囲碁で育む子どもたちの非認知能力 宝塚市の取り組み
囲碁には人が生きていく上で大切な「諦めない気持ち」や「思いやり」、「忍耐強さ」等の非認知能力を育む力がある。兵庫県宝塚市立の幼稚園、保育所ではそうした信念のもと2018年から保育の中で囲碁を取り入れてきました。「囲碁で遊ぼう!Let’s碁」と命名されたこの取り組みは好評で、今では宝塚市立の全園所に広がっています。
そこで今回は実際に宝塚市を訪ね、実際にどのように囲碁が取り入れられているのかを取材してきました。第1部では宝塚市教育委員会の立場から本取り組みを推進してこられた三ヶ尻桂子さん(同委員会 学校教育部 幼児教育センター 所長)に「囲碁のどのようなところに可能性を感じたのか」を、第2部では関西棋院の榊原史子六段(同院常務理事)に取り組みが始まり、広がっていった経緯をお聞きします。第3部では実際に囲碁を子どもたちに教えてらっしゃる関西棋院の藤原克也六段にその指導方法をお聞きし、第4部で子どもたち、親御さん、現場の先生方の声をご紹介します。最後に第5部で山﨑晴恵市長に宝塚市が描く子育て支援や教育のあり方と本取り組みの位置付けについてお聞きします。(インタビュア = 品田渓)
第1部 囲碁に感じた可能性
三ヶ尻桂子さん のお話
第1部では宝塚市教育委員会の立場から本取り組みを推進してこられた三ヶ尻桂子さん(同委員会 学校教育部 幼児教育センター 所長)に「囲碁のどのようなところに可能性を感じたのか」を伺いました。
囲碁との出会いを教えてください。
三ヶ尻さん)榊原先生、藤原先生による「囲碁で遊ぼう!Let’s碁」が導入された2018年、私は宝塚市立丸橋幼稚園の園長でした。導入するにあたってモデル園を募集しており、その一環で教員に向けた藤原先生によるデモ授業があったんです。私たちもそれに参加したらとても楽しくて。これは子どもたちにとっても楽しいのではないかと思いました。
デモ授業で初めて触れたとのことですが、難しさはありませんでしたか。
三ヶ尻さん)最初に囲碁と聞いたとき、私も「子どもには難しいのではないか」と思いました。ですが、藤原先生のお話はとてもわかりやすく、楽しく、まったく難しいとは感じなかったです。特に感銘を受けたのは藤原先生がとにかくたくさん褒めてくださるところ。教員だけのデモ授業でも私たちをとても褒めてくださって、どんなところに打っても絶対に否定せず、必ず前向きな言葉がけをしてくださいました。幼稚園の教育方針として、「自己肯定感を育てる」ということは大切にしていることなので、これは良いと思いました。
「囲碁遊び」では「非認知能力を育む」のを目的とされています。「自己肯定感」も非認知能力の1つでしょうか。
三ヶ尻さん)はい。非認知能力はいわゆる学校のテストでは測れない、けれど社会生活に欠かせない能力を指します。「自己肯定感」もそうですし、「コミュニケーション能力」や「あきらめない気持ち」「他者への思いやり」「主体性」「忍耐力」などもそうです。非認知能力が注目される以前から、就学前はそういう力を育てる大切な時期だという認識がありました。
「囲碁遊び」はそういう力を育むのに良いのですね。
三ヶ尻さん)そう思います。先ほど自己肯定感の話をしましたが、他にも「他者への思いやり」や「主体性」などが育まれていると思います。例えば対局前の「お願いします」と対局後の「ありがとうございました」。藤原先生は始める前に「相手がいるから楽しめる。だからありがとうだね」とお話しくださいます。義務的に「ありがとうございました」と言うのでなく、子どもにも分かりやすく「ありがとう」の大切さを伝えてくださるのです。また、子どもたちが打った手を絶対に否定しない。否定されず肯定される環境だと、子どもたちも積極的になって自分からやりたいと手をあげたり、自分の考えで石を置いたりできるようになります。
囲碁は勝ち負けがつくゲームです。勝ったり負けたりは大人でも苦手な方はいますが、子どもたちの反応はいかがでしょうか。
三ヶ尻さん)藤原先生は対局の前など、折に触れて「失敗しても大丈夫。失敗できるのはえらいこと」「負けてもいい。負けるのは次に頑張れるからいいこと」とおっしゃっています。中には負けるのが嫌いなお子さんもいますが、繰り返し何度も「負けてもいい。負けは成長できるからいいこと」と励まされ負けても諦めずに頑張る経験を重ね自信をもつことで次第に大丈夫なんだと思えるようになるようです。
