3年前に創設され、グーグルが2014年に買収した。ディープ・ラーニングと名付けられた機械学習技術と神経科学の応用(ニューラル・ネットワークス)を専門とし、事前の学習なしで問題を解決できるシステムを開発。既に画像認識や音声認識の分野で大きな進歩をもたらしている。また昨年には、ニューラルネットワークスを用い、「スペースインベーダー」といった1980年代に流行った49種類のビデオゲームをソフトにゼロから習得させ、このうちの22で人間を超えるレベルを達成し、話題となった。

 囲碁は、碁盤の大きなサイズとその複雑さから、人工知能にとって戦略ゲーム中最大の難関とされているが、ディープマインド社は、モンテカルロ法と呼ばれる手法とディープラーニングを組み合わせることにより、飛躍的な進歩をもたらすことに成功した。また、『ネイチャー』によると、ディープマインド社のシステムは、千台を超えるCPUのネットワークによる巨大な計算能力の恩恵も受けた。ディープマインド社は既に、AlphaGoが3月に韓国で李世乭(イ・セドル)九段に挑戦すると発表しており、世界最高峰レベルにどこまで迫ることができるか、今からその対決が世界中の注目を浴びている。

 なお、グーグルが囲碁と人工知能に関して重大な発表を行うとの事前情報を察知してか、ライバルのインターネット大手フェイスブックのマイク・ザッカーバーグCEOはこれに先立つこと数時間前、「昨年フェイスブックの人工知能研究チームが囲碁を学習する人工知能の開発を開始し、大きな進歩を遂げた」という内容の発表を行っていた。しかし、今回Alphagoがプロ棋士を破ったことで、グーグルがフェイスブックに大きく差を開けたことが明らかになったとの見方が支配的である。

 さて、このニュースは、世界中のメディアで大きく扱われたが、特にファン二段が住むフランスでは、モンテカルロ法の導入で囲碁ソフトの進化に仏研究チームが大きく貢献したこともあり、主要紙やテレビ、ラジオを始めとして大々的にカバーされ、筆者の友人は、同僚全員から「囲碁の記事、みたかい?」と聞かれた、と嬉しそ

仏囲碁連盟開催の若者向け合宿で指導するファン二段(右)。(写真:筆者)
うに語っていた。特に、仏のルモンド紙は1月28日付けでファン二段のインタビューを掲載するなどこの話題を大きく取り上げた。ファン二段は「完敗です。すごいレベルです。驚いたし、恥ずかしいですね。」と吐露した上で、「ソフトは普通、妙な手を打つものですが、Alphagoは普通の手ばかり打つ。まるで人間と対局しているような感じで、こちらが打っているうちに自信喪失するほどでした。まったく信じられないことです。でも、4000年の歴史を経ても、人間は囲碁の一割も知らないのかもしれない。ソフトが一緒に進化できるパートナーになれたら、素晴らしいのではないでしょうか。」と感想を述べた。

 ファン二段は1981年生まれの35歳。中国の西安出身で、少年時代には囲碁のエリートである国家少年隊に属し、古力九段などと切磋琢磨した。その後、2000年に「世界を見るために」渡仏。2006年には、仏囲碁連盟の公式指導員として雇用された。数年前に仏国籍を取得し、以来2013年から2015年にかけて欧州選手権を3連覇。仏語の囲碁関連書籍を出版するほか、ボルドーに在住してワイン取引も行うなど、積極的で幅広い活動を見せている。今回の敗北に関して、一部では「長い間アジアのハイレベルの対局から離れていて、本当にプロのレベルが維持できているのだろうか」といった意地の悪い声も聞かれるのだが、実際に対局し、共に仕事をして彼を知っている者として言わせてもらうと、「ある程度囲碁に人生を捧げた人でなければ絶対に達することのできないレベルであることは間違いない」。そして、プロであれば負けたことは悔しく、恥ずかしくないはずがない。歴史の中で誰かが引き受けなければいけない、辛い大役を担ってくれたこと、そして囲碁を世界的に話題にしてくれたことに、感謝せずにはいられない。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2016年1月12日 ]

