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ヨーロッパ囲碁ニュース

ヨーロッパの囲碁ニュース・棋戦情報をお伝えします。

ヨーロッパからの囲碁ニュース・棋戦情報を皆様にお伝えします。

囲碁ニュース [ 2017年12月25日 ]

「研究生道場」キャンプがドイツで開催

黄仁聖さん
黄仁聖さん。(写真:筆者)

 現在、欧州をベースとして活動する囲碁指導者として最も活発なのが、フランス・グルノーブル在住の黄仁聖(ファン・インソン)さんであろう。黃さんは元韓国棋院の院生で、名古屋で指導に活躍する趙錫彬さんや、関西棋院の尹春浩3pといった棋士と同世代にあたる。
 インターネット上で「研究生道場(ユングセン・ドジャン)」という指導プラットフォーム(https://www.yunguseng.com/)を展開し、生徒数は欧州100人強、米国70人のあわせて約180人を集める成功を収めている。

アイフェル山地にある風光明媚なキルブルクの村。
アイフェル山地にある風光明媚なキルブルクの村。

 研究生道場」はオンラインでの指導を基本としているが、毎年実際に会う形でのキャンプも行っている。今年のキャンプは12月16日から19日にかけてドイツ・トリアー近郊のキルブルクという村で開かれた。参加者数は約40人で、開催地に近いドイツ、フランスが中心だが、オランダ、英国や、さらにはルーマニア、米国、南アフリカからも参加があり、幅広い裾野を見せた。スケジュールは濃密ながらも、変化に富んでいて、参加者がとても楽しんでいるのが印象的だった。


講師役の一人、ベルリン在住のキム・ソンジン8dの指導風景。

二日目には雪景色となった。


参加者。

 この機会に黄仁聖さんにお話を聞くことができたので、以下に紹介したい。

なぜ欧州に来ようと思ったのですか。


黄さんがベルギーチャンピオンのネイリンク5dの碁を検討。

 院生を終えたあと、韓国の明知大学(注:囲碁学科があることで知られる)に進学し、囲碁専門局バドゥクTVのコメンテーターを3年あまり務めました。そのころ、2005年のことでしたが、ベルリンの囲碁クラブから「講師役を送ってほしい」という話があり、大学の先生から、「一年間欧州に行ってみないか」との話をいただいたんです。私が碁打ちとしては珍しく(?)社交的な性格だったので、白羽の矢が立ったようです。私は兵役を控えていたのですが、これまでの生活を変えたい、新たな発見をしたい、と常々思っていたので、兵役を一年伸ばして行ってみることにしました。

 こうして欧州での滞在が始まったのですが、この一年間は驚きの連続でした。様々な国の大会やキャンプに行く機会があったのですが、まずなによりも『ヒカルの碁』フィーバーの真っ只中で、ヨーロッパの囲碁界には若者が多く、とても活気がありました。特にフランスでのとても自由で楽しい雰囲気のキャンプなどが強く印象に残っています。このときは一年間だけの滞在で、その後2年間の兵役に就かなければいけなかったのですが、また是非欧州に戻りたいな、と思ったのです。兵役の間、特に2年目は自由な時間が多かったので、「どうやったら欧州で生活できるだろう?」と色々考えました。結論は、「一つの国でレッスンするだけでは生活に十分ではないので、インターネットで活動の場を広げる必要がある」ということ。そして、本当の院生向けのようなレッスンではなく、真面目なトレーニングにヨーロッパの気楽なスタイルと気質とをマッチさせることを考えました。

 2009年に念願がかなって欧州に戻ることができ、ドイツ、スイス、フランスなどで活動しましたが、2011年から、様々な方々の助けを得て、オンラインでの指導プラットフォーム「研究生道場」をはじめました。はじめは生徒数17人でスタートしましたが、2014年には米国セクションも開くことができて、現在では参加者数が全部で180人になりました。

「研究生道場」の成功の秘訣はなんでしょう?

 まずは、オンラインで指導する「囲碁の学校」が少ないことが一つでしょうか。教え方について言うと、私の指導法が最善だ、とは思いませんが、従来と違う教え方をしていることが成功につながっているのかもしれません。私は「答え」そのものを与えるのではなく、「答えにいたるプロセス」、いわゆる「公式」みたいなものを与えることにしています。また、生徒の打碁をコメントするときには、特に各人のスタイルに適した個人的なアドバイスをすることを心がけています。

 時間があるときには、自分自身が過去に打った碁を見て、「なぜ私はここに打ちたくなるのだろう」と考えて記録し、分析するようにしています。レッスンを準備するのは時間がかかります。特に、レッスンの元となる局面の例を見つけるのが難しい。ですが、私は年間に生徒の碁約3000局を検討しているので、これを自分のデータベースに保存して、「これはレッスンに使えるな」と思うと、特別なフォルダーに入れて整理するようにしているんです。

 私は「他の分野でどのようなインターネット講座が行われているか」ということに興味があって、色々な指導ビデオを見るのですが、本当によくできているものが多いのですね。囲碁のレッスンも、それと同じくらい面白いものでなければ。囲碁は静的なゲームですから、レッスンの際には、囲碁に「踊って」もらわなければ、と思って、様々な比喩を加えたり、イメージを取り入れたりして、色々工夫をこらすようにしています。

欧州囲碁界の現状について、また欧州の囲碁そのものについてはどう思いますか。

 欧州囲碁連盟によるプロ制度ができたことには色々な意見があると思いますが、私自身は正しい方向に向かっていると思います。私が初めて欧州にきた2005年当時、ヨーロッパ最高段位の6-7dの人たちは、目標設定に苦労していました。それに比べて、若い世代は目標もあり、それが自信にもつながって、恵まれていると思います。またプロ制度ができたことが国際的な認知度もあがり、国際的な大会があれば、欧州のプロが招待され、先日中国で開催されたIMSAエリートマインドゲームズのように、柯潔や朴廷桓といった超一流棋士と対局することができる。正直、羨ましいですね。

 アジアと欧州の囲碁の違い、というと、アジアの場合は「まず打って、あとから考える」のに対し、欧州は「まず理解して、あとから打つ」というところでしょうか。アジアの方がスピードはありますが、欧州はまず考えるので、ものを底辺から変える力があると思います。欧州は、真剣勝負をする場が少ないのが欠点で、そのためにレベルがアジアには劣っていますが、「Alphago世代」が先日発表された指導ツールのようなものを活用して、こうした現状を変えてくれることを期待したいですね。

 今後の目標を教えてください。

 「研究生道場」が大所帯となったことには満足していますが、とにかく時間がかかるのが難点です。何か、ほかのこともやってみたいですね。自分の考えをまとめた本も書いてみたいし、また今回の合宿のように、オンラインではなくて、実際に会って行なうレッスンもとても楽しく、できれば機会を増やしたいのですが。

 究極の夢といえば、欧州に囲碁センターのようなものを開くことでしょうか。あとは、先生を育てることです。欧州のプレーヤーでも、もっと指導できる人が増えれば、囲碁界もより活気づくことでしょう。若いプレーヤーの間には、「囲碁の指導で生活したい」と考える人も多くなってきました。彼らが、自信をもって教えられるためには、彼ら自身がある程度のレベル…いわば、欧州の5dくらいのレベルでしょうか…に達しなければいけない。そうした手助けをしてあげたいと思います。また、「教える文化」を色々な面から変えていかなければいけないと思います。皆が囲碁の指導にお金を払ってもらえるようにすること、指導者がもっと指導にあたって準備をすること、市場を拡大すること、とやらなければいけないことは盛り沢山です。私自身は欧州囲碁界というシステムに受け入れてもらったおかげで活動ができています。だからそのお返しとして、そのシステムを良くする。それが私の任務だと思っています。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年12月14日 ]

ロシア選手権、シクシン1pが優勝

 ロシア選手権最終ステージが11月13-18日にかけて開催された。場所は2016年のコングレスが開かれたサンクトペテルブルクのアジムート・ホテルである。今年の最終ステージの参加者は10人で、総当たりリーグ戦で優勝を争う。結果はイリヤ・シクシン1pが全勝優勝し、4年連続9回目の優勝を果たした。2位と3位はアレクサンダー・ディナーシュタイン3p、ドミトリー・スリン7dのベテランが占めたが、これに、グレゴリー・フィオニン7d、バチェスラフ・カイミン5dの若手が続いた。
 なお、シクシン対カイミン戦では92手完の半目勝負が出現し、「記録された限りでの最短の作り碁か?」と話題になった。

棋譜

序盤は真似碁風に展開したが、右下で白番のカイミン5dが機敏に立ち回ってリードを奪った。しかし「ヨセ」で緩着がでて、半目に泣いた。プロでの記録は、2003年の武宮正樹vs張栩戦で、121手完の記録がある(名人リーグ、白番張栩9pの8目半勝)。

16歳のホープであるカイミン5d(左)は大魚を逃した。
16歳のホープであるカイミン5d(左)は大魚を逃した。

 シクシン1pとディナーシュタイン3pの対局も1目半差の勝負となり、シクシン1pにとっては薄氷の勝利となった。
 なお、11月末から12月にかけてはこのほかにもいくつかの強国で選手権が開催された。