お話しを伺っていて、「囲碁で非認知能力を育む」ということがよく分かりました。と同時に、これは藤原先生のご指導あってのことだなとも感じました。
三ヶ尻さん)私もそう思います。藤原先生だからできる面が大きいと思います。それと囲碁の特徴も子どもたちが受け入れやすいものがあると思います。
どういったところでしょうか。
三ヶ尻さん)まず、ルールがシンプルで、石はどこにでも打てます。まっすぐ順番に石を並べていくようなお子さんもいますが、それでもルール上ダメなことではない。最初はできないお子さんもいるのではないかと心配しましたが、自分で考え、自分で好きなところに置けることが、子どもたちに受け入れられたのではないかと思います。
以前、東京都健康長寿医療センターの飯塚あい医師が研究のため認知症の方たちと囲碁をおこなったところ「ほとんどの方がルールを覚えて対局を楽しめ、脳に良い影響が認められた」とおっしゃっていました。医師や経営者などのいわゆるエリート層に囲碁を愛好する方が多いことから「囲碁は特別な人のもの」というイメージも一部にありますが、実際には誰でも楽しめるものなのですね。
三ヶ尻さん)そう思います。もう1つ良いと思うのは、一局の中で取ったり取られたりがあることです。藤原先生は囲碁のルールを段階的に教えてくださいます。最初は、子どもたちもよく分かって楽しめる、「石は囲めば取れる」というルールから教えてくださるのですが、石を取られてしまっても、他の場所ですぐに取り返すことができるので、体感的に「失敗しても次頑張ればいい」が分かりやすい。子どもにとって「次頑張る」の「次」は長く感じるもの。囲碁は「次」がすぐに来る可能性があるので頑張れるのだろうと思います。
囲碁というゲームのシンプルさ、懐の深さに藤原先生の楽しく否定しない指導が掛け合わされて、子どもたちの非認知能力を育むことになるのですね。
三ヶ尻さん)そうですね。このように囲碁を保育に取り入れることができたのは榊原先生や藤原先生のご縁があってこそです。非認知能力を育むこともそうですが、何よりも人との関わりの中で子どもたちがいろいろ経験できる。人の温かさを感じられるということが嬉しいです。
第2部 取り組みの始まり、広がった経緯
榊原史子六段 のお話
第2部では榊原史子六段(一般財団法人関西棋院 常務理事)から、この取り組みがどのように広がっていったのか、その経緯を伺います。
榊原先生は宝塚市大使で、この取り組みの立役者だと伺っています。前例のないことだと思いますが、どのようにして広がっていったのでしょうか。
榊原六段)私は宝塚市で子育てをしていて、最初は子どもが通っていた保育園や併設されていた児童館で囲碁を教えていたんです。それもはじめから囲碁を広めたい、教えたいと思っていたというよりも、いつもお世話になっているので恩返しになればいいなと思ってはじめたような感じでした。14年前のことです。
最初は身の回りの小さな範囲ではじめられたんですね。現在全園で「囲碁遊び」を担当されている藤原克也六段と組まれたのはいつ頃でしょうか。
榊原六段)お世話になっていた児童館の館長さんから「せっかくだから囲碁イベントをもっと広げませんか」とお声がけいただき、中山寺という宝塚市の有名なお寺で親子の囲碁入門講座を行うことになりました。これは1度だけではなく、その後も毎年行い、「囲碁で遊ぼう!Let’s碁」がスタートする2018年まで行いました。藤原六段は同じ関西棋院で小さい頃からの付き合いです。子どもが大好きで教えるのが上手なのは知っていましたので、何度かその入門講座に講師としてきてもらっていました。
宝塚市が全面的にバックアップして「囲碁遊び」の導入を推進した背景には榊原先生が長年培われてきた信用があったということがよく分かりました。
榊原六段)長い間やってきたというのもありますが、ご縁に恵まれたからというのが大きいです。背中を押してくださった館長さんも、三ヶ尻さんもですし、前市長は囲碁のルールをご存じで、囲碁の良さをよく理解してくださっていました。山﨑晴恵 現市長も囲碁の教育的な効果を認め、後押ししてくださっています。藤原六段や現場の先生方の理解とサポートがあってこそ出来た事です。そして何より、囲碁そのものが持っているパワーが大きいと思います。