2015年の欧州各国チャンピオン

 欧州各国の2015年度の選手権の結果がほぼ出揃った。ポーランドやオーストリアのように、2016年初に決勝ラウンドを行う国もあるため全ては網羅できないが、既に紹介したフランスを除いて、主要国のチャンピオンを以下に紹介しておこう。これから世界アマなどの大会でも国を代表してゆく選手となると思われるので、是非注目して欲しい。

アイルランド(10月開催)

決勝3番勝負の結果、アイルランドに移住したばかりでフランス出身のフィリップ・ルノー2dがジェームズ・ハッチンソン1dを下して優勝した。

イスラエル(10月開催)

イスラエルは欧州囲碁連盟に加盟している。アミール・フラグマン4dがリーグ戦5勝1敗で優勝した。初のイスラエルチャンピオンとなる。

ウクライナ(11月開催)

アンドリー・クラベッツ6dが、ドミトロ・ボハツキー6dやアルテム・カチャノフスキー7dといった並み居る強豪を抑えてリーグ戦7戦全勝を収め、優勝した。

オランダ(1-2月開催)

予選リーグ戦につづく決勝3番勝負の結果、メルリン・クイン6dがペーテル・ブラウワー6dに2勝1敗で勝利し、7度目のオランダチャンピオンとなった。

スウェーデン(5月開催)

フレデリック・ブロンバク6dがリーグ戦6戦全勝を収め、5度目の優勝を飾った。

スペイン(12月開催)

若手のオスカル・バスケス3dがリーグ戦を6勝1敗で初優勝を果たした。

セルビア(12月開催)

デュシャン・ミティッチ6dがリーグ戦7戦全勝で優勝した。デュシャン6dの弟ニコラ・ミティッチさんは現在日本棋院で院生修行をしている。

チェコ(9月開催)

ヤン・クロコップ5dがリーグ戦の結果ルカス・ポドペラ6d、ヤン・シマラ6d、ヤン・ホラ6dといった強敵を抑え、初優勝した。

ドイツ(11月開催)

チェコ・リベレツのコングレスでも好調だったルカス・クレマー6dがリーグ戦6勝1敗で3連覇を果たした。2位のベンヤミン・トイバー6dは、なんと2004-2007、2009-2011、2014年に続く9度目の準優勝に泣いた。

ハンガリー(11月開催)

若手伸び盛りのドミニク・ボヴィズ5dが、元院生組であるパル・バログ6d、チャバ・メロ6dを抑えてリーグ戦5戦全勝、初の栄冠に輝いた。

フィンランド(11-12月開催)

アンティ・トルマネンさんが日本棋院のプロとなることが決定したフィンランドでは、決勝3番勝負の結果、ユーソ・ニイソネン5dがユーリ・クローネン6dを破り、2013年以来2度目のフィンランドチャンピオンとなった。

ベルギー(3月開催)

トマ・コノール2dがリーグ戦9戦全勝で初優勝し、ルカ・ネイリンク4dの5連覇を防いだ。

ルーマニア(6月開催)

コルネル・ブルゾ6dがリーグ戦7戦全勝。強敵クリスチャン・ポップ7dを抑えて優勝した。

ロシア(11月開催)

イリヤ・シクシン1pがリーグ戦11戦全勝を収め、アレクサンダー・ディナーシュタイン3pらを抑えて優勝した。シクシン1pがロシアチャンピオンに輝くのは7度目となる。



ロシア、初の欧州プロ大会を開催へ

 欧州囲碁連盟(EGF)とロシア囲碁連盟は、EGF加盟国籍を持つプロ棋士向けの大会の開催を発表した。今年の2月13-14日にかけて、サンクト・ペテルブルクにおいて開催する。開催されるホテルは、今年の欧州囲碁コングレス会場となることが予定されるアジムート・ホテル。優勝賞金は1000ユーロで、上位2位のプレーヤーは2016年の応氏杯欧州代表となる。
 なお、欧州プロ入段手合は3月4-6日にかけてドイツのバーデンバーデンで開催される予定で、パボル・リジー、アリ・ジャバリン、マテウス・スルマ、イリヤ・シクシンに続く5人目のプロを決定する。また欧州プロを含めた強豪によるグランドスラム大会は、4月頭にハンガリー・ブダペストで予選会を行った後、4月28日-5月1日にかけてベルリンで決勝ラウンドを開催する。

[ 記事:野口基樹 ]

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