 ウクライナ選手権(11月18、26日)
 8人によるリーグ戦の結果、アルテム・カチャノフスキー1pが全勝優勝を果たした。2位はアンドリー・クラベッツ1pだった。

 ポーランド選手権(12月7-10日)
 マテウシュ・スルマ1pが中国で開催されているIMSAエリートマインドゲームズに出場して不在の中、スタニスワフ・フレイラック6dが優勝した。2位はレシェック・ゾウダン4dだった。

 ハンガリー選手権(12月9-10日)
 チャバ・メロ6dが5勝1敗で優勝した。2位はパル・バログ6d、3位はドミニク・ボビズ6dだった。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年11月18日 ]

日本棋院欧州囲碁文化センター、25周年記念大会を開催

 オランダ・アムステルダム郊外アムステルフェーンにある日本棋院の欧州囲碁文化センター(EGCC)が1992年に岩本薫元本因坊の尽力により開所されて以来25年を迎え、10月21日の週末にこれを記念した大会が開催された。
 記念大会には1pから18kまで87人が参加。5回戦の結果、韓国棋院元院生で現在ベルリン在住のキム・ソンジン8dが全勝優勝した。2位はアルテム・カチャノフスキー1p(ウクライナ)、3位はルカシュ・ポドペラ7d(チェコ)、4位はスタニスワフ・フレイラック6d(ポーランド)、5位はシナン・ジェポフ5d(ブルガリア)だった。


1992年、開所式にて。右が岩本薫9p、中央がアムステルフェーン市のファン・ディペン市長。(写真:欧州囲碁連盟、以下同)

レセプション用に、碁石をイメージしたテーブルが設置された。


レセプションにて。左からファン・フェーニンヘン・アムステルフェーン市議員、河原節子在オランダ日本大使館公使、ツァラヌ・カタリン5p、山城宏日本棋院副理事長、ファン・デル・クロフトEGCC責任者。

この大会に先立って20日には「囲碁指導者の日」と名付けられたセミナーが開かれ、欧州各国で囲碁を指導するプレーヤーが集まり、指導に関する話し合いやブレインストーミングが行われた。ツァラヌ5pや山城宏日本棋院副理事長も参加した。


記念大会に優勝したキム・ソンジン8d(右)。ポドペラ7d(左)との対局では薄氷の1目半勝ちを収めた。

多面打ちをするカチャノフスキー1p。


大会には裏方の仕事も欠かせない。3人のプレーヤーが54枚の盤、
2万個にわたる碁石を掃除した。お疲れ様でした。

仏「メットル・リム杯(クラブ対抗選手権)」、グルノーブルが4連覇

 フランスでは今秋、10月から11月にかけて各種の選手権戦やイベントが相次いだ。10月7日の週末にはフランス人限定の選手権(既報)と共にベテラン選手権が同時に開催。21日からは青少年囲碁キャンプが1週間にわたり開かれ、28日の週末にはペア碁選手権、そして11月4日の週末には「メットル・リム杯(クラブ対抗選手権)」が開かれる、といった具合である。中にはこれらのイベントのほとんどに参加した猛者もいたようだが、ハードスケジュールもさることながら、フランスの国土はかなり大きいため、移動だけでもかなり大変である。このうち、掉尾を飾ったメットル・リム杯についてお伝えする。

「烏鷺」を意識した表紙が美しい。(写真:欧州囲碁連盟)
会場の様子。(写真:Olivier Dulac)

 フランスのクラブ対抗選手権は4人1チームでの対抗戦で、ペア碁選手権同様高い人気を誇る選手権である。この理由としては、…これはペア碁と共通していると思うが…団体戦ということで連帯感があること、多くの人が参加できる大会であること、強豪と対局できる数少ない機会であることが挙げられると思う。ちなみに、日本では白黒をはっきりさせるためにチームの構成人数を奇数に設定するのが普通だと思うが、あえて引き分けが可能な4人(これはパンダネット主催の欧州国別対抗選手権や、ドイツのクラブ対抗「ブンデスリーガ」でもそうであるが)に設定された理由は明らかではない。中には「乗用車は普通4人乗りだから、各チームが移動しやすい」という車大国フランスらしい説をまことしやかに唱えている人もいた。

右が監修を担当したキム・オウレーンさん。パートナーのユスティナ・クレンチャルさん(左)も写真選択、校正などに関わった。(写真:欧州囲碁連盟)
グルノーブルは3チームを決勝ステージに送り込み、第2回戦ではグルノーブル1、2チームが対局した。(写真:Olivier Dulac)

 今年の大会はトゥルーズで開催され、16チームが参加した。昨年までグルノーブルが3連覇しており、今年も黄仁聖8d以下、平均5d超という強靭なメンバーを揃えた。トマ・ドゥバール6d、アントワーヌ・フネック5dなどを擁するストラスブールや、バンジャマン・パパゾグルー5dがキャプテンを務めるレンヌが対抗馬と見られたが、壁は厚く、グルノーブルが全勝、個人成績18勝2敗という圧倒的な成績で4連覇を果たした。来年は、トゥルーズおよびストラスブールのみが達成しているV5に挑む。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年10月26日 ]

欧州囲碁連盟、2016年囲碁年鑑を出版

「烏鷺」を意識した表紙が美しい。(写真:欧州囲碁連盟)
「烏鷺」を意識した表紙が美しい。(写真:欧州囲碁連盟)

 今年夏に、欧州囲碁連盟(EGF)から2016年版の囲碁年鑑(https://www.eurogofed.org/yearbook/ 価格は50ユーロ)が発売された。EGF史上初となるこの囲碁年鑑は全576ページ(英語)、収録局全200局の大作で、内容も独創的で充実し、圧巻の一言である。

 年鑑はまず欧州囲碁の様々な統計、2016年に欧州および日本でプロとなったアルテム・カチャノフスキー、アンティ・トルマネン1pの紹介から始まり、次に欧州各国の選手権(一般、女性、若者、チームなど含む)、重要大会、欧州のプレイヤーが参加した国際大会のレポートを、多彩な写真、プレイヤーのインタビュー、コメント付き対局を含めてカバー。特に注目されるのが、ロシア、ドイツ、フランスといった大国だけでなく、ベラルーシ、ジョージア、アゼルバイジャン、南アフリカ(なんと、EGFのオブザーバーメンバーである)などの小国も含めてEGF加盟国のあらゆる国を完全に網羅している点である。最後にはAlphaGoおよび囲碁AIについての特集も組まれ、対局のコメントに加え、それについて樊麾2pを含めた欧州プレイヤーの反応なども掲載されている。

右が監修を担当したキム・オウレーンさん。パートナーのユスティナ・クレンチャルさん(左)も写真選択、校正などに関わった。(写真:欧州囲碁連盟)
右が監修を担当したキム・オウレーンさん。パートナーのユスティナ・クレンチャルさん(左)も写真選択、校正などに関わった。(写真:欧州囲碁連盟)

 この囲碁年鑑の編集を担当したのはオランダのキム・オウレーンさん。本職はライター、美術史家、アーティスト(同氏のサイトはこちらhttp://www.murugandi.com/)で、囲碁も4dの腕前。過去には囲碁のオンラインビデオシリーズを立ち上げるなど、積極的な活動を展開してきた。

 プロジェクトは2016年秋にEGF事務局内で提案されたもので、直後にオウレーンさんに白羽の矢が立った。具体的に作業が始まったのは12月。EGFのロレンツ・トリッペル理事(スイス)や、パボル・リジー1p(スロバキア)などのサポートを得て、半年がかりで完成に漕ぎつけた。初めての年鑑でもあることから作業立ち上げ当初は困難を極め、様々な試行錯誤の過程があった。途中で図のフォーマットが印刷にあたって適切でないとわかり、変化図などをすべてゼロから作り直すなどの一幕もあったという。情報はSNSやプレイヤーとのメールを通じて収集したが、情報を得るにあたって「適切な人」にコンタクトをとることの難しさを感じると共に、また面白い情報を提供するにはどうしたらいいかに頭を悩ませたそうだ。オウレーンさんは、以下のような逸話を披露している。

 「アゼルバイジャンの囲碁コミュニティへのコンタクトは本当に大変でした。何時間も人に聞いたり、自分で探し回った結果、ようやくコンタクトパーソンを見つけたのですが、彼らはアゼルバイジャン語、もしくはロシア語しか話せないことがわかりました。しかしありがたいとことに私たちは技術の世紀に生きているので、グーグル翻訳、アゼルバイジャン語翻訳プログラムのおかげでアゼルバイジャン・チャンピオンのタヒルバヨフさんに話すことができ、そのインタビューを掲載することができました。」

オウレーンさんがたまたまSNS上で発見したマケドニア・オフリッド湖畔での囲碁写真。(写真:Elena Gligoroska、Filip Paskali、欧州囲碁連盟)
オウレーンさんがたまたまSNS上で発見したマケドニア・オフリッド湖畔での囲碁写真。(写真:Elena Gligoroska、Filip Paskali、欧州囲碁連盟)

