林耕三六段の「わくわくワールド囲碁紀行」
関西棋院の林耕三六段に世界の囲碁事情をご紹介いただくことになりました。
各地での指導碁の様子や棋活をぜびご覧ください!
ブルターニュ地方ピリアック村「フランス碁キャンプの旅」
ボン ジュール ブルターニュ!
日本の自宅を出てから約32時間。フランスのブルターニュ地方、ピリアック(Piriac)村に到着しました。フランスを碁盤に見立てますと、1の七の地点ぐらいで、大西洋がもう目の前。海の向こうはイングランドです。
なんでそんな遠いところへ関西の棋士が来たかと申しますと、毎年7月10日前後から開催される「フランス碁キャンプ」に参加するためです。フランス全土から参加者が来て、約2週間「囲碁と美味しいものと、楽しい遊びと、海と自然を楽しむ」ために集まります。私が初めてこのフランス碁キャンプに参加したのは、2012年。南フランスのベルモン村という、一番近い都市のモンペリエから車で約2時間半という田舎で開催されていたころからです。ベルモンはすごく田舎で何もありません。しかし、私には、その「何もない感じ」が大好きでした。しかし、そのベルモン村での碁キャンプは、宿泊場所の旅籠が廃業したため、開催不可能になりました。
今回のピリアック村の会場の「パルク デュ ギベル(Parc du Guibel)」に到着したときには、もう皆さんが囲碁をされているという雰囲気でした。囲碁をやりながら、他のゲームもやっているのがフランス流です。
会場周辺は宿泊のコテージやテントがいっぱい。約600人が収容できるキャンプ施設です。
この日のお昼ご飯は、「山盛りのムール貝」です。ここの食堂のムール貝は、口に入れると溶けながら、海の味を、塩の味を味覚に運んでくれます。もちろん、テーブルの上には白ワインが「いくらでも飲めっ!」といわんばかりに置かれています。ムール貝も、無くなったらすぐに山盛りでおかわりが来ます。いくらでもお腹に入りそう。大阪でこれだけのムール貝を食べて、白ワインを飲んだら、いったいいくら取られるんやろうと、変な目算をしてしまいます。私は囲碁の目算はダメですが、こういう目算なら、なんぼでも出来ます(笑)あー、あと2食、ムール貝がでてきたら、旅費のもとが取れますね。
白ワインとムールに満腹して、腹を引っ込めるために歩いて15分の海へ向かいました。沖縄三線は、ヨーロッパ囲碁イベントの際は必ず持参しています。砂浜の一画に座って、沖縄島唄をフランス語なまりの沖縄言葉で唄います。唄うは琉球古典。お客様は、この海に遊びに来ていた、子供さんたちやおっちゃん達。ちなみに私は、地元大阪では、沖縄音楽ライブをやります。
こうやって書いていますと、「何や、林は遊んでばっかり」と思われるでしょう。(実はそうなんですが・・・)フランス碁キャンプでの私の業務は、1、午前中は参加者の対局のコメントをする。2、夕方から8面打ちの指導碁、3、夜の食事が終わってから、挑戦者の挑戦を受ける(だいたい3面から4面打ち)。対局のコメントや、指導碁後のコメントはすべてフランス語です。フランス語は、この「フランス碁キャンプ」で覚えたようなものです。フランス語は大阪弁みたいなところがあって、私には覚えやすい言語でした。
ここでフランス人のアレクサンドラさん(女性)との指導碁を紹介しましょう(※1図)。アレクサンドラさんはフランスで12級。日本では初段1級は十分にあります。フランスメンバーは多面打ち指導碁のとき、少なめの置き石で挑戦してこられます。
今年の私のテーマは「AI流置き碁」です。5子局です。アレクサンドラさんは地を囲うのが好きです。このあと私は黒地に入ることができず、地合い大差で投了しました。
別の対局を紹介します。こちらは男の人との指導碁です(※2図)。白9までのようになったとき、黒はこの割りうちの白1子を「攻めようと」としてきました。白は6を利かし、10、12と逆に脅かし、白14と「次のサンサン」を急ぎます。そうして、いつのまにか白62みたいな展開になり、最後のヨセで白が地合いに追いつきました。こういうパターンになると白の勝率が(2子局~5子局)9割でした。他にもいろいろなパターンがありますが、これはまた別の機会にご紹介します。
ピリアック周辺の観光に、昔からの城壁の村「ゲランド」があります。このとんがり頭の城壁が良いですね。この中に入ると、市場や商店街があります。ゆるゆる周っても約1時間で全部見ることができる村です。近くには、世界的に有名な塩田があります。最近「ゲランドの塩を使っています」と宣伝しているパン屋さんをよく見かけます。ほんまかいなと疑ってみたくなりますが(笑)ここの塩を、フランスのミシュランシェフは、こぞって買いに来るそうです。でも普通に地元のスーパーで「ゲランド」の塩は売っていました。
「フランス碁キャンプ」のことは、まだまだ語りたいことがたくさんありますが、またの機会に。ありがとうございました。