囲碁そのもののパワーですか。
榊原六段)私はどこで囲碁のイベントをする時も、参加さえしていただければ、囲碁を体験さえしていただければ良さは自然と伝わると思ってきました。
自信があったのですね。
榊原六段)私自身、囲碁を子どもの頃からやってきて、今でも面白くて仕方がないんです。また、囲碁を通していろいろな方と仲良くなれます。日本だけでなく世界中に愛好家がいて、世代が違っても同じように楽しめる。頭を使うので認知症予防や知育にもなる。非認知機能を鍛えることもできる。囲碁は本当に心からおすすめできるものなので、たくさんの方に知っていただきたいし、楽しんでいただきたいです。
第3部 子どもたちへの指導方法
藤原克也六段 のお話
第3部では全園で囲碁授業を担当されている関西棋院の藤原克也六段に現在の指導スタイルを確立された経緯や子どもたちへの想いを伺います。
先ほど「囲碁遊び」を見学させていただき、とても新鮮で感銘を受けました。事前に先生のスタイルは榊原史子六段から伺っていましたが、本当に子どもたちのすべてを肯定されるのですね。先生対子どもたちのチーム戦では1人1人に「いいところに置いた。拍手〜」と声がけし、石を交点ではなく、四角の中に置いていた子にも「置けた置けた。前に出てきてえらいな」と声がけされていました。この一切否定せずにたくさん褒めるスタイルは園児向けにそうしてらっしゃるのでしょうか。
藤原六段)いえ、いつもです。大人でも子どもでもまったく同じ褒めるスタイルでやっています。大人の教室でも「すごい。ええところに置けました。拍手〜」ってやっています。自分としては無理して褒めているわけではなく、本当にええところや、すごいことやと思っているんです。まず、打った、そのこと自体が凄いことなんですから。手をあげて、自分の考えを言うのなんて大人にとっても大変ですよ。それができれば花マルです。
言われてみればそうかも知れません。大学の授業でも、仕事の会議でも手をあげて自分の意見をいうのは大変です。それができたらもっと褒めてもらってもいいですよね。
藤原六段)そうですよ。何事もやってみることが大事で、それがなければ始まりませんから。それができたらもうすごいんです。
なるほど。先生は子どもたちに「囲碁遊び」を通してどんなことを受け取り、どんな風になってほしいと思ってらっしゃいますか。
藤原六段)楽しいと思ってもらって、自分に自信をつけてもらうことが一番です。私は子どもたちを強くしたいと思ってはいません。もちろん強くなったら嬉しいけど、それよりも自信を付けてほしい、いろんな経験をしてほしい気持ちの方が大きいです。人とのつながりや、勝った時、負けた時の気持ち、対戦相手への感謝、思いやり。私自身が囲碁をやっていて良かったと思うこと全部を子どもたちに伝えたい。そういう気持ちでやっています。
先生は保育士になりたいと思われたこともあるそうですね。
藤原六段)そうなんです。プロ試験を受けている時期に、プロになれなかったら保育士になってみたいなと考えたことがありました。結局試験に受かってプロになりましたが、子どもは好きだったので、ちょこちょこ子どもに教えたりなんかはしていて、20年ほど前からは本格的に子ども囲碁教室もはじめました。
そして今、保育園、幼稚園で囲碁の先生をされているのですね。
藤原六段)ほんまですね(笑)。ご縁って面白いですね。
第4部 先生、園児、保護者の方の声
第4部では「囲碁で遊ぼう! Let’s碁」を導入している市立宝塚幼稚園の先生、園児、保護者の方の声をご紹介します。
園長先生 のお話
「囲碁遊び」が導入される前の囲碁のイメージはどのようなものでしたか。
園長先生)難しいものというイメージで、子どもたちに理解できるのだろうかと不安もありました。でも、実際にやってみると藤原先生の教え方もあり、難しいものではないんだとわかりました。
子どもたちの様子はいかがですか。
園長先生)ルールをわかって楽しんでいると思います。いつもやる気いっぱいで、「今日囲碁あるよ」というと「やったー!」と歓声をあげています。普段集中するのが難しいような子でも囲碁はじっくり考えていて、子どもたちにはこんなに考える力があるのかと驚きました。
「囲碁遊び」によって、子どもたちに変化はありましたか。