 「ある日、フェイスブック上で、マケドニア・オフリッド市の囲碁クラブのページにたまたま行き当たりました。そこには、夏の湖を背景にした碁盤などとてもきれいな写真がいくつかあったのです。チェックした所、マケドニアは未だにEGFのメンバーではありませんでした。実はオフリッドのプレーヤーであるフィリップ・パスカリさんが友人にゲームを教えて囲碁クラブを作り、2016年にはマケドニア初の囲碁大会を開催していたのです。この機会にパスカリさんにインタビューをすることができ、マケドニアについての文章を掲載することができました。年鑑が完成した後、マケドニアはEGFの正式なメンバーとして迎えられました。そして私は私のパートナーとオフリッドを訪れて、写真に写っていた湖のほとりで、パスカリさんと彼のパートナーとの間で、ペア碁を打つことができたのです。」

 ただし、「アルバニア、アンドラ、アルメニア、グリーンランド、コソボ、リヒテンシュタイン、マルタ、モルドバ、モナコ、モンテネグロ、サンマリノ、バチカン市国に関してはプレイヤーや情報がどうしても見つからず、今後の課題」とのことである。

 オウレーンさんの経験と苦労とを反映するかのように、どのページを開いても新鮮な驚きに溢れた年鑑である。現在のところ、2017年版がでるかは不明というが、可能ならば、是非続けてほしいものだ。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年10月13日 ]

ドイツとフランス、男女共に新たなチャンピオンが誕生

 9月末から10月上旬にかけて、ドイツとフランスで女流選手権および一般の選手権が開催され、いずれも新たなチャンピオンが生まれた。

ドイツ女流選手権


参加者。右から3番目が優勝のヴィルムス2d、左から2番目が2位のマルツ3d、一番右が3位のションベルク3k。(写真:ドイツ囲碁連盟)

 9月30日-10月1日の週末に、西部の都市ボーフムにおいて、毎年恒例の大会と並んで女流選手権が行われた。参加者は8kから3dの6人。同選手権では、現欧州女流チャンピオンのマーニャ・マルツ3dが2013年から4連覇していたが、最終戦でマイケ・ヴィルムス2dに敗れる番狂わせ。新チャンピオンの誕生となった。

ドイツ選手権

 ドイツ選手権決勝ラウンドは、9月30日から10月3日にかけてフランクフルトで開催された。決勝ラウンドは、前年の優勝者、準優勝者がシード、これに加えて予選ラウンドの上位入賞者6人が参加するというシステムである。同大会は2013年からルカス・クレマー6dが4連覇中で、昨年は中国出身のツァン・イー5dを決勝で下した。
 ここのところ各大会で好成績をあげているヨナス・ヴェルティケ6dは、韓国の国務総理杯世界アマチュア囲碁選手権戦のドイツ代表となり、同大会が予選ラウンドと同じ週末だったことから予選ラウンドに出られなかったが、ここのところの好成績に鑑み、特例で決勝シードとなった。この3人に加え、ヨハネス・オーブナウス6dあたりが優勝候補の最右翼と見られた。

 決勝ラウンドは総当たりリーグ7回戦で行われ、4日間にわたる長丁場である。4回戦まではクレマー6dとオーブナウス6dが全勝で並走。ヴェルティケ6dは2回戦を落とし、イー5dは2敗で脱落した。5回戦以降は有力者同士の直接対決となったが、ここでヴェルティケ6dが勝負強さを見せ、見事1敗をキープして初優勝を果たした。

 ヴェルティケ6dは常識にとらわれない華麗な碁が好きなタイプ。学校では哲学を専攻し、ジャーナリズム、政治が好きという22歳である。


優勝したヴェルティケ6d。(写真:ドイツ囲碁連盟、欧州囲碁連盟)

参加者とオーガナイザー。左から2位のクレマー6d、優勝のヴェルティケ6d。一人おいて4位のオーブナウス6d。(写真:ドイツ囲碁連盟、欧州囲碁連盟)

フランス女性選手権

 まったくの偶然であるが、フランスでも同じ週末に女性選手権が開催された。場所は中央山塊の中心都市クレルモンフェランで、こちらも一般大会と同時に開かれた。フランスの女性選手権はなんと2000年以降開催されておらず、これが17年ぶりの大会となった。1990年代、相鉄杯世界女流アマチュア選手権が開催されていた時代は代表決定戦を行っていたのだが、同選手権がなくなってその存在意義が薄れると、「なぜ女性が男性と別に選手権を争わねばならないのか、女性も男性と同じ土俵で戦うべきだ」と女流プレーヤー自身から反対の声があがり、結果として消滅した、という何ともフェミニズム発祥国フランスらしい逸話がある。

 そんな中で、今回女流選手権が復活したのは、シャンタル・ガジュドス仏囲碁連盟会長の意向が大きい。「我々はこれまで若者への普及に努めてきましたが、女性への普及も大事だと思います。仏囲碁連盟での女性の割合はわずか13%にすぎず、これではなんの自慢にもなりません。どうしたら女性プレーヤーが増えるのでしょう?答えは簡単です。女性プレーヤーを増やすことです。一人でも多く女性プレーヤーがクラブにいれば、ほかの女性も来やすくなるでしょう。勿論、クラブでの受け入れ体制もとても重要です。女流選手権を作ったのも、▽女流囲碁の価値を高め、より皆に「見える」ようにする▽フランスの女流強豪の名前を知らしめる▽女流プレーヤー同士が知り合う場所を提供する…といった目的で、簡単にできることだからです。」

 この記念すべき大会には、6人が参加した。3回戦を戦い、18歳の新鋭、アリアーヌ・ウジエ2dが優勝した。ウジエ2dは仏青少年20歳未満の一般選手権チャンピオンで、弟さんも若者のホープ。自分で詰碁を創作するなど、熱心で今後が有望である。


優勝したウジエ2d。(写真:Olivier Dulac)

参加者。一番左が仏囲碁連盟会長のガジュドスさん(自身も6kで参加した)、左から3番目が2位のコルニュエジョルス1d、一人おいて優勝のウジエ2d、一番右が3位のボクレ2d。

 2位はベテランのドミニク・コルニュエジョルス1d、3位はミレナ・ボクレ2dだった。

 なおほかの国を見ると、2016年以降では、ロシア、ウクライナ、ルーマニア、トルコ、オランダ、スロバキアで女流選手権が開催されている。

フランス選手権



左から3位のルカルベ6d、2位のドゥバール6d、オーガナイザーを務めたアントワーヌ・フネック5d、優勝のドレアン・ゲナイジア6d。(写真:筆者)

 一方、一般のフランス選手権は10月8-9日の週末に東部のストラスブールで行われた。フランスには囲碁連盟加盟者なら誰でも参加できる「オープン選手権」と、世界アマチュア囲碁選手権戦代表決定の意味を持つ「フランス選手権」があり、後者はフランス国籍を持つアマチュアの有資格者のみが参加できる。オープン選手権決勝ラウンドは8月に開かれ、中国出身で最近フランスに留学で来たガオ・ジアシン6dが優勝した。

 フランス選手権の参加者は、昨年まで8人に限られ、トーナメント方式、3回戦で行われていたのだが、今年からこれを16人に拡大した。参加者は、ランキング上位者、オープン選手権の成績優秀者、ワイルドカードといったプレーヤーから構成される。

 昨年優勝の戴俊夫8dが不参加の中、これまで4回の優勝を誇るトマ・ドゥバール6dが圧倒的有利かと思われた。決勝に勝ち抜いたのは、ドゥバール6dと、同世代のバンジャマン・ドレアンゲナイジア6d。後者は準決勝で今年前半に絶好調だったタンギー・ルカルベ6dを破った。決勝はドゥバール6dに珍しくミスがでて、ドレアンゲナイジア6dが得たリードを手堅く守り、見事に初優勝を収めた。

 ドレアンゲナイジア6dはブルターニュのコンカルノー出身。周囲に強豪がいない中で、インターネットで腕を磨いてメキメキと腕を上げた、新世代の申し子のような存在である。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年8月28日 ]

欧州女性選手権、マルツ3dが優勝

 欧州女性選手権が8月半ば、ウクライナ南部、黒海に面するオデッサで開催された。欧州からアクセスの難しい場所ながら、地元ウクライナから多くの参加者があり、総勢では50人が参加する大きな大会となった。


コバレバ5d(左)の対局をウクライナ出身のアルテム・カチャノフスキー1p(中央)がコメント。
(写真:ウクライナ囲碁連盟、欧州囲碁連盟)
対局の様子。欧州女性選手権と同時にオデッサ・オープン大会も開かれ、約40人が参加した。(写真:ウクライナ囲碁連盟、欧州囲碁連盟)

