3月 思い出の一局
ご自身の中で残念な一局としての印象の残る、第26期女流本因坊戦についてご紹介していただきました。
女流棋士の思い出の一局では、担当の女流棋士の印象に残っている一局をご紹介します。対局当時の状況や気持ちを振り返っていただき、その当時の思いを皆さまにお伝えします。 続きを読む
矢代久美子六段 思い出の一局
- 2007年 第26期女流本因坊戦 挑戦手合第2局
- 黒番:矢代久美子女流本因坊 白番: 謝依旻女流最強位
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指導棋士プロフィール
ファンの方の印象に残るような碁を打つのが目標です。
自分の中で大切に残る「思い出の一局」もいいけど、どちらかというと、見てくださった方の思い出になる一局を、作りたい。
私も棋士のひとりとして、そんなことを日々胸に抱きながら生きているのですが。
しかし、過去20年間の長い長い棋士生活を振り返ってみて……残念ながら、一局しか思い出せませんでした。
残念な、一局。
2007年、女流本因坊戦挑戦手合第2局。相手は謝依旻さんで、私の黒番です。
シリーズ一局目、半目負けからのスタートでしたが、内容的にはいい勝負だったので気にしてなかったと思います……(すみません、正直 、当時の心境はよく覚えてません。昔過ぎて)。
覚えてるのは、終局直前の雰囲気だけです。
218手目、白が上辺押さえたところで終局(のはずでした)。
そのあとダメ詰めしながら、中央が味悪いなあとは思ったんですが、目あり目なしかと……最終手のタケフだけが見えてなかった。
不思議ですね。
ということで、異様な雰囲気での終局になってしまいまして(すべて自分の責任)。
いくら目算が不得手な私といえど、滞りなく終局すれば勝ってることは分かっていたので、かなり放心状態でした。
立会の武宮先生が雰囲気を和ませて検討をすすめてくださったのですが、自分が何を喋っていたのかまるで思い出せません。
思い出せるのは、最終手を打った時の謝さんの辛そうな顔とか、そのまえ、ダメを詰めている段階で既に「早く手入れしろ」という空気を醸し出させていたこととか。
だけどこちらとしては手がないと思ってるから手をいれるわけにはいかないし……
返す返すも、間抜けな私のせいで、周りの方に嫌な思いをさせてしまいまして、ほんともう、すみませんとしか……
でも、そんな細かい碁じゃなかったから、投了してくれればこんな恥をかかなくてすんだのに! とはちょっと思いましたけど(笑)。
もうすっかり過去のできごとなのですが、お会いしたファンのかたから未だに「あの時の逆転は~」みたいな話をされることがあって、覚えていただいてることが嬉しいなあと思いつつも、ちょっと複雑です。
早く記憶を上書きできるように頑張ります。