園長先生)始まる前の挨拶、チーム戦でのお友達の応援などで感謝の気持ちや思いやりなど、すごくいろいろなことを学ばせてもらっていると思います。また、先生にたくさん褒めてもらうことで自信も付けて、恥ずかしがって先生の後ろに隠れていたような子が前に出て自分の手を打てるようになるなど、子どもたちがだんだんと積極的になっていっているのがわかります。
勝ったり負けたりは子どもたちにとって大きな課題ですが、競い合うことを楽しめるようになってきていると感じます。藤原先生が「負けてもいい。むしろ負けることは次に頑張れるからいいこと」と何度も言ってくださるので、子どもたちも自然と「負けても次頑張ろう」と思えるようになっているのだと思います。
年長クラスの先生 のお話
「囲碁遊び」が導入される前の囲碁のイメージはどのようなものでしたか。
年長クラスの先生)高齢の方がする高尚なゲームというイメージがあり、難しいのではないかと思っていました。しかし実際にやってみると子どもたちもすぐに理解して楽しむことができました。みんな大好きで、「囲碁遊び」の時間が終わって年長クラスの部屋に戻ってさらにやっている子もいます。
「囲碁遊び」によって、子どもたちに変化はありましたか。
年長クラスの先生)普段は集中するのが難しい子も集中していることに驚きました。毎回、「もっと知りたい」という気持ちで先生の話を聞いているのが感じられますし、囲碁を通してルール感覚を身に付けられているとも感じます。また、先生から負けることの大事さを教えていただいたことで、囲碁以外の場面でも負けることを受け入れられるようになってきました。例えば運動会で、リレーなどで負けしまっても「負けても次頑張ればいいやん。囲碁でもやったやん」と自然となって、囲碁での学びが活かされていると思いました。
保護者の方の声 *園側でアンケートを実施
「囲碁遊び」の導入で感じた子どもの変化はありますか。
保護者の方の声)
・ゲームで競い合って楽しむ姿が見られるようになった。
・ルールへの意識が芽生えた。
・取れた、勝てたという経験によって自信をつけたと思う。
・「負けても悔しいけど頑張れる」と言っていて成長を感じた。
「囲碁遊び」以外で囲碁を行うことはありますか。
保護者の方の声)
・子どもに囲碁のルールを教えてもらい、家でもやってみた。
・囲碁のアプリを入れてやっている。
・上の子は小学生になっても続けている。
園児(年長クラスのはなさん・5歳)のお話
囲碁は楽しいですか。
はなさん)楽しい。
どんなところが楽しいですか。
はなさん)友だちと対決するところ。
負けたら悔しくないですか。
はなさん)悔しくない。また頑張れるから。
第5部 宝塚市が描く子育て支援や教育のあり方
山﨑晴恵 宝塚市長 のお話
第5部では、山﨑晴恵宝塚市長に市としてこのような取り組みをする意義について伺いました。
市立の全園所で囲碁を取り入れるのは全国でも初のことで、先進的だと思います。今回は取り組む意義について伺って行きたいのですが、その前に囲碁についてどのようなイメージを持たれているか、また関わりがあれば教えてください。
山﨑市長)私の場合は父と祖父が愛好家で、よく2人で対局している姿を見てきました。当時、囲碁は男性がするものというような風潮がありましたので、私自身は打つ機会がなかったのですが、そういう環境でしたので、囲碁は身近に感じています。
先日(2024年10月6日)宝塚市の玄関口であります宝塚歌劇劇場前の「花のみち」で宝塚囲碁フェスティバル2024『100面打ち花のみち大会』というのが行われたのですが、子どもたちや女性の方も本当にたくさん来ていて、みなさんで楽しんでいる姿を見て感銘を受けました。なので、昔は難しいものと思っていましたが、現在では囲碁は誰にでも楽しめるものと認識しております。
さまざまな子ども・子育て施策をされていると思いますが、中でも力を入れていること、また「囲碁遊び」にどのような効果を期待されているのかを教えてください。
山﨑市長)宝塚市では令和5年の8月21日に子ども議会で「こどもまんなか応援サポーター宣言」をいたしました。これは未来を担う子どもたちを中心に据えた施策をしていくという宣言です。もちろんこれまでもそのようにしていたのですが、これまで以上に、積極的に子ども関連の施策を推進していく契機になりました。