 昨年優勝のナタリア・コバレバ5d、一昨年優勝のリタ・ポチャイ5dが有力候補だったが、この予想を覆し、ドイツのマーニャ・マルツ3dが見事な内容で初優勝を果たした。


優勝したマルツ3d。中央ドイツ放送(MDR)で優勝が報じられた時の様子。

 マルツ3dはドイツ東部のイエナ在住。バイオインフォマティクスの研究者である傍ら、3児の母で、優れた音楽家でもあり、先日のオーバーホフでのコングレスのメインオーガナイザーも勤めてしまう…というスーパーウーマンである。

大会結果は以下の通り。

順位 名前 段位 勝-敗
1 マーニャ・マルツ 3d ドイツ 5-0
2 ナタリア・コバレバ 5d ロシア 4-1
3 リタ・ポチャイ 5d ハンガリー 3-2
4 エルビナ・カルルスベルグ 4d ロシア 3-2

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年8月9日 ]

欧州囲碁コングレス、ドイツで開催:欧州選手権はシクシン1pが優勝


会場の様子。(写真:グルノーブル囲碁クラブ、欧州囲碁連盟)

 欧州囲碁コングレス(http://www.egc2017.eu/)がドイツ・オーバーホフにおいて開催された。オーバーホフは中部テューリンゲン州にあるウィンタースポーツのメッカである。以前の記事で触れたように、今年のコングレスは本来トルコでの開催が予定されていた。それが昨年秋に突然中止になり、その後ロシア・ソチでの開催が決まりかけたが、「2年連続ロシアでの開催は如何なものか」との声が多かったことから、最終的には投票を経てドイツ開催に落ち着く、という迷走があった。準備期間は数ヶ月しかなかったものの、大会が無事に挙行されただけでなく、メインとなるオープン選手権には821人、週末の大会には635人が参加する過去最大級のコングレスとなった。これだけの人数を受け入れ、時間通りにスケジュールを進め、多くのサイドイベントも運営してしまうドイツの組織力には改めて感嘆せざるをえない。

 欧州囲碁コングレスでは、欧州のプレーヤーからチャンピオンを決める「欧州選手権」と、皆に開かれた「オープン選手権」が並行して開かれる。この2大会の並立が以前から問題となっていて、数年前から欧州選手権については参加者を欧州の国籍を持ったプレーヤー24人に限定し、ほぼ一週間で行われることになった。準々決勝までは2敗者が脱落するダブルエリミネーション方式、ベスト8以降はノックアウト方式である。その準々決勝に無敗で駒を進めたのはマテウシュ・スルマ1p(ポーランド)、アルテム・カチャノフスキー1p(ウクライナ)とビクトール・リン6d(オーストリア)。一方、1敗したものの敗者復活戦を勝ち上がったのがイリヤ・シクシン1p(ロシア)、アリ・ジャバリン1p(イスラエル)、クリスチャン・ポップ7d(ルーマニア)、ドラゴシュ・バジェナル6d(ルーマニア)、ニコラ・ミティッチ6d(セルビア)の5人となった。プロ勢では、パボル・リジー1p(スロバキア)と新たにプロ資格を得たクラベッツ7d(ウクライナ)、ディナーシュタイン3p(ロシア)が脱落した。

(ベスト8以降)
カチャノフスキー1p カチャノフスキー シクシン シクシン
ジャバリン1p
ポップ7d シクシン
シクシン1p
リン6d リン スルマ
ミティッチ6d
スルマ1p スルマ
バジェナル6d

 準決勝に勝ち上がったのはカチャノフスキー、シクシン、スルマのプロ組に加え先日プロ入段手合で次点に泣いたリン6dで、まずは今年好調な成績を挙げている4人の対決となった。シクシン1pは予選で敗れたカチャノフスキー1pを葬り去って昨年に続いて決勝進出。もう一方の山では、スルマ1pがプロの意地を見せた。決勝はスルマ1pが主導権を握ったかに思われたが、最後はシクシン1pが力でねじ伏せ、2年連続5度目の優勝を果たした。


決勝ライブ中継の様子。スルマ1pの「静」とシクシン1pの「動」が対照的

欧州選手権上位入賞者。左からシクシン1p、スルマ1p、カチャノフスキー1p、リン6d、ミティッチ6d、ジャバリン1p、ポップ7d。(写真:Misha Krylov、欧州囲碁連盟)

 欧州選手権は1週目で終わるが、オープン選手権はさらに1週間継続される。ただ、欧州のトッププレーヤーは欧州選手権が終わると滞在を切り上げる者も多く、2週目は人数がかなり減る。オープン選手権は10回戦で争われ、中国のトッププロの一人である張涛(ツァン・タオ)5pが10戦全勝で優勝した。2位には同じく中国の女流プロである李小溪(リ・シャオシ)2p、3位にはスルマ1p、4位には昨年優勝の金永三8d(韓国)が入賞した。


集合写真。(写真:Misha Krylov、欧州囲碁連盟)

オープン選手権の入賞者。左から二人目より張5p、李2p、スルマ1p、金8d。(写真:独囲碁連盟、欧州囲碁連盟)

 来年のコングレスはイタリアのピサ(http://egc2018.it/en/)で開かれる。イタリアでコングレスが開催されるのは2006年のフラスカーティ以来となる。その後は2019年のベルギー・ブリュッセルの開催が決まっている。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年7月25日 ]

パンダネット杯欧州チーム選手権、ロシアが優勝


優勝したロシアチーム。左からティムール・サンキン6d、ドミトリー・スリン6d、イリヤ・シクシン1p、グレゴリー・フィオニン7d、ナタリア・コバレバ5d。(写真:独囲碁連盟、欧州囲碁連盟)

 パンダネットが主催する国別対抗の欧州チーム選手権決勝ステージが、欧州囲碁コングレス開幕に先立って独オーバーホフで開催された。2016年9月から今年5月にかけて一月一局のペースで行われた予選ステージを勝ち抜いたのは、ロシア、ウクライナ、ルーマニア、ハンガリーの四カ国。
 決勝では、総当たりリーグ3回戦の結果、ロシアが3勝0敗で優勝を飾った。2位はルーマニア、3位はハンガリーで、昨年優勝のウクライナは4位に終わった。イリヤ・シクシン1p、アレクサンドル・ディナーシュタイン3pを擁し、3-4将も6dを揃えるロシアは全12局中11局を制し、最終戦を待たずに優勝を決めた。ロシアは予選ラウンドでも6勝3引き分けと負けなしで、優勝まで不敗という快挙を達成した。ロシアは2011-2012年のシーズンにも負けなしの優勝を果たしている(予選8勝1引き分け、決勝1勝2引き分け)。ロシアの優勝は2010-2011年、2011-2012年、2013-2014年のシーズンに続き4度目。7回の開催で優勝4回、準優勝2回という結果からもその圧倒的な力がわかる。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年7月18日 ]

2017年プロ入段手合、クラベッツ7dが入段:
2年連続でウクライナ勢がプロに

 2017年欧州プロ入段手合の最終段階が7月13-14日にかけてチェコのパルドゥビツェにおいて開催された。準々決勝から決勝までの対局が打たれ、ウクライナのアンドリー・クラベッツ7dが勝利、欧州囲碁連盟として6人目のプロとなった。クラベッツ7dは昨年決勝で同じくウクライナのアルテム・カチャノフスキー7d(当時)に敗れており、見事雪辱を果たした。ウクライナ出身のプロとしては、韓国棋院の女流マリア・ザハルチェンコ1pがおり、クラベッツ7dが3人目となる。


入段を果たしたクラベッツ7d。
(写真:Sona Smolarikova、欧州囲碁連盟、以下同)

決勝で敗れたリン6d。

ベスト4に入る活躍を見せたヴェルティケ6d。

  準々決勝 準決勝 決勝
メロ(ハンガリー) リン リン クラベッツ
リン(オーストリア)
ファンザイスト(オランダ) ファンザイスト
バスケス(スペイン)
ブルゾ(ルーマニア) クラベッツ クラベッツ
クラベッツ(ウクライナ)
ポドペラ(チェコ) ヴェルティケ
ヴェルティケ(ドイツ)

 最終段階3ラウンドを振り返ると、準々決勝では大ベテランのファンザイスト7d(オランダ)が今大会の「台風の目」オスカル・バスケス4d(スペイン)の進撃を老獪な打ち回しで止めた。ドイツのヨナス・ヴェルティケ6dは有力候補のルカシュ・ポドペラ7d(チェコ)を破る番狂わせ。このほかでは、ヴィクトール・リン6d(オーストリア)がチャバ・メロ6d(ハンガリー)を、クラベッツ7dがコルネル・ブルゾ6d(ルーマニア)をそれぞれやぶってベスト4に進出した。 準決勝は共に熱戦で、リン6dとファンザイスト7dの対局はシーソーゲームの結果リン6dが半目で際どく差し切った。一方クラベッツ7dとヴェルティケ6dの碁は、クラベッツ7dが序盤にミスを咎めて一気に優位に立ち、ヴェルティケ6dの凄まじい追い上げを喰らったもののなんとか振り切った。決勝は、お互いの緊張感を反映するように、双方が手堅く構える重苦しい序盤となったが、クラベッツ7dがここでも機敏に立ち回って厚い碁に導き、最後は中押し勝ちを収めた。

