11月 思い出の一局
囲碁もプライベートもアクティブに取り組んでいらっしゃる大澤奈留美四段の近況写真や直筆お手紙をご覧いただけます。
女流棋士の思い出の一局では、担当の女流棋士の印象に残っている一局をご紹介します。対局当時の状況や気持ちを振り返っていただき、その当時の思いを皆さまにお伝えします。 続きを読む
大澤奈留美四段 思い出の一局
- 1999年8月20日 第21期 女流鶴聖戦 決勝
- 黒番:小林泉美女流棋聖 白番:大澤奈留美初段
286手完白4目半勝
棋譜の拡大版は こちら
指導棋士プロフィール
思い出の一局は、初めて女流タイトル戦の決勝戦を打った時の一局をご紹介します。
当時、この対局の前年に入段したこともあり、この女流鶴聖戦に参加するのは初めてでした。
予選から対局し、本戦1回戦を勝ち上がり、日本棋院で棋士の友人達と談笑をしていた際に、ある棋士に
「女流鶴聖戦って持ち時間どのくらい?」と聞かれたので「1時間使い終わったら60秒の秒読みだよ。」と答えると、みんなびっくりした顔をして、「30秒だよ!!」
と言われた事を今でも良く覚えています。
それまで予選から4局とも全部秒読みに入ったと思いますが、ずっと60秒だと思って打っていた自分に衝撃を受けた瞬間でした。
その時は、入段して間もないこともあり、一局一局打てるだけで、とても新鮮で楽しかったです。
(今、初心を思い出しました)
そんな呑気な感じで、勝ち上がると思っていなかったので、決勝戦を意識したのも準決勝に進出してからでした。
決勝戦の前日は
(ひどい碁を打ったらどうしよう…。)(序盤でつぶれたら…。)
などと考えて不安でしたが、当日はお天気も良かったので気分も晴れ晴れとし、(のびのび打とう)とだけ心がけました。
序盤は黒は実利を先行し、白は攻めを見ながら、勢力を拡げて行き、お互いの棋風が表れた碁になりました。
序盤は私なりにのびのびと打っていましたが、中盤手前、秒読みに入ってからの私のパニックぶりは、目を見張るものがあり、白122を決めてからの124手目や、136手目などは危なっかしいにもほどがありますが、134手で黒の3子を制し、上辺の黒5子を取り込み、右下の白をしのいで白優勢となりました。
その後も212手と切り、果敢にコウに挑んだものの、コウ材を使用しないなどの謎の現象が起き、損を重ねましたが、最後はなんとか残すことが出来ました。
決勝戦の大盤解説場には家族や棋士の友人達が応援に駆け付けてくれ、優勝が決まり、弟が泣いて喜んでくれたそうで、弟孝行が出来て良かったです。
棋士の友人達には「一手一手にハラハラしたよ。優勢なのに勝ちたくないみたいだったよ!」と言われました。
中盤以降はパニックに陥った記憶しかありませんが、周りの人も喜んでくれ、うれしい初優勝でした。