私は特に子どもたちに「生きる力」をつけてあげたいと強く思っています。「生きる力」というのは例えば柔軟性とか社交性、何か壁にぶつかったときに自力で突き破って行けるような力で、いわゆる学力では測れない非認知能力と重なる部分が多くあります。囲碁はその非認知能力を高めるのに役に立つと聞き、榊原先生をはじめとする関西棋院の皆さまにご尽力いただいて市立の全園所に「囲碁遊び」を広げて行きました。小学校入学前の5歳前後というのは特に非認知能力を鍛えるのに良い年齢ということで、囲碁は子どもたちの「生きる力」を養うのに一役買っていただいているのではないかと思っています。
「生きる力」や非認知能力の観点から、今の子どもたちに特に必要だなと思うことや、昔と比較して足りないなと思うことはありますでしょうか。
山﨑市長)私は今、子どもたちには実際に経験する機会や授業をたくさんしてほしいとお願いしています。というのも、今の子どもたちはインターネットなどで知識はたくさん持っている一方で、裸足で田んぼに入ったこともないし、カエルを捕まえた時の感触も知らない子どもも多いです。実際に何かを体験する機会がなかなかできません。ですが、何かが起きた時には過去に経験したことの中から解決策を探りますよね。そういう引き出しの多さは、知識ではない、実際経験した積み重ねが「生きる力」を育むのに非常に大切だと思っています。
これまでの取材の中で、子どもたちが「囲碁遊び」の中で勝った時のマナーや負けた時の気持ちの切り替えを学んでいると知りました。「囲碁遊び」も勝負をするという経験の1つですね。
山﨑市長)そうですね。他にも市立の全小学校で平田オリザさん監修の演劇的手法を用いた授業なども取り入れていますし、地域の方々と一緒に子どもたちがニホンミツバチの養蜂を通して物事が循環していることを学べるような取り組みも進めています。
演劇的手法の授業は6年生時に行うのですが、演技を通じて普段一緒にいる子の知らなかった一面が見えて、「この子はこういう良いところがあるんだ」「こんなところもあるんだ」と関係性がほぐされ、再構築される効果があります。小学高学年になると「この子はこういう子」と役割や関係性が固定化していたりするのですが、それがほぐされることでお互いのありのままを受け入れられるようになる、そのきっかけになるようです。
養蜂は子どもたちに豊かな自然を感じてもらうと同時に、自然も地域経済も循環していることを体験するという狙いがあります。市に古くからある温泉旅館の屋上にミツバチの巣箱を置き、近くにある文化芸術センターの屋上に子どもたちに菜の花を植えてもらい、その菜の花の蜜を吸った蜂が作った蜂蜜が商品になり、自分たちが口にする。自然の中でほんの少し怪我をしたり、蜂や人の営みや循環を感じたりすることは、これからを生き抜く上で役に立つ経験だと思います。
教育格差とともに体験格差が広がっていることが問題になっていますが、市のそうした取り組みは体験格差の是正につながりそうですね。
山﨑市長)可能な限り市立の幼稚園、保育園、学校で体験格差を埋めていけるように取り組んでいこうという考えで施策を進めています。
「囲碁遊び」で囲碁を体験した子どもたちがその後、囲碁を続ける場所というのも必要になってくるかと思うのですが、小学校、中学校で何かお考えのことはありますでしょうか。
山﨑市長)今、教員の働き方改革の流れもあり、部活動の地域移行が進められています。学校ごとに部活動をするのではなく、地域の中に受け皿を作って、そこにいろんな学校の子が行くということですね。これは国の方針で決まっており、全国各地で段階的に取り組んでいくことになります。
地域移行された時に重要なのは受け皿になってくださる先生がいるかどうかなのですが、「囲碁遊び」でお世話になっている関西棋院さんにご協力いただいて、藤原先生にご指導をお願いしたいなと、そのように考えています。
つまり、地域の部活動でのご指導が藤原先生。それは子どもたちも安心して続けられますね。
山﨑市長)宝塚市は囲碁が盛んで、宝塚囲碁フェスティバルをみても老若男女、たくさんの市民の方が囲碁を楽しんでいらっしゃいます。幼稚園、保育所で囲碁を学んだお子さんがご両親やお祖父さんお祖母さんと一緒に囲碁を打つこともあるでしょうし、地域の中で世代の違う方と対局することもあるでしょう。囲碁を通じて非認知能力を鍛え、家庭の中で3世代が仲良くなり、地域の交流も進む、そのようになっていったらいいなと思っています。