  クラベッツ7dはウクライナ西部のリウネ生まれで26歳。リウネはカチャノフスキー1pの生まれ故郷でもあり、お互いに切磋琢磨し合う仲だったようだ。2002年には欧州青少年選手権の12歳未満の部門において2kで優勝した(その時の3位はカチャノフスキー6kだった)。その後16歳で首都のキエフに移り、強豪に揉まれて欧州トップクラスの実力を得るに至った。2012、2015年にはウクライナチャンピオンの座についている。一時は鑑定士として働いていたが、ウクライナ国内での生活が楽でなかったことや囲碁への思いが強かったことから欧州プロシステムの枠内で創設された中国でのトレーニングに志願。以前の丸太ん棒を振り回すような強烈な力碁からバランスのある碁への脱皮に成功した。昨年の世界アマでは、4位に食い込んでいる。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年7月5日 ]

三星火災杯ワールド囲碁マスターズ統合予選、
「ワールド組」でスルマ1pが枠抜け

 三星火災杯ワールド囲碁マスターズ統合予選が6月末から7月頭にかけて韓国棋院で開催された。中国、台湾、韓国、日本以外の国のプレーヤー枠である「ワールド組」には12人が参加した。内訳は、北米プロ3人、欧州プロ4人に加え、ベトナム、インドネシア、アルゼンチン、南アフリカから各1人ずつ。欧州プロはリジー1p、ジャバリン1p、カチャノフスキー1p、スルマ1pというメンバーである。

ライアン・リー(カナダ) チョウ チョウ チョウ スルマ
グアン・チョウ(南アフリカ)
アリ・ジャバリン(イスラエル)
グエン・マン・リン(ベトナム) ルイ ルイ
エリック・ルイ(米国)
パボル・リジー(スロバキア)
タエチャムアビット・ヌッタクリット
(タイ)
ヌッタクリット シー スルマ
ルシアノ・サレルノ(アルゼンチン)
ガンシェン・シー(カナダ)
フィトラ・ファイシャル・ウマル
(インドネシア)
カチャノフスキー スルマ
アルテム・カチャノフスキー
(ウクライナ)
マテウシュ・スルマ(ポーランド)

 決勝に進出したのは先日中国リーグで好成績をあげたスルマ1pと南アフリカの実力者で第24回の世界アマで5位に入賞した経験があるグアン・チョウ・アマ。スルマ1pはカチャノフスキー1pと米国プロのシー1pを、チョウ・アマは先日世界戦で陳耀燁9pを破ったリー1p、ルイ1pの米国プロ2人と欧州のジャバリン1pをなぎ倒した。結果はスルマ1pが勝利し、9月の本戦への出場権を得た。ここまで欧州では大きな大会での優勝経験がなく、プロの中でやや隠れた存在だったが、ここにきてその実力が花開きつつある。


枠抜けしたスルマ1p。落ち着いた対局姿が印象的である。(写真:筆者)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年6月27日 ]

欧州チーム、中国丙級リーグに参戦


欧州チームとスポンサー。左から4番目よりジャバリン1p、リジー1p、シクシン1p、スルマ1p、黎婷1p。(写真:欧州囲碁連盟、以下同)

 6月の第2週から第3週にかけて、中国団体リーグが浙江省衢州で開催された。Cリーグに相当する丙級リーグには、欧州チームが初めて参加した。参加は、欧州プロ側の発意を受けて、欧州プロシステムの創設に大きく貢献した関西棋院の黎婷(リ・ティン)1pの仲介で実現、おかげでチームは複数スポンサーの支援を得ることにも成功したという。

 丙級リーグには1チーム4人から構成される26チームが参加。7戦を経て、上位3チームが乙級リーグに昇格するというシステム。中国の若手プロが参加者の大半だが、そこには過去に世界戦優勝経験のある邱峻9pなども混じり、ハイレベルな戦いが繰り広げられる。

 現在5人いる欧州プロは内部予選を実施し、上位4位のイリヤ・シクシン1p(ロシア)、アリ・ジャバリン1p(イスラエル)、パボル・リジー1p(スロバキア)、マテウシュ・スルマ1p(ポーランド)が参加することとなった。欧州チームは第3-5戦でタイに持ち込む健闘を見せたが、残りの対戦に敗れ、3引き分け4敗の成績で、残念ながら最下位に終わった。

 しかし、高水準の中国リーグでの苦戦ははじめから予想されていたことで、むしろ全員が勝利を上げたこと、そして就中4将のスルマ1pが途中4連勝を記録して4勝3敗と勝ち越したことを褒め称えるべきだろう。こうした国際舞台での経験が自信につながり、それがかならずや周囲によい影響を及ぼしていくだろう。


4将のスルマ1pは好成績をあげた。

ホテルでの検討の様子。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年6月20日 ]

2017年欧州入段手合第1ラウンド:ベテランと若手が拮抗

 2017年の欧州入段手合が始まった。オーストリア・ウィーンでの第1ラウンドが6月15-16日にかけて行われ、16人が参加した。この段階では敗者復活戦を含む3試合が行われ、2敗を喫した選手8人が脱落するシステムである。
 参加者は以下の通り。

1 アンドリー・クラベッツ 7d ウクライナ
2 クリスチャン・ポップ 7d ルーマニア
3 ルカシュ・ポドペラ 7d チェコ
4 ロブ・ファンザイスト 7d オランダ
5 タンギー・ルカルベ 6d フランス
6 ビクトール・リン 6d オーストリア
7 コルネル・ブルゾ 6d ルーマニア
8 ティムール・サンキン 6d ロシア
9 ルカス・クレマー 6d ドイツ
10 バンジャマン・ドレアンゲナイジア 6d フランス
11 チャバ・メロ 6d ハンガリー
12 スタニスワフ・フレイラック 6d ポーランド
13 ボグダン・シューラコフスキー 6d ウクライナ
14 ヨナス・ヴェルティケ 6d ドイツ
15 ベンヤミン・トイバー 6d ドイツ
16 オスカル・バスケス 4d スペイン

 欧州ランキング上位のプレーヤーのうち、参加を希望した選手に加え、スポンサーである中国のCEGO社がワイルドカードとして選んだスペインのバスケス4dが、欧州6人目のプロを目指して争うこととなる。選ばれる人数は昨年同様わずか1名である。若手の前に、どこまでベテランが頑張ることができるか、また、「東高西低」の欧州囲碁界で、どこまで西側の選手が結果を残せるかも気になるところである。



メロ6d(左)は一回戦、ドイツチャンピオンのクレマー6dと対局。



元日本棋院院生で、富士通杯などの参加歴もあるファンザイスト7d。(写真:Sona Smolarikova、欧州囲碁連盟、以下同)

 第一回戦から2連勝で難なく決勝ラウンドに駒を進めたのは、優勝候補の一人であるチェコのポドペラ7dに加え、意外や意外(?)メロ6d、ファンザイスト7d、ブルゾ6dのベテラン勢だった。逆に、2連敗で早々と脱落したのはサンキン6d、クレマー6d、シューラコフスキー6d、ポップ7dの4人。クレマー6dやポップ7dは優勝戦線に絡むかと思われただけに意外な結果であるが、それだけ競争が激しいことの証左だろう。

 第3回戦では、1勝1敗者同士が激突。ここで、スペインのバスケス4dが見事フランスのルカルベ6dを撃沈する快挙を成し遂げた。その成長ぶりはまさに「士別れて三日…」と言ったところか。


 これ以外では、リン6d、クラベッツ6d、ヴェルティケ6dが生き残った。結果としては、ベテランと若手、東西が見事に対峙した結果となった。決勝ラウンドは7月13-14日、チェコのパルドゥビツェにて開催される。対戦表は以下の通り。

  準々決勝 準決勝 決勝
メロ(ハンガリー) - - -
リン(オーストリア)
ファンザイスト(オランダ) -
バスケス(スペイン)
ブルゾ(ルーマニア) - -
クラベッツ(ウクライナ)
ポドペラ(チェコ) -
ヴェルティケ(ドイツ)

 個人的には地の利があるポドペラ7dが本命、昨年決勝で涙を飲んだクラベッツ7dが対抗と思うが、両者は同じ山に入ってしまった。もう一つの山は混戦で、何が起きてもおかしくない。バスケス4dももう一発二発入れる余地があるだろう。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年6月6日 ]

ルカルベ6d、アムステルダム大会で優勝


中央が優勝のルカルベ6d。左は2位の呉7d、右が3位のボビズ6d。ボビズ6dは今年、短期間ながら日本の院生リーグに参加した。(写真:Judith Van Dam)

4位のバスケス4d。(写真:Judith Van Dam)

 アムステルダム大会が5月末に開催された。第46回目を迎える老舗の同大会だが、参加人数がここのところ減少、昨年は68人にまで落ち込んだ。今回83人まで再上昇したが、まだかつての100人超には程遠い。オランダ囲碁界そのものが低調であることも関係しているのだろうが、是非復活を目指して頑張って欲しいものだ。

 4日間、7回戦にわたる大会で勝利を収めたのはフランスのタンギー・ルカルベ6dだった。優勝候補筆頭だった、元韓国棋院院生の呉治民(オ・チミン)7dを4回戦で破る金星を挙げての堂々の優勝である。先日のグランドスラム大会でも好成績を上げ、フランスのエースとなる日も近いだろう。2位は呉7d、3位はハンガリーのボビズ6dだった。ボビズ6dも伸び盛りで、呉7d、ルカルベ6dに惜敗の内容だった。

 4位はスペインのオスカル・バスケス4d。中国で数ヶ月修行した成果がでたか、先日の欧州青少年選手権16歳未満の部で優勝するなど、絶好調。今回も実力者の5d陣をなで斬りして見事入賞した。欧州トップレベルに飛び出す日も近いかもしれない。今年のプロ入段手合にもワイルドカードで選ばれており、どこまで結果を出せるかが期待される。



KIDOカップ、ディナーシュタイン3pが優勝


優勝したディナーシュタイン3p。(写真:Judith Van Dam)

 欧州は5-6月にかけてメーデー、第二次世界大戦終戦記念日、キリスト昇天祭、聖霊降臨祭といった休日があり、これにともなった大型の連休が続く。6月に入り、聖霊降臨祭の連休に行われるのがドイツ・ハンブルクのKIDOカップである。本大会は毎年150-200人を集め、これに欧州出身のトッププレーヤー向けに行われる「トップ8」が花を添える。

 今年の「トップ8」に参加したのは、パボル・リジー1p(スロバキア)、マテウシュ・スルマ1p(ポーランド)、イリヤ・シクシン1p(ロシア)、アルテム・カチャノフスキー1p(ウクライナ)、アレクサンダー・ディナーシュタイン3p(ロシア)のプロ陣に加え、ドミニク・ボビズ6d(ハンガリー)、スタニスワフ・フレイラック6d(ポーランド)、ヨナス・ヴェルティケ6d(ドイツ)。総当たりリーグで覇を競う。

その結果、優勝したのはベテランのディナーシュタイン3p。5回戦で昨年の覇者シクシン1pに敗れたが、それ以外の対局に勝利、初優勝を収めた。先日のグランドスラムでも準優勝など、若手が上位を席巻する中で息長く頑張っている。2位は同じく6勝を上げたパボル・リジー1p、3位にはスルマ1pが食い込んだ。最終結果は以下の通り。

1 アレクサンダー・ディナーシュタイン 3p ロシア 6勝1敗
2 パボル・リジー 1p スロバキア 6勝1敗
3 マテウシュ・スルマ 1p ポーランド 5勝2敗
4 イリヤ・シクシン 1p ロシア 5勝2敗
5 アルテム・カチャノフスキー 1p ウクライナ 3勝4敗
6 スタニスワフ・フレイラック 6d ポーランド 2勝5敗
7 ドミニク・ボビズ 6d ハンガリー 1勝6敗
8 ヨナス・ヴェルティケ 6d ドイツ 0勝7敗

 先日グランドスラム大会で優勝したカチャノフスキー1pが3勝どまりとは意外な結果だが、プロ間の実力が拮抗している証明だろう。それでもプロ陣は上位5位を占め、アマ勢に力の差を見せつけた。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年5月8日 ]

グランドスラム大会、カチャノフスキー1pが優勝

第3回グランドスラム大会が4月28日-5月1日にかけてベルリンの中国文化センターにて開催された。昨年はジャバリン1pが優勝、カチャノフスキー1pが準優勝を収めている。今回の大会の参加者は以下の通り。

1 パボル・リジー 1p スロバキア
2 アリ・ジャバリン 1p イスラエル
3 マテウシュ・スルマ 1p ポーランド
4 イリヤ・シクシン 1p ロシア
5 アルテム・カチャノフスキー 1p ウクライナ
6 アレクサンダー・ディナーシュタイン 3p ロシア
7 ツァラヌ・カタリン 5p ルーマニア
8 アンドリー・クラベッツ 6d ウクライナ
9 ビクトール・リン 6d オーストリア
10 トマ・ドゥバール 6d フランス
11 タンギー・ルカルベ 6d フランス
12 ニコラ・ミティッチ 6d セルビア

 5人の欧州プロとディナーシュタイン、ツァラヌの2プロを合わせた7プロにアマチュアの5人がどこまで迫れるかが注目された。


大会には中国から張文東9p(右から四人目)、劉小光9p(右から三人目)、台湾から黒嘉嘉7p(右から二人目)も訪れた。(写真:Harry van der Krogt、欧州囲碁連盟、以下同)

プロによる多面打ち

対局の様子


 1回戦では、ドゥバール6d、ツァラヌ5p、ミティッチ6d、リン6dの4人が脱落。代わりにディナーシュタイン3p、スルマ1pとアマチュアのルカルベ6d、クラベッツ6dが勝ち上がり、8位以内、賞金獲得の権利を確保した。勝ち上がった4人はシードされた欧州プロの4人(リジー、ジャバリン、シクシン、カチャノフスキー)と2回戦で対局。欧州プロはリジー、シクシン、カチャノフスキーの3人が勝ったが、ジャバリン1pがディナーシュタイン3pに敗戦。またルカルベ、クラベッツのアマチュア勢はここで姿を消した。やはりプロは頭一つ抜けている。


決勝。カチャノフスキー1p(左)がディナーシュタイン3pを破った。
 準決勝はシクシン・ディナーシュタインのロシア勢およびカチャノフスキー・リジーの欧州プロ同士の対局となった。ロシア対局はベテランのディナーシュタイン3pが勝利。若手が欧州囲碁界を席巻する中で、快挙と言えよう。もう一方の碁は激戦となったが、カチャノフスキー1pがいわゆる「大碁の細碁」を制して決勝に進んだ。

 決勝では、カチャノフスキー1pが棋風通り手厚くうち進めて5目半を残し、初優勝を収めた。実力者ながらこれまで不思議とタイトルに恵まれてこなかったが、先日の産経プロアマで苑田勇一9pを破った底力を見事発揮した。3位決定戦ではリジー1pがシクシン1pを破った。またルカルベ6dがアマチュアとしては最高の6位に入賞した。7位入賞のクラベッツ6dと共に、今年のプロ入段候補者の最右翼である。最終順位は以下の通り。

1 アルテム・カチャノフスキー 1p
2 アレクサンダー・ディナーシュタイン 3p
3 パボル・リジー 1p
4 イリヤ・シクシン 1p
5 マテウシュ・スルマ 1p
6 タンギー・ルカルベ 6d
7 アンドリー・クラベッツ 6d
8 アリ・ジャバリン 1p

表彰式の様子。

 なお欧州囲碁連盟は9月にワルシャワで新たなグランドスラム大会を開催すると発表した。この大会はポーランド出身のマテウシュ・スルマ1pの尽力により開催されるもので、同プロは中国スポンサーからの協賛を取り付けることに成功したという。ワルシャワ中国フェアの期間中に開催される。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年4月18日 ]

3月から4月にかけて、欧州ではハイレベルな大会が目白押しである。以下ではセルビア、ルーマニア、スイスで行われた大会を紹介する。

ニシュ・オープン、ポップ7dが優勝

 ニシュはセルビア南部に位置し、ベオグラード、ノビ・サドについで同国第3番目の都市である。ニシュの囲碁クラブは今年で45周年を迎える歴史あるクラブで、ニシュ大学電気エンジニアリング学部の学生たちが集まったのがその始まりだった。まだユーゴスラビアだった時代の1989年には欧州囲碁コングレスも開催している。3月18-19日に行われた大会は記念年であることもあって大掛かりなものとなり、欧州各地から73人が参加。パボル・リジー、マテウシュ・スルマの両プロのほか、多くの強豪がしのぎを削る大会となった。

 プロ2人が2回戦で敗北を喫する意外な展開となり、最後はルーマニアのクリスチアン・ポップ7dが全勝優勝した。2位はフランスのタンギー・ルカルベ6d、3位は地元のヒーローであるデュシャン・ミティッチ6d、4位はリジー1pが占めた。


デュシャン・ミティッチ6dとポップ7dの対局。(写真:Soňa Smoláriková、欧州囲碁連盟)

左から4位のリジー1p、優勝のポップ7d、2位のルカルベ6d、3位のミティッチ6d。(写真:Soňa Smoláriková、欧州囲碁連盟)



グランドスラム予選、ルカルベ6dとミティッチ6dが枠抜け


ニコラ・ミティッチ6d(左)とルカルベ6d(中央)が枠抜けした。(写真:Raluca Ghețu、欧州囲碁連盟)

 4月最終週末にベルリンで開催される第3回グランドスラム大会には12人が参加するが、このうちすでに9人は確定している。残りの3人のうち、2人は予選の結果によって選考され、一人は「ワイルドカード」として、スポンサーである中国のCEGO社が選考する、という形となっている。

 今年の予選はニシュ・オープンの翌週に、ルーマニアの大学都市であるクルジュ・ナポカにおいて開催。二週連続で熱い戦いが繰り広げられた。参加したのは地元のクリスチアン・ポップ7d、コルネル・ブルゾ6d、ドラゴシュ・バジェナル6d、ミハイ・セルバン5dのほか、セルビアのデュシャン・ミティッチ6dとニコラ・ミティッチ6dの兄弟、チェコのルカシュ・ポドペラ7d、フランスのタンギー・ルカルベ6dの8人。誰が抜け出してもまったくおかしくないメンバーだが、それを反映してポップ、ブルゾ、ルカルベ、ミティッチ兄弟の5人が3勝2敗で並ぶ大混戦となった。5人が並ぶ、というケースはルールで想定されていなかったため、枠抜け者を決めるためにこの5人の間で総当りの早碁が行われた。この結果、ここのところ実力の伸びが著しいルカルベ6dと元日本棋院院生のニコラ・ミティッチ6dの二人がグランドスラム参加資格を獲得した。

 なお、「ワイルドカード」としてはルーマニアのツァラヌ・カタリン5pが選ばれ、これでベルリンでの最終フェーズにおける参加者12人が出揃った。



ローザンヌ・オープンIGC大会、欧州プロが席巻

 スイスでは毎年5-6大会ほどが開催されているが、このうち最も大きいのがローザンヌのスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)囲碁クラブが開催する「オープンIGC」大会である。4月8-9日に開かれた今年の大会の参加者は43人だったが、リジー、ジャバリン、スルマの欧州プロ3人に加え、韓国元院生で仏グルノーブル在住のオ・チミン8dも参戦し、豪華な上位陣の対決となった。

 実力者のオ8dが優勝候補の最右翼だったが、ジャバリン、リジーの欧州プロがオ8dを撃沈した。オ8dが欧州勢に負けるのは恐らくこれがはじめてで、快挙である。

 5回戦の結果、リジー1pはジャバリン1pに負け、ジャバリン1pはスルマ1pに負け、スルマ1pはリジー1pに負け、という三すくみとなったが、規定によりリジー1pが優勝、ジャバリン1pとスルマ1pがこれに続き、欧州プロが気を吐いた大会となった。4位はオ8d、5位はオーストリアのビクトール・リン6d、6位はフランスのタンギー・ルカルベ6dだった。


リジー1p(右)がオ8dを中押しで破った。(写真:Zoé Constans、欧州囲碁連盟)

リジー1pとジャバリン1pが最上位を占めた。(写真:Zoé Constans、欧州囲碁連盟)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年4月10日 ]

欧州ペア碁選手権、優勝はコバレバ・スリン組(ロシア)


会場となった「Maison de la Région」は、フランス「大東部(グランデスト)地域圏」の本部庁舎である。(写真:筆者、以下同)

 4月1-2日にかけて欧州ペア碁選手権がフランス・ストラスブールにおいて開催された。ストラスブールはアルザス地方の中心都市で、ドイツ国境に近く、欧州議会がおかれていることもあって国際色の強く、欧州各地から比較的アクセスのよい場所である。また、そのクラブを主宰するフネックさん親子が欧州のプレーヤー達との人脈が強いこともあって、参加ペアは28と過去最大級の大会となった。参加国も、フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、スイス、ロシア、ウクライナ、ポーランド、チェコ、スロバキア、クロアチア、セルビア、ルーマニア、キプロスと多彩。レベルも高く、12ペアが1D以上であった上、シクシナ、シクシン(ロシア)、スルマ(ポーランド)の3プロが参加する華やかな大会となった。


フランス対ウクライナ。ウクライナのルザンツカ・カチャノフスキー・ペアは民族衣装で参加。ミハイロ・カチャノフスキーさん(中央)はアルテム・カチャノフスキー1pのお兄さん。

スロバキアのクラリコバ・ジャドロン・ペアは昨年の国際アマチュア・ペア碁選手権にも参加した。ストラスブールのアクセスはいい、といっても東欧からの距離は相当なもので、右のクラリコバさんは「長距離バスで22時間かけて来た」そうだ。

 登録したペアの中ではロシアとドイツのペアが優勝候補の最右翼。ロシアは、姉弟ペアのシクシナ・シクシン・ペアが昨年の優勝者であるほか、コバレバ・スリン・ペアも常連の強豪である。ドイツは初出場のペイ・クレマー・ペアが6Dで、マルツ・パラント・ペア、エンテ・トイバー・ペアが4Dで参加した。


初参加のキプロス。実は二人ともストラスブールで学生をしていて、右のカツゥリスさんは初段の腕前。左のアレスティさんはこの大会のために囲碁を覚えた。

第2回戦、ドイツ同士の対戦。マルツ・パラント・ペア(左)とペイ・クレマー・ペア(右)。

 第3回戦ではシクシン・シクシナ・ペアとペイ・クレマー・ペアが激突、後者がプロペアを撃沈する快挙を成し遂げた。第4回戦では全勝同士でペイ・クレマー・ペアとコバレバ・スリン・ペアが対決、ロシアペアが際どく1目半を残して抜け出した。


優勝したコバレバ・スリン・ペア(右)とポーランドのストラシェヴスカ・スルマ・ペアの対局。ポーランドペアは4位入賞。

シクシナ、シクシンのロシアプロ姉弟ペアは3位に終わった。


アリ・ジャバリン1p(中央、イスラエル)がチェコ対セルビアの対局を検討。
ストラスブールのクラブは子どもへの囲碁指導に熱心で、同時に小学生向けの9路盤大会も開催された。

 コバレバ・スリン・ペアは最終第6回戦においてシクシナ・シクシン・ペアと対局。白熱した試合となったが、コバレバ・スリン・ペアが時間切れ勝ちという味の悪い結果ながら優勝を収めた。最終結果は以下の通り。

順位女性/男性段級位
1ナタリア・コバレバ/ドミトリー・スリン5Dロシア
2ツァオ・ペイ/ルカス・クレマー6Dドイツ
3スベトラナ・シクシナ/イリヤ・シクシン7Dロシア
4カタルジナ・ストラシェヴスカ/マテウシュ・スルマ3Dポーランド
5クララ・ザルツコバ/ヤン・ホラ4Dチェコ
6マーニャ・マルツ/ミヒャエル・パラント4Dドイツ
7リザ・エンテ/ベンヤミン・トイバー4Dドイツ
8シャルロット・ヴィルフォール/トマ・ドゥバール2Dフランス
9ニョシ・カオ/アントワーヌ・フネック3Dフランス
10ラウラ=アウグスティナ・アヴラム/ゲオルゲ・ゲツゥ2Dルーマニア

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年3月21日 ]

アイルランドで「孔子杯」開催

 3月4-5日の週末に、アイルランド・ダブリンにおいて「孔子杯」が開催された。この大会はアイルランド孔子学院が協賛して2012年から開催されており、囲碁だけでなく、中国象棋の大会も同時開催されるユニークな大会である。比較的賞金も高いため、毎年多くの強豪を集めている。アイルランドの囲碁人口は多いとは言えないため、今年の参加者は例年並みの約50人だったが、このうち8人が6段以上だった。


強豪の対局。(写真:欧州囲碁連盟)

キム・ソンジン7dと対局を検討するリジー1pとスルマ1p。
(写真:欧州囲碁連盟)

 優勝は韓国棋院元院生のキム・ソンジン7dだった。キム7dは現在ドイツに在住しており、欧州の各大会で好成績を記録している。2位はパボル・リジー1p(スロバキア)で、キム7dに半目まで迫ったもののあと一歩及ばなかった。3位はマテウシュ・スルマ1p(ポーランド)、4位はチャバ・メロ6d(ハンガリー)だった。

中央が優勝したキム・ソンジン7d。左が2位のリジー1p、右が3位のスルマ1p。(写真:欧州囲碁連盟)


ルーマニアで冬季囲碁キャンプが開催

 ルーマニア北部ブコヴィナ地方のヴァトラ・ドルネイにおいて、2月6-12日にかけて「冬季囲碁キャンプ」が行われた。このキャンプは同地方出身のツァラヌ・カタリン5pなどが呼びかけて実現したもので、ルーマニア全土から80人が集まった。キャンプでは青少年選手権、女流選手権、ペア碁選手権のほか、各種大会、レッスンなどが行われた。
 ルーマニア囲碁界はかつて「秀策杯」など大型の大会開催の常連だったが、ここ数年は全体的に低調気味だった。これを機会に復活が期待される。


ペア碁大会の様子。(写真:ラルカ・ゲツ、欧州囲碁連盟)

表彰式。(写真:ラルカ・ゲツ、欧州囲碁連盟)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年2月27日 ]

仏グルノーブルで開催の欧州青少年選手権、200人超を集める

 2月18日から20日にかけて、仏グルノーブルで欧州青少年選手権が開催された。フランスが欧州レベルの大会を開くのは久しぶりで、青少年選手権に関しては2003年の南仏カンヌ以来となる。そのカンヌ大会は欧州に『ヒカルの碁』ブームが到来した時期に開かれ、200人近くを集めたものだった。そして、今年の大会は組織者が大規模な大会を目指したことと、地元グルノーブルの小学校で囲碁を学ぶ子どもたちが50人近く参加したこともあり、参加者数は欧州約20カ国から219人と過去最高に達した。並行して開かれた大人・欧州以外の子供向けの大会「エリー杯」も80人以上が参加、付き添いで来た人も含めると400人近くが集まる一大イベントとなった。また、ゲストとして『ヒカルの碁』原作者のほったゆみさんが招かれ講演を行ったほか、ルーマニア在住のツァラヌ・カタリン五段、関西棋院の林耕三六段が指導役として参加した。


参加者の集合写真。(写真:Olivier Dulac)

-12トップボード、ロシア対ルーマニア。対局姿が板についている。(写真:Olivier Dulac)

-16の対局風景。(写真:Olivier Dulac)

 欧州青少年選手権の結果は以下の通り。

12歳未満(参加者92人)

1イワン・クロチキン4kロシア
2ステファン=アドリアン・ロタリア5kルーマニア
3ポリーナ・クルシェルニツカ8kウクライナ
4ジャロスラフ・クライノフ4kロシア
5フセボロド・オフシェンコ9kウクライナ
6シアン・トゥゾ8kフランス

-12では過去2年間ルーマニア選手が優勝していたが、今回は昨年4位だったロシアのクロチキン4kが全勝優勝を果たした。2位のロタリア5kは昨年19位、3位のクルシェルニツカ8kは昨年10位からの躍進だった。このカテゴリーでは東欧が圧倒的な強さだが、フランスのトゥゾ8kが6位に食い込む健闘を見せた。

16歳未満(75人)

1オスカル・バスケス3dスペイン
2バレリー・クルシェルニツキー4d クライナ
3キム・シャホフ4dロシア
4アルベド・ピトネル3dドイツ
5デニス・ドブラニス3dルーマニア
6アンドレイ・ムラモロフ2dロシア

 中国でトレーニングを積んだバスケス3dが、スペイン選手として初優勝の快挙を果たした。クルシェルニツキー4dは3年連続の2位、シャホフ4dは2年連続の3位だった。

20歳未満(52人)

1ビアチェスラフ・カイミン5dロシア
2グレゴリー・フィオニン6dロシア
3アントン・チェルニフ5dロシア
4マティアス・パンコケ4dドイツ
5マルティン・ルジカ4dドイツ
6エリアン=ヨアン・グリゴリウ3dルーマニア

 カイミン5dは昨年の-16優勝者。昨年の-20覇者であるフィオニン6dを抑えて優勝した。トップ3はロシアが占め、これにドイツ勢が続いた。どのカテゴリーでもロシアの活躍が甚だしい。昨年のロシアでの欧州囲碁コングレスにも訪れた林耕三六段曰く、「数年後、ロシアの囲碁人口は日本を超えるだろう」。子供への普及努力が素晴らしいという。


欧州青少年選手権上位入賞者。(写真:Olivier Dulac)

林六段(中央左)とツァラヌ五段が共同で検討。
(写真:Olivier Dulac)


13路盤大会には、ほったゆみさんも参加、子どもたちとの手談を楽しんだ。(写真:Olivier Dulac)

グルノーブル囲碁クラブは、イベントにあたって囲碁に関する展示を作成した。(写真:Olivier Dulac)


グルノーブル市庁舎における表彰式。クラブは市と協力して熱心な普及活動を進めている。(写真:Olivier Dulac)

「エリー杯」の表彰式。この大会は韓国棋院元院生でグルノーブル在住のファン・インソンさん(左)がスポンサーとなって開催し、欧州プロのイリヤ・シクシン(ロシア)、マテウシュ・スルマ(ポーランド)1pなど強豪が多く参加した。優勝はやはり韓国元院生でグルノーブル在住のオ・チミン7d(中央)だった。表彰式にはリヨン領事事務所の小林龍一郎所長(右から二人目)、地元出身のベラン下院議員(右から四人目)も駆けつけた。 (写真:Olivier Dulac)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年2月14日 ]

第2回欧州プロ選手権、シクシン1pが混戦を勝ち抜く

 ロシアが昨年から主催している第2回欧州プロ選手権が2月8-10日にかけてサンクトペテルブルクで開催された。会場は昨年の欧州囲碁コングレスと同じアジムート・ホテルである。

 この大会は欧州国籍を持つプロに参加資格が限られている。現在この条件を満たすのは以下の13人。

欧州囲碁連盟プロ(5)
パボル・リジー(スロバキア)
アリ・ジャバリン(イスラエル)
マテウシュ・スルマ(ポーランド)
イリヤ・シクシン(ロシア)
アルテム・カチャノフスキー(ウクライナ)

韓国棋院プロ(4)
アレクサンダー・ディナーシュタイン(ロシア)
スベトラナ・シクシナ(ロシア)
ダイアナ・コセギ(ハンガリー)
マリア・ザハルチェンコ(ウクライナ)

日本棋院プロ(2)
ツァラヌ・カタリン(ルーマニア)
アンティ・トルマネン(フィンランド)

中国棋院プロから欧州に帰化(2)
グオ・ジュアン(オランダ)
パン・フイ(フランス)

 このうち、欧州プロ5名と地元ロシアのディナーシュタイン3pを含む6名が今大会に参加、総当りリーグ戦で優勝を競った。


参加プロ。左からディナーシュタイン3p、シクシン1p、ジャバリン1p、リジー1p、スルマ1p、カチャノフスキー1p。
(写真:欧州囲碁連盟、ロシア囲碁連盟、Mikhail Krylov)

 第1回大会ではパン・フイ2pが全勝優勝を果たしたが、今大会は初日第2回戦から全勝者が消える大混戦となった。最終的には3勝でシクシン、スルマ、リジー、ディナーシュタインの4人が並んだが、「勝った相手の勝数(SODOS)」を優先するとの規定によりシクシン1pが優勝、スルマ1pが準優勝となった。3位にはリジー1p、4位にはディナーシュタイン3pが入賞した。


表彰式にて。左が優勝のシクシン1p。(写真:欧州囲碁連盟、ロシア囲碁連盟、Mikhail Krylov)
 なお、同大会は週末に行われる「中国公使館杯」とセットになっている。この関係で、中国のトッププロである柁嘉熹(トゥオ・ジアシ)九段も訪露し、対局のコメントを行った。

Youtube上のロシア囲碁連盟チャンネルでライブ解説をする柁嘉熹九段(左)
 「中国公使館杯」には中国プロを含め100人を超える参加者があり、初心者大会も盛況となった。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2017年1月30日 ]

2017年欧州プロ入段手合、6-7月に開催へ

 第4回目となる2017年欧州プロ入段手合のスケジュールが発表された。1段階のみで入段者が決定された昨年と違い、今年は2段階にわけて実施される。第1段階は6月15-16日にオーストリア・ウィーン大会の機会に開催され、1-3回戦が行われる。決勝ラウンドはそれから一ヶ月後、7月13-14日にチェコ・パルドゥビツェ大会において開催され、今年の入段者一人が決定されることとなる。決勝ラウンドが予定されるパルドゥビツェはチェコ中部の都市で、毎年7月に大規模なマインドスポーツフェスティバルが開催されており(昨年のフェスティバルサイトは こちら)、その枠内で15年来開かれている囲碁大会もチェコ有数の大会となっている。

 今年の欧州のプロ関連大会日程は以下の通り。

2月8-10日: 第2回欧州プロ選手権(ロシア、サンクトペテルブルク)
 昨年に続いてサンクトペテルブルクにて開催される。
 第1回大会ではフランスの樊麾(Fan Hui)プロが全勝優勝を飾っている。今年は、欧州プロ5人(パボル・リジー、アリ・ジャバリン、マテウシュ・スルマ、イリヤ・シクシン、アルテム・カチャノフスキー)に加え、ロシアのアレクサンダー・ディナーシュタイン3pが参加する見込み。昨年の欧州囲碁コングレスのスポンサーだった貴金属大手ポリメタルが協賛する。

3月25-26日:グランドスラム予選(ルーマニア、クルジュ・ナポカ)
4月28-5月1日:第3回グランドスラム大会(ドイツ、ベルリン)
 第3回目となるグランドスラム大会の予選は、ルーマニアの大学都市クルジュ・ナポカにて開催され、4月末から5月初頭にかけてのベルリンでの決勝ラウンドへと駒を進めるプレーヤーを決定することとなる。

7月22-8月6日: 欧州囲碁コングレス(ドイツ、オーバーホフ)
 欧州囲碁コングレスの第一週目(7月23-30日)に、欧州ナンバーワンを決定する欧州選手権が開催される。チェコでのプロ入団手合直後の開催ということになる。なお、最終的にドイツ開催となった今年の欧州囲碁コングレスのサイトは こちら

 このほかの選手権では、2011年の欧州囲碁コングレス以来欧州レベルの大会開催から遠ざかっていたフランスが、欧州青少年選手権、欧州ペア碁選手権を開催するのが目新しい。 青少年選手権は2月18-20日にグルノーブルにて、 ペア碁選手権は4月1-2日にストラスブールにて開かれる予定。

[ 記事:野口基樹 ]

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